生き抜く力を育てる「余白の時間」…無力な親ができることは?【「教育」が「虐待」に変わるとき 第3回】
Woman.excite / 2019年5月30日 17時0分
![生き抜く力を育てる「余白の時間」…無力な親ができることは?【「教育」が「虐待」に変わるとき 第3回】](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/womanexcite/womanexcite_E1558581232227_0-small.jpeg)
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先行き不透明なこの時代、子どもの将来に不安を感じる親が、わが子になるべくたくさんの教育をほどこそうとする風潮があります。
ですが、中には子どもが大きな負担を強いられているようなケースや、課題をさぼったり期待通りの成果を出さない時に、つい強く叱りすぎてしまったり、時には罰を与えてしまったり…。そんな話を聞くことも決して少なくはありません。
どこまでが教育で、どこからが虐待なのか? 何が親をそこまで駆り立ててしまうのか?
『追いつめる親』『習い事狂騒曲』の著者であり、教育ジャーナリストのおおたとしまささんにインタビュー。第3回は、おおたさんが考える「これからの時代に必要な力」についておうかがいします。
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お話をうかがったのは… おおたとしまささん
教育ジャーナリスト。麻布中高卒業、東京外国語大学中退、上智大学卒業後、リクルートにて雑誌編集。独立後、多数の育児・教育関連媒体の編集・企画に関わる。学校や塾などの教育現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察する筆致に定評がある。しつけから中学受験、夫婦関係までをテーマに、講演・メディア出演も多数。中高教育の資格、カウンセラーの資格。小学校教育の経験もある。『ルポ塾歴社会』『名門校とは何か?』『受験と進学の新常識』『中学受験「必笑法」』など著書は50冊以上。『追いつめる親「あなたのため」は呪いの言葉』の改訂版が2019年7月に出版予定。
■あれもこれもの器用さはいらない! たった1本のナイフを磨き鍛えること
――これからのグローバル時代を、子どもに「たくましく生き抜いてほしい」と願う親御さんは多いと思うのですが、どんな力が必要になるとお考えですか?
おおたさん:私は、真のグローバル教育というのは、例えば、手元には1本のナイフしかないけど、これを使って森の中でどう生き延びるか? というようなことを考える訓練をつむことだと思っています。
よくグローバルな人になるためには、英語やらディベート力やらあれこれ必要だと言われますが、大切なのはどれだけ多くのツールを持っているかではなく、自分の中の個性的なナイフをどれだけ鍛えておくことができるかだと思います。
あれもこれもとツールを与えすぎることは、逆に子どもたちが本来持っているナイフをさびつかせてしまうことになりかねません。
――たくさんの道具を与えるのではなく、本来子どもが持っている「1本のナイフ」を鍛えることが大事なのですね。
おおたさん:親が与えすぎると、子どもは自分で選ぶことも考えることもできなくなります。それでは、よく言われる「指示待ち人間」になってしまいますよね。「指示待ち人間」ではこれからの世の中生きていけないということは、もう親御さんはとっくにわかっているはずです。
――確かに。…そのはずなのに、気が付けばつい与えすぎてしまう。いったいなぜ!?
おおたさん:親自身が与えられる以外の生き方を知らないからでしょう。必要な武器を自分で考えて、自分で手に入れて、自分で磨くという経験がないから、不安で怖い。だから、子どもにあれもこれも与えようとしてしまうのです。
周囲に、「自分の道は自分が選ぶ」と言える大人がどれだけいるでしょうか? 大人たちが自分で自分の道を選んでいくことができていないから、無意識のうちに子どもたちにも自分の道を選ばせまいと仕向けてしまうのです。
■ボーっとする時間…「余白」が子どもを育てる
おおたさん:もちろん、子どもにたくさんの機会を与えてあげたい、いろいろな能力を伸ばしてあげたいという親の気持ちは間違っていませんし、よくわかります。
例えば、習い事をつめこんでしまうのも、どこにどんな才能があるかわからないから、いろいろなことをやらせて引き出してあげたいという気持ちからだと思います。
ですが、そもそも子どもというのは、ボーっとしている時間に一番育つのです。そういう時間を奪ってしまったら、育つものも育たなくなってしまいますよ。
――ボーっとしている時間に育つものとは?
おおたさん:子どもは暇な時間があれば、それをどう使おうか考えて、そこで自発性が芽生えます。
例えば、暇な時間があって、本を読んでも絵を描いてもつまらない。で、今度は庭に出て虫を取ってみたら、「あ!これ、すっごく楽しい!」と時間を忘れて取り組めたとします。
そうすると、自分が何を好きで、何をしている時が幸せで、何を欲しているのかを感じ、自分自身を知ることができます。それが、「人生の羅針盤」を作るのです。
幼児期は、その羅針盤に気づいて、それを使いこなす訓練をたくさんしなければならない。そのために必要なのが、ボーっとする時間なのです。
常に予定を埋められて、ボーっとする時間を奪われると、人生の羅針盤を使いこなせない人になってしまいます。主体性なく、なんとなく世間的に良いと言われる方向を向いて生きるしかなくなった状態で、いくら高学歴や仕事スキルを得ても何の意味があるのでしょうか?
