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地銀協会長(静岡銀行頭取)が語る「これからの地方銀行の役割」

財界オンライン / 2021年11月1日 11時30分

柴田久・全国地方銀行協会会長(静岡銀行頭取)

コロナ危機下、官民一体となった資金繰り支援により、企業の倒産件数はかなり低い水準に抑えられている。その一方で「廃業を余儀なくされる企業は多い」と、全国地方銀行協会会長(静岡銀行頭取)の柴田久氏。コロナで将来を描きにくくなったり、後継者難で黒字にも関わらず事業を畳むケースがある。地域を支える金融機関として、従来のビジネスモデルだけでなく、顧客の課題を解決する存在になることができるか。

コロナ危機がもたらす厳しさの中で
 ─ コロナ危機が多くの産業や生活に影響を与える厳しい状況下での全国地方銀行協会会長就任ですが、抱負を聞かせて下さい。

 柴田 就任時の所信で、重点テーマの1つに「持続可能なビジネスモデルの構築」を掲げました。会員各行が、自ら持続可能なビジネスモデルを考えることが必要になりますから、我々全国地方銀行協会は、そのための情報を提供したり、金融機関の取り組みを外に向けて発信するといった活動を進めていきます。

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 また、持続可能なビジネスモデルをつくる上では、業務範囲の拡大が不可欠となります。規制緩和要望などを行い、環境を整えていくことも協会の大切な役割だと考えています。

 ─ コロナ危機が起きて以降、地方銀行など地域金融機関が地域経済を支えてきたことで、産業界は厳しい環境下でも何とか持ちこたえてきた経緯があります。足元で貸出先の状況はいかがですか。

 柴田 これは静岡銀行だけでなく、他行にヒアリングしても同様の傾向にありますが、ゼロゼロ融資(民間金融機関の実質無利子・無担保融資)が始まった昨年の5月、6月あたりが貸出金実行のピークでした。

 そこから月を追うごとに実行額は減少しており、資金が行き渡った状態にあるのだと認識しています。全体感として、足元では、資金繰りは落ち着きを取り戻しています。

 ─ 日本銀行による金融緩和でマイナス金利、低金利環境が続き、事業会社は助かる一方、銀行は収益面でも厳しい状況に置かれています。この金融緩和政策をどう見ていますか。

 柴田 異次元緩和に続きマイナス金利政策が始まって年数が経ちましたが、デフレマインドを払拭するという意味で、日本経済にとって一定の効果があったのは事実だと思います。

 ただ、銀行業界において、預金を集めて貸出を行い、その利ザヤで収益を上げるという伝統的なビジネスモデルが厳しい局面を迎えているのもまた事実です。

 金融政策は日本銀行の専管事項となりますが、こうした副作用にも目配りをしていただき、対話をさせていただきながら、今後の金融政策を進めていただけるとありがたいと思います。

地域の企業を支える地銀の役割
 ─ 地域の企業には事業再生、あるいは事業承継に悩むところも多いと聞きます。地域経済を支える地銀として、この問題にどう取り組みますか。

 柴田 コロナ危機を受けて、官民一体での資金繰り支援を行った結果、企業の倒産件数は落ち着いた状態にあります。8月単月の倒産件数も半世紀ぶりの低水準で抑えられています。

 その一方で、廃業や事業の清算を行う企業の数は非常に多く、今年の1―6月を見ても、2万8400社の廃業があり、中には黒字にも関わらず事業を畳む企業も多くあるのが実状です。

 ─ この理由をどう見ていますか。

 柴田 やはり、コロナ禍において事業の将来展望が開けずに、廃業の道を選ぶ企業も多いです。また、約6割の企業は経営者の年齢が70歳以上と、事業承継は非常に重要なテーマとなっています。

 我々地方銀行は、地域が発展して初めて、自らの成長があります。それぞれが根ざす地域の企業の数が減ったり、雇用の場が失われることは営業基盤が弱体化することを意味しますので、事業承継は全ての地方銀行が地域の課題として解決に向けて取り組まなくてはならないテーマだと言えます。

 ─ コロナ危機の中では特に外食、観光関連の企業が厳しい状況に置かれています。静岡銀行のケースも含め、地銀としてどのように対応していますか。

 柴田 全国的な傾向として、飲食、観光、小売といった業種がコロナの影響を色濃く受けています。こうした状況をふまえた、静岡銀行個別の事例を申し上げると、昨年度、コロナ関連の融資を実行したお取引先に対し、ニーズの洗い出しを改めて行ったうえで、今年度は「引き続き資金繰り支援や、経営改善が必要な先」「事業再構築、新分野への進出支援が必要な先」「ビジネスマッチングや人材紹介、DX支援など本業に対する支援が必要な先」「事業承継支援が必要な先」という4つの観点からの支援に取り組んでいます。

