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「ママだから」に縛られていた。彼の一言に女としての自分を思い出す…【わたしの糸をたぐりよせて 第8話】

Woman.excite / 2020年2月18日 16時0分

「ママだから」に縛られていた。彼の一言に女としての自分を思い出す…【わたしの糸をたぐりよせて 第8話】


前回からのあらすじ
幼稚園のママ友の逆鱗に触れ、怒りとともにどうしていいかわからなくなる友里。さらに夫の不穏な行動で不安になる。そんなとき同級生だったイナガキの誘いで出かけたのだが…。
「ママ友の逆鱗、夫の不穏な行動…心折れた私が頼ったのは」

●登場人物●
友里:都会で就職し結婚したが、夫・亮の転勤で地元の街に戻ってくる
:友里の夫。友里から告白してつきあうように。息子の悠斗を妊娠して以来、夜の生活がない
イナガキ:友里の幼なじみ。小学校~高校まで一緒だった。現在は人気デザイナー。
上田:悠斗と同じ幼稚園に通うママで、うさぎ組のクラス委員長
カオル:悠斗と同じ幼稚園に通うママ友で、友里を配下に置こうと考えてる

※このお話はフィクションです



■意外なダメ出し。私は変わった…?

レストランに着いた私は、店の外観にたじろいでしまった。
子どもがいては到底利用できないラグジュアリー感。それは雰囲気的な問題もあるけれど、頭を掠めるのはやっぱりお金のこと。

(これ、ランチだけで2000円超えてくるよね……)

夫に食べさせてもらっている立場で、こんなところに行けるはずもなく思わず後ずさりしてしまう。

「どうしたの? 入ろうよ」

「うん……でも……」

「いいからっ!」

イナガキ君は私の後ろに回ると、背中をぐいっと押して無理やり店に入らせようとする。

「わかったわかった、入る。入るからやめて」

席に案内されると、イナガキ君はいきなり笑い出した。

「だってさ~、友里ちゃんおかしかったんだもん。覚えてる? 高校3年のときの文化祭で隣のクラスがお化け屋敷やってて、怖がって入ろうとしなくて背中押したの」

「うん、なんとなく」

「あのときとなんか一緒の顔してたんだよなあ。もしかして、値段とか気にしてた?」

図星を突かれて私は押し黙ってしまう。

「大丈夫だよ。ここはランチだけはお得なんだ。ディナーに使うとそれなりにとられちゃうけど、メニュー見てみて。ランチセットはみんな千円札でおつり来ちゃうから」


イナガキ君のそのセリフに店員さんが苦笑いした。

「さ、好きなもの頼んでよ」

そう言われてメニューを見ても、私は何も選べなかった。

結局、イナガキ君がハンバーグステーキセットを頼んだので同じものを頼むことにした。





「で、どうしたの? さっきすごく浮かない顔してたよ」

私はことの顛末を話した。すると――。

「友里ちゃんってさ、いつからそんなに人の顔色窺うようになっちゃったの? 高校のときは、そんなんじゃなかった気がするよ」

イナガキ君に私のよくない変化を指摘されて、口をつぐんだ。

「あのさ、文化祭でコスプレ衣装作ったじゃない。そのときにどうしてもセルリアンブルーの布地が欲しいって電車で1時間半もかけて県庁近くの手芸用品店行ったじゃない。んで、めちゃくちゃかっこいいもの作るんだってクラスのみんな巻き込んでさ。すっごく大変だったんだけど、あのときの友里ちゃんはかわいかった」

「えっ……」

かわいかったとはっきり言われ、あっという間に耳まで真っ赤になる。

「もう、褒められなれないコはすぐそうなっちゃうんだから。いくらでも言ってあげるよ。キミはかわいいって」

その後もハンバーグをひとくち口に運ぶたびにかわいいとかステキとか連呼され、食べ終わるころには身体中が熱くてかなわなかった。

「あー、おもしろかった。やっぱり友里ちゃんはからかいがいがあるなぁ」

「もう、そういうところ小学生のときから変わってない」

「でも……話戻しちゃうけど、顔色うかがうようになっちゃったのいつからなの? ママになってから? それより前あたり?」

そう尋ねられて私は言葉に詰まってしまう。

「まあいいや。そろそろ出ないと、幼稚園のお迎え間に合わないんじゃないの?」

言われて時計を見ると、2時半近くになっていた。

今日は延長保育を頼んであるから大丈夫と告げると、イナガキ君はじゃあ行きたいところがあるからと店を出て歩き出した。


■人の顔色ばかりうかがうようになったのはナゼ?

