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夫との不穏、そしてすれちがってしまったワケ…ママに縛られない私が歩む先【わたしの糸をたぐりよせて 第12話】

Woman.excite / 2020年3月24日 16時0分

夫との不穏、そしてすれちがってしまったワケ…ママに縛られない私が歩む先【わたしの糸をたぐりよせて 第12話】

ついに夫が真実を告げる…そして母親になってあきらめてばかりだった私は


前回からのあらすじ
息子の幼稚園のおゆうぎ会。これまで威圧的な態度を取ってきたカオルが、衣装係に立候補する。しかしその衣装づくりは困難を極め…。そこで友里と上田が取った行動とは…。
●登場人物●
立花友里:都会で就職し結婚したが、夫・亮の転勤で地元の街に戻ってくる
:友里の夫。友里から告白してつきあうように。息子の悠斗を妊娠して以来、夜の生活がない
イナガキ:友里の幼なじみ。小学校~高校まで一緒だった。現在は人気デザイナー。
上田:悠斗と同じ幼稚園に通うママで、うさぎ組のクラス委員長
マキ:悠斗と同じ幼稚園に通うママ友で気が合う
カオル:悠斗と同じ幼稚園に通うママ友で、友里を配下に置こうと考えてる

※このお話はフィクションです


■思ってもみなかった事態が動き出す!

幼稚園のおゆうぎ会の衣装を作ったことで、クラスのママさんから依頼された子どもの洋服。そのオーダーは“ちょっとしたお呼ばれに着ていけて動きやすく、洗濯もしやすいもの”だった。

なら……と、偶然見つけた小花柄の生地で頭からかぶるタイプのシャツワンピースを作ってママさんに渡した。ママさん以上に喜んだのはお子さんのほうで、「マイブームになってしまい毎日着たがって手を焼いちゃってます」とうれしそうに話してくれた。

「製作費も…」と言っていただいたが、プロではないので材料費だけいただいたのだが…。このママさんが洋服をインスタにアップしたことで、意外にも「私も作ってほしい」という声があがり、そのママさんのお友だちからもお話が来るようになっていった。

そして偶然にもそのなかに有名なインスタグラマーさんがいたことで、一気に反響が拡大。自分ではそんな状況についていかれないでいるときに、マキちゃんの家に呼ばれた。上田さんと3人で野菜スイーツを食べながらお茶を飲んでいたとき、マキちゃんから思ってもみなかった提案をされた。

「ねえ、いい機会だからネットショップを開いてみたら?」

「それ賛成だわ。今みたいに頼まれて材料費だけで作っているのは、あなたにとっても良くないと思うわ。お金をもらうことで、『もっと良いものを』って気持ちも出てくるし、何よりあなたの洋服を大切にしてくれる人にきちんと届けられる」

と、上田さんが後押しをする。

私抜きで盛りあがっていく2人に、ちょっと戸惑っていた。けれど……。

デザイナーになりたかったんでしょう? あなたが目指す服作りとは違うかもしれないけれど、この状況はチャンスだと思うの。

もちろん、あなたも甘えた仕事ができないっていう厳しさも味わうかもしれない。でもね、個性を思う存分発揮することができるわ」と言う上田さんの言葉に、私もワクワクし始めていた。でも私がまた働くことを亮くんはなんて言うんだろう。

とはいえ、私にはウェブサイトに関する知識はまったくない。とりあえず悠斗を寝かしつけたあと、スマホでぽちぽちとハンドメイド作家の検索をしてみると、私でもネットショップを開けそうなサイトがあることがわかった。

(これなら……私にもできる。でも、亮くんに反対されたらどうしよう)

最近、亮くんとまともに話をしていない。説得する以前にコミュニケーションが成り立ってない。今さら、話なんてできるのかな。そんなことを考えていたら、亮くんからLINEが入った。
ついに夫が真実を告げる…そして母親になってあきらめてばかりだった私は

「今日、紹介したいヤツがいるから。連れて帰る。急でごめん」

……いよいよ、その日が来たのかなぁ。
不安で心臓がバクバクしながらも、私は亮くんの帰りを待っていた。




■夫が私を抱きしめた! もう一度、夫婦の糸を染め直す時

「初めまして! 私、安芸と申します。いろいろとご主人に相談に乗っていただいてありがとうございました!!

