「死の現場」撮影して30年のカメラマン タイ、コロンビア、メキシコ…危険地帯で続けた激写 都内で写真展
よろず~ニュース / 2024年9月26日 21時40分
自身の写真集「THE DEAD」と「THE LIVING」を手に、活動30周年記念写真展の入口に立つ釣崎清隆氏=都内の新宿眼科画廊
世界の危険地帯で「死の現場」を撮影し、「死体写真家」という唯一無二の肩書きを掲げる釣崎清隆氏の活動30周年記念写真展「DEATH 1994~2024」が10月2日まで都内の「新宿眼科画廊」で開催されている。展示会場に足を運び、同氏の歩みと思いを聞いた。
釣崎氏は1966年生まれ、富山県出身。慶應義塾大学卒業後、AV監督を経て、94年にタイで死体を撮影する雑誌の仕事で写真家として始動。犯罪が日常的に横行する無法地帯、戦火の紛争地域を渡り歩いてきた。
展示作品は28点。内訳は、交通事故が最多の8点(メキシコ5、タイ2、コロンビア1)で、続いて殺人5点(コロンビア3、タイ、ロシア各1)、法医学鑑定所の遺体5点(ロシア3、タイ2)、自殺4点(日本=青木ヶ原3、東京1)、戦死2点(ウクライナ)、東日本大震災2点(宮城)、葬列1点(パレスチナ)。水死1点(タイ)…となる。
最初の作品は94年9月、タイ・バンコクのホテルで殺害され、死後、数日ほど経過した男性の写真。「自分の経歴で最初のご遺体。その圧倒的な存在に、ある種の感動を覚えた。現場には他媒体のカメラマンやレスキュー隊がつめかけ、狭いホテルの一室で騒然とひしめき合う中、写真を撮る状況はカオスであっても、検死現場としての秩序が保たれる中でシャッターを切った。死体写真家をやっていける…という確信を得た1枚です」。タイでは事件や事故による死体写真を掲載する雑誌の存在が日本でも知られていたが、実際に現場で撮影する日本人写真家としての第一歩を踏み出した瞬間だった。
続いて〝麻薬戦争〟の渦中にあったコロンビアに飛んだ。「90年代のコロンビアは世界一危険な場所。当時、旧ユーゴの紛争に行くカメラマンが周囲に多かったのに対し、ラテンアメリカのカルチャーを尊敬していたこともあり、自分の〝戦場〟に選んだというのはあります。行ってみたら、ドンピシャ。僕が愛するガルシア・マルケス(※ノーベル文学賞作家)の世界が展開されていて、めくるめく愛と憎しみの世界と、むき出しの暴力がそこにあり、どこにカメラのレンズを向けても絵になった。これだ!と思って、コロンビアにのめり込みました」
その地で95年に出会ったエンバーマー(遺体を保存処理、修復する人)のドキュメンタリー映画「死化粧師オロスコ」を監督。「市井の聖者が目の前に現れた。その体験は他国で感じたことはあまりない。出会いの醍醐味があった」
95年は時代の〝節目〟となった年。ソ連崩壊後の治安が悪化したロシアを2度訪れた。国内では1月に阪神・淡路大震災、3月に東京で地下鉄サリン事件が発生したが、海外にいて現場には行けなかった。「そのリベンジは『3・11』を待たなければならなかった」。2011年に発生した東日本大震災の被災地で撮影した写真は、そうした思いも込めて展示されている。
メキシコで交通事故によって切断され、路上に転がる女性の右手首(98年撮影)をアップで撮った1枚がある。薬指と小指に指輪が光る、しなやかで美しい指が印象的。作品として世界でも高く評価され、今回も展示されている。釣崎氏は「ジャーナル(報道)じゃない部分で、アートとして提供できた1枚。一方、ウクライナやバレスチナでの写真は報道的になり、そこにアートを感じることに躊躇する自分がいる。難しいですね、ガチの戦場は…」と明かす。
死体を撮り続けて30年。「究極の被写体と格闘する命懸けの挑戦にやりがいと誇りをもって取り組んできた」。それが釣崎氏の矜恃。今年5月に撮影したメキシコでの交通事故現場が最新作となるが、死体写真の撮影環境は海外でもなくなっているという。
「コロンビアでもゼロ年代から既に撮れなくなっている。無理矢理、人間関係で撮ってきたが、これから10年の間に撮れるのはメキシコと(青木ヶ原の)樹海しかないんじゃないか。自分の会心の出来となる作品は90年代後半に集中していて、初期衝動で撮った作品がまぶしい」。それでも撮り続ける。「名もなき死者」を永遠の存在として写真に刻む。
入場無料。正午から20時(最終日17時)まで。
(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)
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