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手塚治虫「火の鳥」の大規模展が3月に開催 生物学者・福岡伸一氏と手塚るみ子氏が語る魅力とは

よろず~ニュース / 2025年1月1日 9時44分

手塚治虫「火の鳥」の大規模展が3月に開催 生物学者・福岡伸一氏と手塚るみ子氏が語る魅力とは

<手塚治虫「火の鳥」展キービジュアル> ©Tezuka Productions

 マンガの神様・手塚治虫のライフワークに迫る『「火の鳥」展 -火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡(どうてきへいこう)=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴-』が3月7日から東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)で開催される。

 生物学者・福岡伸一氏が企画に携わり、30年以上の長きにわたって執筆された壮大な叙事詩を読み解く。名作の連載開始から70年が経過した今、福岡氏を道先案内人として、新たな生命論の視点から『火の鳥』の物語構造を読み解き、手塚治虫が生涯をかけて表現し続けた「生命とはなにか」という問いの答えを探求する。

 福岡伸一氏は1959年、東京生まれ。京都大学卒および同大学院博士課程修了。ハーバード大学研修員、京都大学助教授などを経て、現在、青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学客員教授。サントリー学芸賞を受賞し、90万部のロングセラーとなった『生物と無生物のあいだ』、『動的平衡』シリーズなど、“生命とは何か”を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表している。

 同展開催決定の際、福岡氏は「手塚治虫のライフワーク『火の鳥』。テーマは〝生きること、死ぬことの意味は何か〟。人間にとって最も深遠な問いです。全編にわたって不死鳥“火の鳥”が登場し、生に執着する人間を翻弄しながら物語を動かします。そこでは、あらゆる生命が常に姿と形を変えながら、連綿と受け継がれていく輪廻転生の生命観、汎神論的な世界観が示されます。これは、生命が絶えず自らの破壊と創造を繰り返しながら、エントロピー増大の法則に抗い続けている『動的平衡(どうてきへいこう)』であるとする私の生命論とぴたりと重なります。本展の狙いは、動的平衡の視点から火の鳥の意味を読み解くことにあります。そして、手塚治虫が描くことを約束しながら果せなかった物語の結末を想像してみたいと思います。ぜひご期待ください」と談話を発表している。

 同展の展示会場は、プロローグから始まり、3章立てで構成。原画をはじめ、映像、関連資料、そして「火の鳥」の世界観を表現したグラフィック等、計800点以上の展示品が並ぶ。マンガの神様・手塚治虫の画力と筆致を目の当たりにする「見て・読んで・体感できる」展覧会。そして、未完に終わった物語の結末について、福岡氏がさまざまなヒントをもとに1つの仮説を立て、考察する。3章の概要は次の通り。

◆第1章 生命のセンス・オブ・ワンダー

『火の鳥』の誕生は1954年(昭和29年)、学童社「漫画少年」での黎明編の連載が始まりだった。その後「少女クラブ」、虫プロ商事「COM」等、掲載誌を変えて、連載が継続。作品の時間軸は、紀元前から西暦3000年を超える未来まで、そして物語の舞台は、邪馬台国から果ては宇宙のかなたまで、時空を超えた壮大な叙事詩が連作される。第1章では、この複雑な物語構造を明らかにし、作品舞台の時代背景とともに年表形式でたどる。また、この偉大な物語を手塚治虫はどのように発想し、構想を深めていったのか。創作の原点にも迫り、作品に溢れる自然に対するセンス・オブ・ワンダー(畏敬の念)に触れます。

◆第2章 読む!永遠の生命の物語

第2章では、主要12編(「黎明編」から「太陽編」まで)の貴重な原稿を多数展示。火の鳥は、その生き血を飲めば不老不死になれると信じ、生に執着する人間を翻弄しながらも、物語を動かし、人類の来し方行く末を常に見守る存在として描かれる。“火の鳥”は、いったい何を象徴しているのか。「生命とは何か」という問いに、手塚治虫はどのような答えを示そうとしたのか。福岡氏が読み解き、混迷を極める現代に向けて、私たちの“生”のありようを哲学する。

◆第3章 未完を読み解く

「死とはいったいなんだろう?そして生命とは?この単純でしかも重大な問題は、人類が有史以来取り組んで、いまだに解決していないのだ。」――これは、手塚治虫が「火の鳥」黎明編の連載の最初に、読者にあてた文章の一部です。手塚治虫は、作家人生43年のうち、35年もの間「火の鳥」を描き続けたが、物語の結末について問われたとき、死ぬときに描いてみせると言明し、作品は未完のまま終了。手塚治虫はいったいどのようにして物語を完結する予定だったのか。永遠の生命をもつことは幸せなのか?――生命は、有限であるがゆえに輝く――「火の鳥」最大の謎に、福岡氏が1つの答えを導き出す。

