日本一の学食から学ぶ、がんばりすぎない子どもごはん【子ども×自由の先にあるもの 第2回】
Woman.excite / 2020年2月10日 14時0分
『日本一の「ふつうの家ごはん」 自由の森学園の学食レシピ』より
子どもに安全な食材でおいしいご飯を毎日作ってあげたいという思いはどの親にも共通するでしょう。ただ、家事に育児に仕事に忙しい日々の中で、それを実現するのは簡単なことではありません。
星野源さんなど多くのアーティストを輩出している私立自由の森学園(埼玉県飯能市)では、創設時から35年に渡って、安全な調味料や食材を厳選した食事を提供し続けています。今回は、食生活部の泥谷さんに、子どもに必要な食について、話を聞きました。
「子どもに『自由』をどう教える?」の続きです。
お話をうかがったのは…
●泥谷千代子(ひじや・ちよこ)さん
自由の森学園食生活部のリーダー的存在。栄養士の資格を持ち、学園創設時から学食の運営に携わり続けてきた。
■ここがすごい! 自由の森学園の学食
昼食時には学食は生徒であふれかえっていた
――そもそも、自由の森学園の学食はどのようにしてできたのですか?
35年前に自由の森学園が創設されることが決まったとき、学食で「本来の食事」を提供したいという話になったのです。伝統的な製法で作られた調味料や農薬や添加物を使用しない食材で、丁寧に作った食事を子どもたちに食べさせたいと。
軌道に乗るまでは手探りの状態でしたが、5~6年たつと、メニューが決まり、食材の仕入れやローテーションも確立されてきて、だいぶ落ち着いてきました。
食堂が大きく注目されたのは、2010年に「日本で一番まっとうな学食」(家の光協会)という本が出された時からでしょうか。今では、全国の学食の方々からの視察や、メディアからの取材もたびたび受けるようになりました。
――自由の森の学食は、どういったことをモットーにしているのでしょうか。
自由の森では、子どもたちに「自分が何をしたいか」をじっくり見極めさせるような教育をしています。私たちはそのサポーターで、家庭でお母さんが作っているような食事を、安心できる食材で提供したいと考えているんです。
調味調選びにはこだわりをもつ(『日本一の「ふつうの家ごはん」自由の森学園の学食レシピ』より)
――調味料や材料について厳選されたもののみを使っているというのは、すごく特別なことのように思えます。
「その子がその子らしく生きてほしい」ということが、この学校の根本的な考えです。だから、食堂でも余計なものを使わない、本来の自然の生き方を子どもたちに伝えていきたいと思っています。
自然はお日様をもらい風を受けて、小さな種から大きくなりますよね。私たち人間も、そもそも自然の生き物なので、いろいろ加えるのではなく、本来のおいしさをそのまま体に入れる状態もいいんじゃないかなと。だから、特別なことをしているとは思っていませんね。
■大人気メニューのカレーにこめた思い
――カレーのバリエーションが多く、とても人気のメニューなんですよね。
ポークカレー、チキンカレー、ドライカレー、ベジタブルカレー、豆のカレー、ラムカレーなどがあります。生徒たちの要望に応える中で、どんどん増えてきたのですが、「ラムカレーなら食べる!」と言う生徒などもいて、好みはわかれているようですね。
――どんなところが、他のカレーと違うのでしょうか。
『日本一の「ふつうの家ごはん」 自由の森学園の学食レシピ』より
スタッフがインドで学んできたレシピをベースに、市販のルーではなく、複数のスパイスを調合して、それを乾煎りしてから使っています。チキンカレーの場合は、鶏肉をヨーグルトなどの下味に漬けてから調理して、味をまろやかにしてみたり、仕上げにガラムマサラで香りづけをしています。
――手が混んでいますね。
インドでは、日本での「みそ」のように、各家庭でカレーの味が違うそうなんです。だから、それと同じように、ここの学食でもいろいろなスパイスの調合を試して、今に至ります。
毎年入ってくる生徒によって、食の好みが違うのですが、それに合わせながらこちらも提供するものを調整していきます。本来の家庭の形を目指しているんですよね。
――子どもたちは、学食の食事についてどう思っているんでしょうか。
ここの学食が特別だということは、あまり感じていないと思います。卒業生に聞くと、多くの子は「ここで食べていた時はもちろんおいしかったけど、それが普通だと思っていた。気づいたのは卒業してから」と話しますね。
■簡単に家庭でもできる「本来の食事」
©Monet- stock.adobe.com
――ここまでお話を伺ってきて、素晴らしい食事を提供されていると思ったのですが、家庭では同じようにするのは難しそうに思えてしまいます。
今のお母さんたちは、とても忙しいですよね。仕事をして、子どもにきちんとした教育を受けさせたいとなると、ゆっくりお茶を飲むとか、好きな映画をみにいくといった何か自分のための栄養になるようなことをする時間が取りにくくなっているように思います。
――その中で、どういった食事作りができるか、何かアドバイスはありますか?
