「日本はケアラーに冷たい国」と話す伊藤たかえ議員に聞く「ヤングケアラー支援法」
Woman.excite / 2025年1月21日 17時15分
「日本はケアラーに冷たい国」という働くママの伊藤たかえ議員。「ヤングケアラー支援法」を成立させて後、「ダブルケアラー支援法案」を国会に提出した。
お話を聞いたのは…
伊藤たかえ参議院議員
1975年生まれ、名古屋市出身。1998年に金城学院大学文学部を卒業後、テレビ大阪に入社。報道記者として事件取材やドキュメンタリー番組を制作。2006年、資生堂を経てリクルート入社。2016年リクルートでの育休中に参議院議員選挙に初出馬。子育て世帯のリアルを日々永田町で訴え、個人の問題と捨て置かれてきた課題を、それは社会の課題・政治が取り組むべきと“これまでの国会にはなかった”政策提言に努めている。
>>伊藤たかえ公式HP
―日本はケアラーに冷たい国、というのは?
伊藤議員:日本において育児や介護は未だに “家庭内で完結させること”ですが、イギリスでは1970年代から家族ケアラー支援が注目されていました。ヤングケアラー支援に早くから着手出来たのもその為です。
1999年には「ケアラーを支援する事こそが、ケアを必要とする人を支援するための最良の方法のひとつ」と政府が表明し、ケアラーが心身の健康やキャリア、自由時間等、自身の資源を枯渇させることなくケアを全うするには、社会的な支援がどうしても必要になると訴えました。
あの自主自立の国アメリカですら、コロナ禍におけるビルドバックベター法※1を成立させる過程では、「ケアラーをケアしなければ、やがて社会は崩壊する」との共通認識が、政治家たちの間にはあったと聞きました。日本はケアラー支援後進国です。
―それは、なぜなんでしょう。
伊藤議員:日本の“男は仕事、女は家庭”という固定的性別役割分担意識だけが理由ではありません。女性が家の中で家事や育児、介護も全部引き受けてくれれば、家庭内での福祉は完結します。自助が効いていれば、共助や公助に染み出てこないので、行政は福祉予算を使わなくていい。高度経済成長で人口増加フェーズ、働き手も事欠かない時代はそれが合理的だったのかもしれませんが、今は違います。どこも人不足で、女性の力が必要なのであれば、自助に頼るモデルは成立しません。私はケアに着目した法律を書いているのは、そんな課題感からです。
―「ヤングケアラー支援法(子ども・若者育成支援推進法改正案)」を今年(2024年)6月に成立させましたね。
伊藤議員:2019年から国会で28回質問して、ようやく、です。ヤングケアラーとは育児や介護、障がいのある兄弟のケアや日本語の理解が不十分な親の通訳等を日常的に過度に行っている子どもや若者のことです。日本の“家族の形”には変化が起きています。ケアを必要とする人が増える人が増える一方で、家族の中にそれが担える人は減少し、子ども達にそのしわ寄せがいっている現実があります。
国会質疑を始めた当初は「ヤングケアラーなんて名前つけたって、それはお手伝いのことでしょう? 自分たちも子どものころはお手伝いをしてきたし、そうやって大人になっていくものだ。子どもを甘やかしちゃいけない」と、わざわざ注意しに来て下さる先輩議員もいらっしゃいました。ようやく今、ヤングケアラー状態にある子ども達を自治体間格差なく支援するための、法律上の明確な根拠規定を手に入れました。
―家族の世話をするのは当然だという考えがある中で、特に子どもだとなかなか言い出せないですよね。
伊藤議員:ヤングケアラーは、生まれた時からそれが当たり前だったから、自分がヤングケアラーだと気付いていなかったり、思春期特有の羞恥心から自身の窮状を隠していたりします。自治体に相談窓口があっても、そこに辿り着く情報も交通費もありません。ヤングケアラー支援法は、子どもが子どもらしい時間を過ごせるよう、友達と遊んだり、勉強したり部活に打ち込んだり。それに、ヤングケアラーを放置すれば、介護等の長期化を背景にそのままビジネスケアラー、ダブルケアラーに移行していきます。介護離職が社会問題化している中で、ヤングケアラー問題を放置するわけにはいかないんです。
―たしかに入社した会社でいきなり『家族のケアがあるので時短とります』って、なかなか言えない風土がありますよね。
