子どもが性被害にあわないために親ができることとは? 【産婦人科医 サッコ先生に聞く!】(後編)
Woman.excite / 2021年4月2日 21時0分
「いつかやらなきゃ…」と頭ではわかっているものの、いざとなると構えてしまう性教育。
それを、科学的にポジティブに教えてくれるのが「サッコ先生と! からだこころ研究所 小学生と考える『性ってなに?』(リトルモア刊)」の著者で、産婦人科医の高橋幸子先生、通称サッコ先生です。
前編では、自分らしく生きることが本来の性であり、性教育とは自分の体を大切にすることからはじまると教えていただきました。
この後編では、幼少期を過ぎてからの性教育や、我が子が性被害にあわないために親ができること、そして、性被害にあってしまったときにとるべき行動について伺いました。
埼玉医科大学医療人育成支援センター・地域医学推進センター/産婦人科医。日本家族計画協会クリニック非常勤医師。彩の国思春期教育会西部支部会長。NHK「あさイチ」「ハートネットTV」「夏休み!ラジオ保健室〜10代の性 悩み相談〜」に出演、AbemaTVドラマ「17.3 about a sex」、ピル情報の総合サイト「ピルにゃん」、家庭でできる性教育サイト「命育」を監修するなど、性教育の普及や啓発に尽力する。
HP: https://sakko0607.wixsite.com/sakko
■日本の性教育は遅れている?
© polkadot - stock.adobe.com
—— 著書のなかで、世界では5歳から性教育がはじまっていると紹介されていました。やはり日本は遅れているのでしょうか?
世界の性教育の基準は、ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」にありますが、性教育に関しては5歳からはじまると書かれています。
日本は、国際水準からはまだまだ遠いのが現状で、現在の小学校の学習指導要領(※1)では、5年生の理科で「人は母体内で成長して生まれる」ということは教えますが、受精に至る過程は取り扱わないという歯止め規定があります。
しかし、2021年4月から文部科学省が「生命(いのち)の安全教育」という授業を幼稚園から大学まで段階的に導入する予定で、プライベートゾーンやデートDVについてなどが盛り込まれるそうです。
性教育は、熱心な家庭とそうでない家庭で差が大きいので、家庭ですり抜けてしまう子をなくすという意味では学校でおこなうことはすごく意味があるし、期待しています。
しかし、性教育は早ければ早いほどいいですし、まだ試験的な導入なので、全国に広がるのは数年かかるはず。これを見た方はぜひ今から家庭でできることをやっていただきたいです。
※1:文部科学省「小学校学習指導要領」小学五年生理科「B生命・地球」「(2)動物の誕生について」「内容の取扱い」より2020年12月現在)
■性教育をはじめるタイミング
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—— すでに幼少期を過ぎていても遅くはないでしょうか?
早ければ早いほどいいというのは、性教育の入り口であるプライベートゾーンを守る=自分の体を大切にするということができないと、自己肯定感がうまく育たないまま大人になってしまうからです。
すると、大人になって体を目的に近寄ってきた人に対して自分が求められていると勘違いし、性犯罪に巻き込まれたり性的なことに依存度が高くなることも。いわば性に関する知識はライフスキル、つまり生きていくために必要な知恵ともいえます。
また、思春期になって自分の体に変化が起きたときに、自分の体は自分だけの大切なものという認識があれば、他人と比較して落ち込むことも軽減できます。
なので、できれば思春期に入る前のタイミングまでにはじめられるといいですね。著書のなかで登場するキャラクターが小学4年生なのもそのため。ちょうど4年生の保健体育で初潮や精通について習うということもあります。
著書の中では小学4年生の男の子「からくん」と同じく小学4年生の女の子「ここちゃん」がサッコ先生の助手になって、からだのことをいっしょに考えていきます。
—— 幼少期を過ぎて、性について話しづらくなっていたり、きっかけがない場合はどうすればいいでしょう?
私の著書のほか、以下のように様々な本があるので、お子さんがひとりで読めるようにトイレや子ども部屋などの個室にそっと置いてみるといいのではないでしょうか。
・サッコ先生と!からだこころ研究所 小学生と考える『性ってなに?』(リトルモア刊)
・子どもを守る言葉「同意」って何? YES、NOは自分が決める! (集英社刊)
・おしえて! くもくん(東山書房刊)
—— 小学生の子どもがふざけてセックスという言葉を口にしたのですが、どこで知ったのかビックリ! そんなときはどうしたらいいでしょう?