――暇な時間に自ら考えて動いているうちに「人生の羅針盤」を築いていくのですね。
おおたさん:親が子どもにいろいろなことを与えるのは、例えるなら、スマホに使うのか使わないのかよくわからないようなアプリを、とにかく大量に入れるようなものです。
特に、今の親御さんは、正解がわからないといわれているこれからの時代に向けて、使えそうなアプリを全部入れておかなければという発想になって、インストールすることにばかり時間を費やしてしまっているように思います。
でも、本当にやらなければならないのは、スマホ自体の性能をあげることです。OS(基本ソフト)やCPU(中央演算処理装置)をアップデートして、将来、アプリをサクッとダウンロードできるような本体にしてくことが大事なわけです。
そもそもの優先順位が間違ってしまっているのです。
■習い事は何のため? 結果を求めすぎて奪われる「3つの時間」
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おおたさん:また、私は、習い事はスキルを身につけることが目的ではないと思っていて。習い事の目的は、「夢中」になって「達成」して「挫折」して「克服」する、この4つのサイクルを経験し人間的に成長することだと思っています。
――具体的には、どういうことでしょうか?
おおたさん:例えば、子どもが水泳に夢中になって、25メートルが泳げるようになったり、何か目標を達成したりするとします。でも、がんばればがんばるほど、思うようにタイムが伸びなかったり、必ずどこかで壁にぶちあたる時がきます。
そこで、子どもが「もう辞める」とくじける。でも、それでもがんばってみようと乗り越えた時に、ネガティブな部分を克服するというすばらしい経験をすることができるのです。こうした経験は、勉強やほかの体験にも応用が効きます。
――なるほど…。でも、習い事にスキルの獲得を求めてしまっている親御さんも多いように感じます。
おおたさん:「ボーっとする子どもの時間を奪っていないこと」「子どもの基本的な成長に必要な時間を奪っていないこと」「家族の時間を奪っていないこと」、その3つの時間が確保できるうえなら、スキルを獲得するためでも良いと思いますよ。でも、少しでも空き時間があると「もったいないから」とつめこむのは大きな間違いです。
――話はちょっと変わりますが、一時期、幼児教育ブームが起こり、本を数千冊読んだり高い飛び箱を飛んだりという園の教育がメディアで称賛されていましたが、おおたさんはどう思われましたか?
おおたさん:サーカス団に入れれば、クマだって玉乗りするしライオンだって火の輪をくぐりますよね? それと同じで、子どもだって鍛えればできるようになるかもしれません。
でも、「それに何の意味があるのですか?」ってことなのですよ。本は数千冊読んだからすごいのでしょうか。1冊の本にこだわって何度も読み返すことだって大事ですよね。
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実際、子どもは気に入った絵本を何度でも読みたがります。子どもには子どもの物差しがあるのに、大人が子どものことを知らないから、大人の価値観で「数千冊も読むのはすごいこと」と決めつけてしまう。
逆に、数千冊読むことで損ねていることもある。そういう視点も持ってほしいと思います。
■「親は無力である」その自覚が子どもの励ましになることも
おおたさん:子どもが育つうえで、親の影響力は絶大です。ですが、結局のところ、親は実は無力なのです。
親になると、子どものためにあれもこれもしてあげようという気持ちにかられます。でも、それがそのまま親の期待通りの成果をもたらすとは限りません。むしろそうならないことの方が圧倒的に多いですよね。
――確かに。それに、子どもに期待通りの結果を望むのは親のエゴですよね…。
おおたさん:親ができることは、子どもを励まし見守ることだけ。「生まれてきてよかったね」「ひとりぼっちじゃないよ」と言ってもらえ、「あなたの人生はあなたしか歩めない」と認めてあげることだけなのです。
でも、無力であることは、決して悪いことではありません。たとえ、子どもと一緒にオロオロすることしかできなくても、それが子どもにとって生きる支えになるのです。むしろ、親が子どもにしてあげる、最高の励ましであることも多いのです。
同時に、親は子どもの人生を支えることだけに依存せず、自分の道を自分で選ぶような生き方を常に実践していかなければなりません。「自分の道を自分で選ぶ生き方」の手本を示すことができれば、それが親にできる最高の教育であると私は思っています。
親は自分の理想を子に押しつけるのではなく、ありのままの子どもを認めてあげればいい。そうすれば、子どもはまぶしいくらいに輝きはじめます。そして、不安な気持ちでいっぱいになりながら、子どもの背中を見守るしかないというのが子育ての本質であり、そのこと自体がこのうえなく幸せなことなのではないでしょうか。
生まれたばかりの頃は、ただ健康で元気に育ってくれればそれで良かった。なのに、いつから、親はわが子に「もっともっと」と求めてしまうようになるのでしょう?
「教育虐待」の話を聞いていて、いつの間にか子育ての原点に立ち帰らせられた、そんな取材でした。
まちとこ出版社N
(まちとこ出版社)
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