「男の子はママ似、女の子はパパ似」遺伝子レベルの理由があった【榊原先生、教えて! 子どもの体の不思議 第7回】
Woman.excite / 2019年6月9日 21時0分
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突然ですが、わが息子は「片付け下手」です。
ランドセル、ゲーム機、くしゃくしゃのプリント、脱ぎ捨てた靴下がいつまでもリビングに散らかっているので「こら!」と一喝したくなりますが、自分も片付けるのが苦手なだけに強くいえず…。反対に夫は片付けが苦にならないタイプなので「似てほしくないところが似てしまったなぁ…」と思うことがあります。
さて、周囲を見渡してみると、私のように男の子はママ似、女の子はパパ似といわれるケースが多いように思います。はたして、これは偶然なのでしょうか…?
小児科医であり、お茶の水女子大学名誉教授の榊原先生に、今回は子どもの「男女の性差」にまつわる不思議について教えてもらいました。
お話をうかがったのは…
医師・お茶の水女子大学名誉教授
榊原洋一先生
お茶の水女子大学人間発達教育研究センター教授。東京大学医学部卒業。専門は小児科学、小児神経学、発達神経学など。小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書は『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)など多数。
■「男の子は母親似、女の子は父親似が多い」生物学的に見たら?
――まわりのママたちの話を聞くと「男の子はママ似」「女の子はパパ似」というケースが多い気がします。まわりからいわれるだけではなく、ママ自身もそう思っていることが多いようです。どちらかに似るという傾向は、生物学的にあるものなのでしょうか?
榊原洋一先生(以下、榊原先生):生物学的な面からいうと「可能性がある」といえるでしょうね。
――可能性がある…?
榊原先生:まずは、遺伝子のお話から、なるべく簡単に説明していきますね(笑)。子どもはママとパパから半分ずつ遺伝子をもらうイメージがありますよね。実際そうなのですが、正確にはきっちり半分ずつではないんですね。
――半分ではない…?
榊原先生:遺伝子情報は「染色体」というものにのっています。染色体は基本的に同じ形のものが2本ずつ、計23組あるんですね。
そのうち、22組目までの遺伝子情報は男の子であった場合も、女の子であった場合もまったく同じ。男女に分かれるのは、最後の23組目の染色体によって変わるんです。
23組目の染色体は「性染色体」とも呼ばれていて、生殖器をつくるのに必要な遺伝子情報がのっています。だからこの部分の染色体の組み合わせによって、子どもが女の子になるのか、男の子になるのかが決まるんです。
――どんな組み合わせになると男の子、女の子にそれぞれなるのですか?
榊原先生:23組目の染色体は、ママとパパから1本ずつ染色体を受け継ぎます。ママの染色体は「XX」、つまりX染色体を2本を持っています。だから子どもにあげられる1本は、いずれにせよXになりますよね。
一方、パパは「XY」、XとYを1本ずつ持っているんですね。だから、あげる染色体がXになる場合もあるし、Yになる場合もあります。
23組目の染色体の組み合わせが、ママからX、パパからもXをもらって「XX」になったときは女の子として生まれてきます。一方、ママからX、パパからYをもらって「XY」になった場合は男の子として生まれてくるんです。
――なるほど…! 女の子は「XX」、男の子は「XY」の組み合わせで生まれてくるんですね…!
榊原先生:そうですね。パパ似、ママ似の話でいうと、ここからが本題になります。では、XとY、それぞれの染色体にどんな違いがあるか説明していきましょう。
Xという染色体はYに比べて大きく、体の機能や構造、顔つきや性格の一部など生きていくために重要な遺伝子情報がたくさんのっています。一方、Y染色体には生殖器をつくる遺伝子情報しかありません。
――Xと比べると、Y染色体は情報に偏りがあるんですね。
榊原先生:男の子の場合、Xはママから、パパからはYをもらっていますよね。でもY染色体には生殖器をつくる遺伝子情報しかないので、体の機能や構造、顔つき、性格などの情報はX染色体の情報、つまり母親からの遺伝子だけになります。だから、見た目や雰囲気などが母親に似る可能性があるんです。
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――そういうことなんですね。
榊原先生:またX染色体の中には重要な遺伝子情報だけでなく、ある性格を規定する遺伝子もあるといわれています。そのため、男の子の場合は性格がより母親に似る可能性もあります。
――なるほど…! 性格が似る、というのは私としても実感するところです(苦笑)。生き物として「男の子はママ似」「女の子はパパ似」になる可能性がちゃんとあるということなんですね。
榊原先生:女の子は両親からそれぞれX染色体をもらっていますよね。だから母親の情報しかもらっていない男の子と比べると、性格については父親に近いように見えるのかもしれませんね。
――理解できたように思います! おもしろいですね…!