どういう経路でその言葉を知ったのかを確認した方がいいですね。というのも、いまはネットでアダルトビデオなどの動画が簡単に見られる時代。歪んだカタチで性の知識を得ている可能性もあるので、責めるのではなく「どこで聞いたの?」と、仕入れ先は探るべきです。
きちんと学んで理解していたならそれはそれでいいし、対策が必要なら対策を考えればよし。言葉だけを知っている場合もあるかもしれません。いずれにせよ、性について話すきっかけになります。
■プライベートゾーンの知識が性犯罪から守ることにつながる
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—— SNSやネットをきっかけにした性犯罪が増えていると聞きます。我が子を性被害から守るために親ができることは何でしょう?
性被害にあわないための意識を根づかせることが第一。
それがまさしく、幼いころからプライベートゾーンを守るという知識をつけること。自分の体は大切だから他人に許可なく見せない、見られたらおかしいという意識があれば、いざというときNOといえます。
じつは、性犯罪をおかした小児性愛者に犯行に及んだ理由を聞くと、「相手がイヤだといわなかったから。あのときあの子がNOといってくれたらこんな風にならなかった」と子どものせいにするのだそう。
本当に許せない、おかしな話なのですが、子どもにNOといえる力をつけることが何よりなんです。そのために、プライベートゾーンについて早くから知識をもたせることがすべてにつながってきます。
—— 我が子が性犯罪の加害者になる可能性もあります。加害者にならないために親が注意すべきことはありますか?
これもやはり性教育の原点となる自分の体を大切にすることを幼いうちから伝えること。自分を大切にできれば、相手のことも思いやれるので、加害者となる可能性は圧倒的に軽減できます。
また、大人になって性的な逸脱行動をする人の成育歴を見ると、周りから傷つけられてきたという過去がある人が多いそう。親が気づかぬうちに精神的な虐待をするといったことがないよう、子どもに寄り添うことが大事です。
それと、地域や社会で性犯罪が起きにくい環境づくりをすることも大切。
性犯罪をおかした小児性愛者を多く診察してきた先生によると、小児性愛は生まれつきのものではないそうです。例えば、大人と対等にコミュニケーションを取るのが苦手と感じていたとき、子どもを対象にした性的なビデオを見ることで、自分より力のない子どもなら大丈夫なのだと結びつき、小児性犯罪に走ってしまう。
そもそも子どもを性の対象にすること自体がおかしなことで、そういうポルノ商品を世に出すことが犯罪行為。そのビデオに出演させられている子どもたちは完全に被害者です。徹底的に取り締まり、社会全体で許さないという姿勢をみせる必要があります。
また、街頭に見守りポスターを1枚貼るだけでも、性犯罪が起きにくい環境づくりができます。地域の大人たちで協力して子どもを守ることが大切。そして、家庭内で性についてなるべくオープンに話せる関係性を築いておけるといいですね。
■性被害にあった我が子に一番かけてはいけない言葉
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—— 万が一、我が子が性被害にあってしまった場合、親としてどのような対応をするのがいいのでしょうか?
まず、あなたは何も悪くないと伝えて、寄り添うこと。絶対にいってはいけないのは、「あなたが短いスカートを履いていたから…」など、被害者側にも一因があると諭してしまうことです。
いまトラウマインフォームドケアというのが注目されているのですが、子どもの頃のトラウマが後の生きづらさや問題行動に影響するというもの。親が第二の加害者にならないように、とにかく心に寄り添うことが重要です。
そして、あなたのせいではないと伝えたあとは、専門家につなぐこと。
私がおこなっている思春期外来では性被害にあったかどうかを診察して診断書を書くのですが、心のケアまではなかなか難しい。小児精神科の専門医にみてもらうのがいいのですが、まだ数が少ないのが現状です。専門家につなぐのに時間がかかる場合は、とにかくお子さんにあなたの味方だと伝えて、心に寄り添うようにしてください。
小学生が自分で読んで学べる性教育の新しい教科書。サッコ先生がときどき質問を投げかけたりしながら、体のしくみや性について楽しくポイジティブに学べます。ミッションでは、“自分の脈をはかってみよう!”“自分の性器を見て見よう”などチャレンジしながら自分の体を正しく知ることができ、コラムでは“性器の洗い方”など役立つノウハウもわかりやすく解説しています。
サッコ先生と!みんなで学ぼう「性ってなに?」
~小学生向け・はじめての性教育ワークショップ~
●講師
高橋幸子(産婦人科医、『サッコ先生と!からだこころ研究所』著者)
●日時
2021年5月9日(日) 1回目 11:00~/2回目 13:30~
※1回目、2回目は同じ内容です。
●会場・お申し込み
詳細はリトルモア HPをご覧ください。
(佐々木彩子)
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