79歳 わたせせいぞう氏が最新作で描くLGBTやハンディキャップ…不寛容の時代に贈る〝多様な愛〟
よろず~ニュース / 2024年5月16日 12時20分
![79歳 わたせせいぞう氏が最新作で描くLGBTやハンディキャップ…不寛容の時代に贈る〝多様な愛〟](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/yorozoonews/yorozoonews_15267544_0-small.jpg)
『ハートカクテル』シリーズの最新作を手にする漫画家・わたせせいぞう氏。画業50周年の今年、書籍の出版が続く79歳現役だ=都内
1980年代、都会の恋愛模様をフルカラーで描いて大ヒットした漫画『ハートカクテル』の作者・わたせせいぞう氏による同シリーズ最新作『ハートカクテル カラフル』(小学館)が17日に発売される。亀梨和也や満島ひかりらが声優を務め、NHKで昨年放送されたアニメの原作本。「多様性」と「福祉」をテーマに、79歳になった今も現役の漫画家として時代と向き合う作風が新鮮だ。わたせ氏の思いを都内のオフィスで聞いた。
画業50周年となる今年、2月に同作アニメのサウンドトラック音源も収録したCDが発売されていたが、今回、ファン待望の書籍化が実現した。四季の風景と共に現代の〝多様な愛〟を描いた15編が収められ、うち3編にはLGBTの恋模様が自然な形でストーリーに組み込まれている。
例えば、「パーフェクト・ガールフレンド」という作品では、子どもの頃からスカートをはいていた男の子が長じて美しい〝女性〟となり、幼なじみで恋愛感情を抱く男性の結婚式に複雑な思いで参列。別れのブーケを手に現実を受け入れ、親友として門出を祝福する一方、男性側も〝カノジョ〟を「永遠のガールフレンド」として胸に刻む。
憧れの女性上司が後輩の女性社員と付き合っていることに動揺しつつ、その後輩女性の思いを後押しして自身の横恋慕に幕を下ろす男性を描いた「タンデム・ヴィーナス」では、女性上司が後部シートに女性を乗せたタンデムのバイクにまたがり、ヘルメットを外した瞬間の長い髪がたなびくシーンが目を引く。わたせ氏は「スペインのマヨルカ島に行った時、かっこいい女性カップルがバイクの前後に乗っている場面が印象的だったので、それを描きました」と明かす。
また、片思いの女性に女性の恋人がいると友人から聞かされた男性が落ち込みながらも最後に約束の再会を果たす「見返り美人」。いずれも、社会的な性差の概念を超え、人が「人」として出会う、その感情の機微が違和感なく描かれている。
アニメ制作サイドから「多様性を取り入れたアップ・トゥ・デイトな恋模様」をリクエストされたという。
「私が描いた『男性と別れ話をした女性の恋人が女性だった』という作品はヘミングウェイの『海の変化』というショート・ストーリーの影響がありました。また、NHKさんからの話があった中で『パーフェクト・ノーマル・ファミリー』(2020年製作)というデンマークの映画をたまたまBSで観たんです。妻と娘2人のお父さんが突然、女性になる映画。長女は父が〝お母さん〟になっても自然に接しているんですが、次女は『どうして、お父さんがそんな格好するの?』と違和感を示す。そこは日本人的だなと。逆に、女性になる父を受け入れる長女など周りの環境には『ヨーロッパではこれが普通なんだ』と感じ、日本人は(そんな環境から)離れた場所にいるのかな』と思いました。その後、今作を自然な気持ちで描きました」
「福祉」というテーマでは、交通事故で右足を失った競泳のパラリンピック候補選手の女性が登場する「クリスマスの奇跡」という一編がある。
わたせ氏は「事故で車椅子に乗る女の子に対して、カレが『ちゃんと守ってあげる』という話を描いたんですけど、『それは逆に見下ろしている感じです。車椅子のカノジョが健常者のカレに『頑張れ』と言った方がいい』と言われて作品にはならなかった。ハンディキャップのある人を助ける〝白馬の王子様〟が出てくる話は今の時代、ダメなのかなと思いました』と、視線の変化を実感したという。
そのほか、シングルマザーの介護士、夜職だった亡き母の幻影を求めて同じ源氏名のクラブホステスを指名する男性、離婚した亡妻と再婚した夫に引き取られた娘の結婚を見守る父、離婚届を巡る別居夫婦、少年と亡父の恋人女性、コロナ禍の遠距離恋愛…など、まさに「多様=カラフル」な人生が交差。わたせ氏は「みんな(ハートカクテルの世界で)『カレ』と『カノジョ』になりうるということです」と語る。
同シリーズの作品には、ニュートラルに多様な価値観を受け入れる「寛容さ」が通底している。
「今は『不寛容の時代』で『◯(マル)か×(バツ)』の世界じゃないですか。僕が最初に『ハートカクテル』を描いた時代は◯と×の間に『△(サンカク)』があった。どちらでもない考え方や見方をする人の存在が〝緩衝地帯〟としてあり、物事がうまくいった。今は△が少なくなって、◯か×か…。そうではない『△の時代』はとても寛容だったと思うんですよね」
だが、 そんな「△の視点」の世界観は若い世代の一部にも伝わっている。わたせ氏は「うれしいのは高校生や大学生くらいの男の子から『父の本棚にありました』『父から勧められました』って言われること。分かってくれている。(作品は)不変(普遍)だなと思いましたね」と目を細めた。
(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)
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