材料を入れるだけでさまざまなメニューが作れる電気調理鍋を使うのはいいですよね。煮込み料理など、とてもいいと思います。
また、冬の間は鍋がおすすめです。いろいろな味、食材が入れられますから、野菜もたくさん食べられるし、豆腐の日だったりお魚の日だったり、メインも変えられます。
©sakura- stock.adobe.com
――「本来の食事」と聞くと、一汁三菜を用意しなければいけないのかなと思っていました。
学食では、マグロの刺身や、きゅうり、山芋、納豆、温泉卵などを全部ご飯にのせて食べる「とろとろ丼」というメニューも出しています。それに、おみそ汁さえあれば十分ですよね。
ほかにも「豆腐丼」とか「焼肉丼」とか、どんどん「丼チャレンジ」するのもいいですよ。
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親が何を考えて出したかが子どもの栄養になるので、そこが一番大事だと思っています。豆腐だけはお豆腐屋さんでおいしいものを買おうとか、それだけでもいいんです。完璧主義にならなくていいんです。
――生徒の約6分の1が寮に住んでおり、三食をここでとっているそうですが、栄養バランスについてはどのように工夫していますか?
お昼時に生徒たちはうれしそうに食事を受け取る
朝と夜はバイキング形式にしているので、食材をたくさん使うことで、「これは嫌いだけど、これなら食べられる」と、栄養が偏らないようにしています。舌が未発達な子どもたちは、苦いものが食べられなかったりしますが、大人になる中で変わってくるので、「少しずつでも食べてみて」と言っています。
――一食だけで栄養バランスを完璧にするのは、家庭でもなかなか難しいところです。
毎食、栄養バランスを完璧にするのは無理ですよね。三食でバランスを考えると、なんとか整えることができます。
みそ汁の中にたくさん野菜を入れたり、カレーにも定番の具材だけじゃなく、キノコやカブなどちょっと違う野菜を入れて一緒に煮込んでいくと、栄養バランスがとれるだけでなく、違う味も楽しめますよ。
■子どもにとって本当に「いい食事」とは?
――子どもに「本来の食事」を提供したい、でも完璧にやり始めると、その弊害もあるように思います。
これは子どもに「食べてほしくない食物」は、親しか防ぐことができません。でも、友だちの家でおやつをいっぱい食べたらだめだということではないと思うんです。友だちと仲良く過ごす時間だって、とても大事ですよね。
親は、「家ではこういうものを選んでいるよ。こういうものもあるけど、こういった危険性もあるんだよ」と、食を学びの場にしていけばいい。子どもは必ず、舌で安全なものを覚えるから、そうした学びがあれば、安全なものを選んでいってくれると思います。
――たしかに、食にこだわりすぎて完璧にやろうとすると、親自身が疲れてしまいそうです。
食にいくらこだわっていても、家族仲が悪かったら意味がないですから、何よりも家族が仲良くいることが一番大切です。その仲良くしているところを見て、子どもは育つから、それが大きな心の栄養になります。そこに安全なおいしいという要素が加わったら、最強じゃないですか。
学食で泥谷さんは終始生徒と会話を絶やさなかった
――忙しい中でも、やはり食事は未来の子どもたちにつながるから、大切にしていきたいところですよね。
本当にお母さんたちは忙しいけれど、その中でも自分も楽しみ、家族も楽しむような時間を作れるような生活の仕方にシフトしていけるといいですよね。外食をしてもいいし、買ってきてもいい。そこにちょっと何かを付け加えて家族が好きな味にしたり、安全なものを選んだりする。
気持ちをそこに添えてあげるだけで全然違うんです。食を通じて、「お母さんが自分を見てくれている」というふうに子どもたちは感じられると思います。それが、一番の「いい食事」なのではないかしら。
ここまで、子どもたちの食について、自由の森学園食生活部の泥谷さんに話を聞きました。学食の素晴らしさだけでなく、家庭でも生かせるヒントを多くもらえたのではないでしょうか?
二回にわたって自由の森学園の教育と学食についてお話を聞いてきました。「自由」との付き合い方はとても難しいけれど、やはり大人が子どもを温かく見守ることの大切さは、共通していたように感じます。親自身も自分の好きなことを実現しながら生きていけるよう、しっかりと子どもと向き合っていきたいものですね。
『日本一の「ふつうの家ごはん」 自由の森学園の学食レシピ』
(自由の森学園食生活部/講談社 ¥1,300(税抜))
(高村由佳)
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