画面での女優の性的搾取を防げるか…「インティマシー・コーディネーター」と考える男性目線から生まれる違和感
よろず~ニュース / 2024年5月16日 11時30分
![画面での女優の性的搾取を防げるか…「インティマシー・コーディネーター」と考える男性目線から生まれる違和感](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/yorozoonews/yorozoonews_15266710_0-small.jpg)
「ニナ・メンケスの世界」メインビジュアル
#MeToo運動によりハリウッドは変化を続けている。そのひとつに女性監督増加を目指し、米アカデミー賞では『ノマドランド』(2020)でクロエ・ジャオ、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021)でジェーン・カンピオンが監督賞を受賞。思えば米アカデミー賞が1929年に創設されて以来、監督賞を受賞したのが『ハート・ロッカー』(2008)のキャスリン・ビグローまで男性監督というのも不自然だった。
では日本ではどうだろう。1978年から開催された日本アカデミー賞の最優秀監督賞を見ると全員が男性。本映画賞は本来ノミネートにあたる言葉を「優秀賞」としているが、そこには今まで西川美和と河瀬直美の名はあったものの、最優秀賞での女性監督は無冠となる。
それが一体、何を意味するのか?その構造を見事なまでに紐解いてくれたのがアメリカ・インディーズ界で独自の活動を続けるニナ・メンケス監督によるドキュメンタリー映画『ブレインウォッシュ セックス−カメラ−パワー』(公開中)だ。本作は大ヒットしたメジャー映画や名作と言われた巨匠の作品を「どこが男性目線で撮られたアングルなのか」「そのショットは必要なのか」と次々と一刀両断していく。どれも確かに刺激的なショットばかりなのだが、解説されればされるほど撮影した監督の性的嗜好にさえ見えてくるのだ。
確かに女性監督が撮る作品には、違和感あるセックスシーンや不自然なアングルのショットは見当たらない。そう考えると今まで自分達が見て来た映画は本当に賞賛すべき作品だったのだろうか。劇中では、主人公の目線として映されるべき映画が、男性監督の作品の多くでは、女性が主人公でも裸のシーンになれば突如、客観の目線になることを指摘している。それを観客である私達が高評価することで益々、女優達がスクリーンの中で性的搾取をされているのだと気付かされ、ハッとした。
このようなセックスシーンやセンシティブなショットへの不満から、海外では女優たちの声によりインティマシー・コーディネーターが生まれたそうだ。それは#MeToo運動より前に誕生した職業であり、まだ日本ではなかったのでアメリカのオンラインで資格を獲得した2人の女性が、現在、ドラマや映画の現場で活躍している。
では本当にこの職業により日本の映像業界におけるセクシャルなシーンは改善されたのか。実際にインティマシー・コーディネーターとして現場で活動する浅田智穂さんに尋ねるとまだ理解をしてもらえない監督もいると明かす。「細かくショットについて話すことに好意的な監督もいれば、そうでない監督も多いのが現状です。頼まれなければ演出に口を出す仕事ではないし、監督から聞かれればセックスシーンで俳優たちが不自然ではなく、同意の中で見せられる身体のラインやパーツだけが映るように振り付けをします。俳優達の不安をなくす為の立場として安心する現場作りを目指し立っているものの、まだまだ煙たがる監督もいらっしゃいます」
「セックスシーンもレイプシーンも表現の自由だ。映像はアートだからセンセーショナルなシーンは撮ってもいい」という映画人や映画ファンが一部存在する。しかしニナ・メンケス監督が劇中で指摘するように、その被害者が女性や子供ばかりなのは何故なのか。まだ10代の子供が現場で正しい判断を出来るのだろうか。これについても浅田さんも同様の意見を持っていた。「日本ではまだレイプシーンや虐待シーンが当たり前に存在します。けれど子供の中には虐待自体知らない子も居るんです。今、アメリカでは子供のケアも担う方もいらっしゃいます。フィクションの中だろうと虐待を受けることで心的影響も大きいのは間違いないんです。仮にそのシーンがどうしても必要ならば、私がお願いしていることは、これが“虐待”のシーンであると子役の方には知らせないで欲しいと周囲に伝えています」この問題は根深く、海外ではレイプシーンやあからさまな虐待シーンはほぼ見られなくなってきた。理由は演じる俳優も観客も心的ストレスを受けやすいからだ。しかし日本ではまだ実在する。だからこそ、その作品を子役の方が成人するまでは絶対に見せないで欲しいと願っている。
けれど、何故、一部の男性監督は暴力シーンやヌードシーンを撮りたがるのだろうか。以前、何度かそのような質問を監督達にぶつけたことがある。彼らが口にするのは“刺激”映像における“パンチ力”だった。「Japanese Film Projectが2000年から2010年まで大作映画の監督の男女比率を調べたところ、約97対3という結果でした。97%が男性監督の作品だということは、必然的に男性目線の映画が多いと言えると思います。そして、映画だから、アートだから、と俳優の尊厳を考えない作品作りもあったと聞いています」そう語る浅田智穂さんの言葉からもわかるように、アメリカ以上に日本のメジャー映画は男性目線によって作られている。昨今の日本映画では激しいセックスシーンは減ったものの、実際には年齢差のある男女俳優の恋や、若い女優による映画が多い。それと同時に、一部の大女優以外の大人の女優達は、何故か主役を演じられなくなる。
私は過去を改定すべきとは思わない。今から改善していけばいいのだ。ハリウッドのように女性監督を意図的に起用することで描かれ方も間違いなく変わっていくだろう。何よりも俳優達が性的搾取されずに、年齢の壁に苦しまないよう、映画やドラマにおける“性的”“残虐的”刺激が及ぼす心理的影響を考えた上で、自身の性的嗜好を取り入れない映画作りが性別に偏りがない状態で整っていくことを願っている。
『ブレインウォッシュ セックス−カメラ−パワー』はヒューマントラストシネマ渋谷で特集されている『ニナ・メンケスの世界』の一編として公開中(全国順次ロードショー)。ほかにも『マグダレーナ・ヴィラガ』『クイーン・オブ・ダイヤモンド』が公開されている。
(映画コメンテイター・伊藤さとり)
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