歩き始めてすぐに、高校近くの並木道ということに気がついた。

「懐かしいよね……」

私はそう水を向けるも、イナガキ君はさっきまでの様子とは打って変わって神妙な顔つきになっていく。互いに無言のままどれくらい歩いただろうか。

そして、イナガキくんが不意に立ち止まるとこう切り出してきた。

「あのさ、友里ちゃん。今日僕は友里ちゃんに伝えたいことがあって呼び出したんだけど、今のキミにとても話すことはできないって思った」

「え……?」

「キミは、いつの間にか顔色をうかがうことを覚えて正当なことと理不尽なことの区別がつかなくなってる。僕はまだしばらくホテルにいるから、できればこっちにいる間に……」


そこまで言って、イナガキ君は口ごもり、少し俯いた。すぐに顔を上げると、さっきまでの明るい表情に戻っていた。

「今日は僕が時間切れ。ホテルに戻ったらさっきの香水渡すから」

ホテルに戻ると、イナガキくんは香水を取りに部屋に向かった。

(正当なことと理不尽なことの区別……か)

そんなこと考えたこともなかったなと思っているところに、イナガキ君が戻ってきた。

「さっきはちょっとひどいこと言っちゃったけど、できればまた近いうちに会ってほしい。そのときは、この香水の感想を聞かせてね」

わかったとうなずいて、私はホテルを後にした。




■抜け出せない地獄と思っているのは、私だけ?

イナガキ君の指摘を引きずりながら幼稚園に迎えに行くと、ちょうど上田さんと鉢合わせる格好になった。上田さんは、建築パースの仕事をしていて、ときどき延長保育を使っていることを保護者会の席で話していた。

「あ、立花さん。今日は延長したんですね」

「はい、ちょっと人に会う用事があって。個人的な用事で制度を使うのってあんまりよくはないんでしょうけど」

「ちょっと待って、よくないって誰が決めたの?」

「誰がってことはないですけど……先生方の負担を考えると申し訳なくて」


私はとっさに言葉を濁す。脳裏に浮かんでいるのはカオルさんたちの姿で、しきりと園に甘えるのはよくない、母親なんだから自分のことは後回しにすべきだと言われたことが頭のなかで響いている。

「あのね、制度として存在しているものに対して、“本当は使ってほしくないんじゃないか”と遠慮するの、自分の首を絞めるだけだと思うのね。

だって、その制度をうたっているんだから、それを利用することのどこが悪いの? ルール違反はだめだけど、規約の範囲内なら罪悪感を持つ必要はないと思うわ」

「……」

「もし、もしもね、それに対して裏でグチグチいうような園だったら、私はここに入れていないと思うの。それに、『本当は嫌なんだけどね』なんて言い出すくらいなら、最初から制度化しなきゃいいだけの話だと思わない?」

私は、ただ黙って上田さんの話を聞いていた。

園の門にさしかかったとき、上田さんは一呼吸おいて私と向き合った。

「ねえ、言いたくなかったら別に言わなくてもいいけど。もしかしたら園ママの誰かに“良妻賢母とは”みたいな感じの話をされた?」

私はぎくりとした。まさにカオルさんにその説教を繰り返し言われているところだったから。

「いえ、あの…。確かに、言われたこと、あります。でも、それがなにか……?」

「あなたが言われた『理想のママ』というものが苦しかったのなら、それはスルーしちゃっていいと思うのよ」

上田さんの凛とした、でもなぜだかもっと聞いていたくなる言い方に、わずかに心が動く。そんなふうに振る舞えたら、どんなにか楽だろう。

周りの声を気にするがゆえに、クモの糸が絡みついたように身動きが取れなくなっているいまの自分を思い、にわかに焦りを感じ始めた。

早くこの状況を抜け出さなければ……。

次回更新は3月3日(火)を予定しています。
イラスト・ぺぷり

(宇野未悠)

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