そして、家族の時間を奪ってしまって申し訳ございません。お詫びに奥様とお子さまの好きそうなケーキを買ってきましたので、どうぞ召し上がってください」

――亮くんが連れてきた後輩は、子犬みたいでかわいらしく女子力高めの男の人だったのだ。長いことしていた勘違いに、身体の力がどっと抜けていたのは亮くんには一生内緒にしておこう。

安芸さんが帰ったあと、私と亮くんはケーキを食べながら、今までのことについてあらためて話をした。

「じつは、5月の連休明けに同僚が大けがをしたんだ。それで同僚の仕事を代わりにやってたんだけど、安芸も大変な思いをしてすっかり参ってしまってね。

それで、ことあるごとに安芸を連れだしてはご飯を一緒にしたりお酒を飲んだりしてたんだ。安芸には、『妻は元同僚だから理解してくれるよ』なんてちょっと強がっちゃったんだよな。

でも、それが結果として家族と過ごす時間よりも会社で安芸たちと過ごす時間のほうがはるかに長くなっちゃったからな……ごめん! ひとりにさせてしまって」

そう言って亮くんは立ち上がると、座ったままの私をそっと抱き寄せた。
私の目から、みるみる涙があふれだしていつしか声を上げて泣いていた――。きっと、私たち夫婦は、今度こそ一緒に糸を染めていかれるはず…。

亮くんは立ち上がると、座ったままの私をそっと抱き寄せた

ひとしきり泣いたあと、ふたたび亮くんが椅子に座った。

(こんなタイミングで言うのもなんだけど……今、言ってみようかな)

私は、おゆうぎ会の衣装製作をきっかけに人づてに服の注文を受けていること、インスタで反響があること、思い切ってネットショップを開業しようと思うことを打ち明けた。すると、

「いいんじゃないかな? やってみなよ。友里が暇さえあればデザイン画を描いてたのも知ってるしね」

「あれ、見てたんだ」

「うん。友里はちっとも気が付いてないみたいだけど、けっこう見てたんだよ、陰から。だから俺、頑張ってほしいと思ってる。まあ、製品づくりはともかく、税金のことは大変と思うけどね」

と、ニヤッと笑う。

「税金……そっちのことはまったく考えてなかった……」

「それは勉強していけばいいよ」と、亮くんは恋人時代のように私のおでこを指でつつく。
その日は久しぶりに、亮くんといろいろ通じ合えた夜を過ごした。

翌朝、洗面所には以前亮くんに腕を引っ張られたときに割ってしまったイナガキくんからもらったのと同じ香水の瓶が置かれていた。

「もしかして亮くん、イナガキくんと会っていたの知っていたの…?」



■私は失ったものに囚われていたけれど…

そして、いよいよネットショップがオープン。これまで依頼してくれていた人からも同じように注文が入ったことで、私は飛び上がりたいぐらいうれしい気持ちになった。

その後もオシャレ家族としてインスタでも大人気の人までもインスタで写真をアップしてくれるという幸運が舞い込む。私は、デザイナーとしての第一歩を踏み出したのだ。

そんなある日――。
実家から小包が届いた。

封をあけると付箋が貼ってあり、「イナガキさんから転送を頼まれたのでそのまま送ります。母より」とある。
包み紙をそっと開いてなかを見ると、セルリアンブルーにレモンイエローのドッドという鮮やかで元気になれそうな柄の生地と、イナガキくんからの手紙が入っていた。

「ネットショップ、開店おめでとう。何で知ったかって? キミのLINEのタイムラインにネットショップのことがあがっていたからだよ。夢の第一歩を踏み出して、本当に嬉しい。

あの日、キミのスケッチ画を持って帰ったでしょ。あのときから、いつかキミが夢を叶えたときに、僕にできることがしたいと思ってた。今回はその第一弾として、僕のお気に入りのテキスタイルを送ります。これで、ハツラツとした子ども服を作ってよ。これは、僕からのオーダーでもあります。じゃ、お母さんによろしく」

……イナガキくんらしいな。そう思いながら私はさっそくこの生地に合いそうなデザインを描き始めた。このテキスタイルを活かした、かわいい服を着た子どもと街中ですれ違うことを思い浮かべながら。

そして、できあがった服の写真をアップしたところ、驚くほど反響があった。

(みんなが求めているものが、私の手のなかにあったなんて……)

私はずっと独りぼっちで、みんなから置いていかれたと思っていた。

でもそうじゃなかった。もしかしたら亮くんは、私が「助けて」と言えば手を差し伸べてくれたのかもしれない。亮くんも、本当はきっと私に悩んだり、苦しい気持ちを抱えていたのかもしれない。それでも私を信じてくれていた――。

私からプロポーズするぐらい憧れて、大好きな亮くん、そして大切で愛おしい悠斗がいる。マキちゃん、上田さん、そしてイナガキくん…私には一度手放したものがあっても、もう一度新たにつかめる糸があったんだ。
私には一度手放したものがあっても、もう一度新たにつかめる糸があったんだ

そう私がたぐり寄せたものは、私が新たに紡いできたものだ…。

あの少女のときに思い描いていた夢のカタチとはたしかに変わっている。
それでも私の糸の先にはきっと、あのとき見たセルリアンブルーの空よりもっと澄み渡る未来が広がっていると信じていきたい。


―完―

イラスト・ぺぷり
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(宇野未悠)

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