【次ページ】福岡氏と手塚るみ子の対談が開催

 このほど、福岡氏と、同展に企画協力の形で携わる手塚プロダクション取締役の手塚るみ子氏が「火の鳥」について語り合うトークイベントが報道陣向けに公開された。最初に「火の鳥」の魅力について質問が及んだ。

福岡氏「名作と言われる創作作品には二つの側面があると思います。一つは普遍的なテーマを描いていて、いつの時代にも、どんな人にも問いが突き刺さるものがある。『火の鳥』では生命とは何か、人生の意味はどこにあるのか、不老不死は本当に起こり得るのか、を問いかけている普遍性があります。でも、普遍性を持ってる作品であると同時に、読み継がれる名作になるためには、もう一つの側面がある。それは、非常に個別な問いかけがある。つまり『火の鳥』は、普遍性を持つ物語であるけれども、実はあなただけに描かれている物語ですという個別性を有している側面があると思うんです。私は鳳凰編を最初に読んだのですが、非常にショックを受けました。小学校5年生ぐらいでしたが、我王の苦悩、茜丸の苦悩というのは、これから何者かになるか模索している少年の心に突き刺さりました。手塚治虫の物語の大きなコアは、いじめられっ子の神様であるところ。いじめられてる少年にとって、それを読むと、どこに救いがあるか、どの扉があなたを外側の世界に導いてくれるのか、ということを教えてくれる作品が非常に多くある。そういう意味で普遍性と個別性を併せ持っていて素晴らしいと思いました」

手塚氏「茜丸は手塚治虫の作家としての一面、我王は手塚治虫のこうありたいという一面が備わっていると思います。幼い時に『火の鳥』を呼んだとき、物語がまだ分からなくても、インパクトが子供心に残りました。他の作品に比べてものすごくダイナミックに描かれていて、自由奔放に、漫画のこうあるべきだという壁を全部崩して、やりたい放題という形で絵を描いています。中学生くらいになって、社会が見えてくると、物語のドラマの面白さが見えてくる。過去は大河ドラマのような、未来にはSFの、そこを行き来するのドラマの面白さがある。最後に手塚治虫の人類、地球、宇宙で我々が生きていることに対する思い、哲学的なものが見えてくる。我々が成長するとともに魅力が変わってくるから、読み継がれている作品になっているのではないか」

 このように作品の魅力を語った両者。「火の鳥」から見える現代社会への問いかけなど、さまざまなテーマに発展した。そして手塚治虫の「火の鳥」のような、二人にとってのライフワークについて、質問が及んだ。

福岡氏「私は生物学者なので、生命とは何かという問いに対して答えたい、というのが私のライフワークです。科学的な研究で、例えば細胞を観察したり、DNAを解析したりしていますが、最後の出口というのは生命とは何かということを言葉として表現できること。科学の出口であり、哲学の出口でもあるわけです。今は『動的平衡』という言葉で表していますけれども、この『動的平衡』という概念をさらに解像度の高い言葉で解き明かしていきたい。どうして生命は自分自身を壊しながら作り変えるのか、という一種の意識的な活動、物質だったらくだり落ちてしまう坂を、のぼり返そうとする努力が生命にあるわけです。でもそれは細胞であっても、アメーバみたいなものであっても、その坂をのぼり返している、ある種の意志のような努力があるわけです。その実態を、オカルトの言葉、神様という言葉を使わずに解き明かしていくというのが私の学者としてのライフワークかなと思っています」

手塚氏「私は手塚治虫の娘として、手塚プロダクションの役員として、いかに手塚治虫の作品をこの先、どんな時代になっても、新しい世代がどんどん出てても、読み継がれてもらうために何かを仕掛けていかなくてはいけないという風に思っています。手塚作品が誰にも読まれなくて、崩壊してしまわないように。もしかしたら原作を壊すことになる部分、あるいはその改変というようなものをするのかもしれない。いろいろなアーティストによって、原作にないものを生み出すことは、ある部分で破壊行為かもしれないですが、小さな破壊の中でも核という部分は決して壊れないと思っています。遺伝子の核が姿形を変えたとしても、その核の部分は、永遠に、死をまたいでも受け継がれていくように。手塚治虫の核の部分は決して変えないまでも、上の部分というのはいろいろな形に姿を変えて、輪廻転生のように次の世代に読み継がれていくような形のものにしていきたい。それが自分のライフワークになるんじゃないかな」

(よろず~ニュース・山本 鋼平)

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