榊原先生:母親似、父親似というのは、ほかにも多数の遺伝子が関係していたり、遺伝子以外の環境が要因になったりすることもあります。まだはっきり解明されていないことなので「男の子はママ似、女の子はパパ似になる可能性があるよ」程度に思ってもらえるといいかもしれません。
■「男らしさ、女らしさ」成長過程で? 生まれつき?
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――先生。次は男らしさ、女らしさということについて教えてください。男女を「らしさ」でくくるのは時代錯誤な気もしますが、成長過程や大人たちからの期待で身に付けていく「後天的なもの」というイメージがあります。
榊原先生:性というものを考えたとき「生物学的な性差」と「社会的な性差」というものがあると思うんですね。
一般社会でいわれる「男・女らしさ」というものは文化的な意味合いが強いのでおっしゃるとおり、大人からの期待や育てられた方などによって認識していくものだと思います。
ただ、最近の研究では行動や性格に生物学的な性差があることが分かってきたんです。
――生まれたときから、すでに男女差があると…?
榊原先生:そうです。子どもに自由に絵を描かせる検査で、男の子は乗り物などを寒色系で、女の子は人や花、おうちを暖色系で描くことが分かりました。
これは周囲からの影響でそうなった可能性もありますが、さまざまな研究によって性ホルモンの作用が影響しているのではないか、と考えられるようになったんです。
――性ホルモンの影響…? 研究の内容について、もっとくわしく教えてください。
榊原先生:生まれつき、男性ホルモンが大量につくられてしまう病気があります。女の子の場合、この病気になると性器が男性化します。この女の子は女の子として育てられても、自由に絵を描かせると男の子のような絵を描く傾向があるんです。
――ホルモンが行動に影響している…?
榊原先生:まだ不確かですが「性ホルモンが直接、脳の神経細胞に結びついて作用する」という説があります。このとき、結びつくのが男性ホルモンなのか、女性ホルモンなのかで神経の機能が違ってくるようです。
――男の子は乗り物などを青や緑、黒い色で描く。女の子は人間やお花、蝶々を赤や黄、ピンクで描く。こうした行動には性ホルモンがかかわっているかもしれないんですね。
榊原先生:はい。それから乳児期にも男女の行動に違いがあります。1年を通した実験で明らかになっているんですが、男の子の赤ちゃんは平均してよく泣く。反対に女の子の赤ちゃんはよく笑うんです。
――「男の子のほうがよく泣く」というのは、男女それぞれを育てたことのあるママからもよく聞く話です…!
榊原先生:これは男の子の場合、お母さんのおなかの中にいるときと出生直後に血液中の男性ホルモンの値が一時的に高くなることに関係しているといわれています。この男性ホルモンの高値が脳に働いて、よく泣き、活発に動くといった行動の特徴をつくりだしているんですね。
――「男性ホルモンが多いとムダ毛が濃くなる」とか「女性ホルモンが多いと肌がきれいに」というような曖昧なイメージがありますが、赤ちゃんの場合は行動に影響することがあるんですね…。
榊原先生:そうです。生まれたときから男の子と女の子の行動に差があるのは、生物学的な性差が関係している、といえるでしょうね。
男の子で生まれるか、女の子で生まれるか…。性差が生まれる命の仕組みを知ったことで、改めて「人は生き物なのだ」と実感しました。
できれば良いところが似てほしい… というのが本音ですが(笑)、これからは興味を持って男の子、女の子の「違い」を楽しんでいこうと思いました。
『大人が知らない子どもの体の不思議』(講談社)
榊原洋一著
子どもと大人はどう違うのか。それは単に大きさだけの違いではありません。どうして夜泣きをするの? どうして寝相が悪いの? どうして落ち着きがないの? 子育て中に親が抱く「答えが見つかりにくい質問」にエビデンスの精神で解答することを試みました。子どもの心と体の不思議を理解する、手助けとなる一冊。
(すだ あゆみ)
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