伊藤議員:入社したばかりのころって、自分の居場所をつくることに誰だって必死です。われわれの世代は“ワークライフコンフリクト”世代。会社の中で大事な仕事を任されたり、部下が出来たりするタイミングと、家の中に育児や介護が生まれるタイミングが重なる。その両方とも大事で、どちらも頑張りたいからこそ、肉体的にも精神的にも時間的にも衝突が生まれる。まさにわが家がそうでした。この生々しい記憶をもとに先般、育児と介護の両立を支援するための『ダブルケアラー支援法案』を参議院に提出しました。実態把握のための調査を義務付け、それに基づく具体的施策を行うよう政府に求める内容です。
―実は私もダブルケアでした。父が脳梗塞で要介護者になった翌年に、息子が生まれて、亡くなるまで6年半、身体介護。その後、母が認知症になって、私の子育ては介護と共存していました。当時は「ダブルケア」という言葉もなくて。
伊藤議員:それは本当に過酷だったと思います。そういったダブルケアの経験をした人の感覚が、もっと政策立案の現場にあればいいのですが…。
ダブルケアラーは2012年(2016年公表)時点で25.3万人だったのが、2017年には29.4万人と、5年間で約4万人増えています。そしてその9割が30~40代の働く世代です。政府に対応を問うと、育児はこども家庭庁で、介護は厚労省。所管省庁がないから答えられないというのです。社会で起きていることを政策化する力が足りない人たちが意思決定の場にいるのは、社会にとって深刻です。
―親の介護のことなども、人に話すと「実はうちも…」と、悩んでいる方が結構多いこともわかりましたね。
伊藤議員:色々な人に(外に向かって)話してもらうことで、社会変革をしようと思っています。介護や、あと(子どもの)反抗期もですが、‘世の中ごと(よのなかごと)’にしていくには、みんなが喋った方がいいんです。第1世代の人たちがね、あまりに頑張りすぎちゃったと思うんですよね。「やれます、できます、元気です」って。
―そうしないと、仕事が回ってこないって思っていました。私も。
伊藤議員:そういうことですよね。それによって、よりスティグマ化してしまう。顕在化しないと、それに対する政策や制度ってできていかないんです。でも今は逆。噴出させる方にバネを利かせていかないといけない。今国会の中で起こっていることも、私一生懸命お伝えします。『違うんです、聞いてください』って。(国会の)外に向かって言いますので、外の方協力してくださいって。ぜひ、よろしくお願いします!
子育てや、親の介護のこと、子どもの反抗期、そして自分自身の体の変化ーその中でも仕事をやり続けることに歯を食いしばってきた世代から、苦しいこと、困っていることはなんでも口に出して、みんなで解決する方向へ知恵を絞り、社会の制度やあり方を変えていくことこそ、共助であり公助であろう。伊藤議員は、政策立案における実体験の重要性と、社会制度改革の必要性を繰り返し強調していたが、政治の側にそのような受け皿があるのは、心強い。
※1ビルドバックベター(Build Back Better)法:
https://www.whitehouse.gov/build-back-better/
※参照資料 イギリス更年期革命
https://itoutakae.info/seisaku/kounenki/
イギリスの「更年期革命」は、ダイアン・ダンゼブリングさんという一人の女性が始めたメイク・メノポーズ・マター(Make Menopause Matter)「更年期を社会課題に」という運動。15万人が賛同し、2021年10月には議会ではじめて更年期症状への対策を盛り込んだ法案が審議され対策室が設置された。治療費の補助や企業の対策への働きかけのみならず、更年期症状に対する正しい知識を得るべく中学校で更年期症状を教えることが義務化されるに至った。(伊藤議員のHP の記載内容を筆者が編集)。
取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生
政治ジャーナリスト 細川珠生
聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
(細川珠生)
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