赤澤える:女子力とレモンサワーと日陰の隙間と…【ボクたちはみんな大人になれなかった】

ウートピ / 2018年12月5日 21時15分

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2017年6月に発売され、累計発行部数8万部超の燃え殻さんの小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)の文庫版が11月28日に発売されました。文庫版の発売を記念して、ウートピではイラストレーターのmaegamimamiさんに引き続き、ブランド「LEBECCA boutique」のディレクター・赤澤えるさんに書評を寄稿いただきました。

【megamimami】辻褄の合わない彼女たちを包みこんでくれるのはいつだってボクたちだった

深夜1:18

深夜1:18。私は今、冷えたベッドでこれを書いている。

都会の中心にあるこのシェアハウスには、10人の女が暮らしている。ホットヨガ、パワースポット、ナイトプール……。「ここは星いくつ」「あぁそこ知ってる」「バズったやつね」。今夜も聞こえる女子力をBGMに私は筆を走らせる。

この家は私が社会人になりたての頃にも暮らしていた。何をやっても失敗ばかりの高卒新米ボロ雑巾だったあの時、私はそれでも必死に日々を生き抜いていた。「初心にかえろう」数年ぶりに帰ってきたのはそんな思いがあってのことだ。

ふと、窓から外を見る。すぐそこの大通りがぽつぽつと染みている。こんなに煌々(こうこう)としていてもどこか寂しく映るこの風景は、都会特有の情緒だろうか。洗濯物を取り込む手が冷たい。

私にはこの独特の空気が人の形をしたような友人がいる。彼の愛称は「燃え殻」。初めて会った日の感想は、“実在するのに点線みたい”だった。

「なんか、大丈夫ですか。向こう側が透けて見えそうですけど」出会って数分、一回りは年上であろう姿勢の低い男性に私は思わずこう言った。

彼は大きな声で笑ったけれど、その声は私の普通より小さかった。「好きなんですか、レモンサワー」「まぁ、はい。ここのは……」私の問いに答える声は薄く、その後に続いた言葉はグラスの氷が鳴る音でかき消えた。

私は職業柄、キラキラをぶっかけられることが多い。したがって、角度によっては輝いて見えることもあるかもしれない。

でも現実はどうだろうか。学校も行かなかったし、家族を苦しめたし、歓迎される地元もない。ファッションを生業にしている今も雑誌やテレビに興味が湧かず、流行には疎いほう。私はそういう人間だ。

なぜか持ちあわせている幸運がご飯を食べさせてくれている、いつだってただそれだけなのだ。

日陰の隙間にかろうじて生まれた細い日向、そこで今日も生きている。だから、手を広げればすぐ隣にある薄暗い場所、時々そちら側に行って背中を丸める。

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