 営業店と本部、グループ会社が一体となって、お客様に寄り添った対応をしていこうと取り組んでいるところです。

 ─ コンサルティング的要素が強くなってきていると。

 柴田 そうですね。コロナ禍で、1社1社が異なる経営課題を抱えており、まさに企業の数だけ課題があるという状況です。

 例えば、先程の資金繰り支援や経営改善を必要とする先に対しては、当行の企業サポート部の人員を増員し、現場と一体となって、約700社を重点支援先として伴走支援しています。

地銀再編にはどう対応するか
 ─ 地銀業界全体に再編ムードもあるわけですが、どういうスタンスで臨みますか。

 柴田 再編には統合、合併、提携とありますが、いずれにせよ、ビジネスモデルをどう変えていくかが問われます。

 まずは地域において地方銀行が何を求められているのか。お客様のニーズを起点にして、いかに新しいビジネスモデルをつくっていくのかを考えるわけです。その中で自行の経営資源だけでは足りない部分を補うために他行との合併を選んだり、異業種との連携・提携を選ぶという話が出てくるという順番だと考えます。

 地方銀行の中には、例えばシステムで地域に関係なく連携を進めたり、M&A(企業の合併・買収)の分野で提携するなど、部分部分で他行と連携するケースが出てきています。また、地域内の再編、隣接県での経営統合を行う銀行もあるなど、様々な形が見られます。

 ─ 各行、各地域で事情は違いますから個別の判断で進めていくということですね。静岡銀行は隣県の山梨中央銀行と提携していますが、この効果は?

 柴田 山梨中央銀行さんとは、静岡銀行のグループ会社の機能を活用してもらうことを含め10の分野で様々な連携施策を進めており、5年間で両行合計100億円の収益効果を上げることを目指しています。提携したのは昨年10月28日ですが、今年6月末までの8カ月間ですでに14億円の効果が出てきています。

 今は全てを自前主義でやっていける時代ではなくなってきていると思います。我々地方銀行は、メガバンクのように人材が豊富にいて、システム投資などを含めて全て自前で賄っていけるだけの経営体力があるわけではありません。それぞれの地方銀行が足りない部分を補うという意味でのオープンな連携や提携は有効な手段ではないかと思っています。

 ─ 改めてメガバンクにはない地銀の強みはどういうところにあると考えていますか。

 柴田 やはり地域密着という点だと思います。メガバンクは東京圏から営業を行う、専門性が高い銀行です。これに対し、地域で店舗も含めて身近な存在となるのが我々地方銀行です。ですから、地域密着の強みを深掘りしていく、強く磨き上げていくことが重要だと考えています。

 今回のコロナ危機は、我々地方銀行の存在が見直されるきっかけになったと思います。こうしたなか、各銀行が様々な工夫、取り組みを行い、単なる銀行としての存在からの脱皮を進めています。

 地域商社的な事業に取り組んでいる銀行があれば、地域企業のDXを強力に進めるためシステムに注力している銀行もあります。各行の創意工夫で、新しい様々な取り組みが出てきていると感じます。

 ─ 新分野の開拓にあたって、近年行われている銀行法の改正は効いていますか?

 柴田 ええ。銀行法の改正は、この数年でも断続的に行われていますが、これは我々にとって非常に大きな意味を持ちます。

 今年の5月に公布され、11月に施行予定の改正銀行法では、銀行の子会社や兄弟会社の業務範囲が広がったり、「従属業務」(その会社にとって従属する銀行やその子会社等の業務に関する事務)の収入依存度の規制が緩和されます。

 我々地方銀行が、工夫次第で新たな事業を営むことができるよう、道が開かれてきていると思います。

 ─ コロナ禍を経て、デジタル化が加速していますが、銀行のDXに対する考え方を聞かせて下さい。

 柴田 DXはあくまでも手段だと考えています。DXを進めながら、企業のビジネスモデルをどのように変えていくかというところにつながっていくのだと思います。

 DXを進めるにあたっては、企業の文化自体を変えていかなくてはいけません。その企業が何年も当たり前のようにやってきたやり方、従来の考え方を変えていくことが求められますが、デジタルだけで業務を変えていくのは難しい。DXはその文脈で考えていく必要があります。

 さらに言えば、我々のDXだけでなく、地域の取引先のDX支援も大きなテーマです。何かの業務をDXで変えようという時に、我々のシステムだけが整っていても、お取引先が同じ環境になければ、一気通貫でデジタル化できないからです。

これからの銀行のあるべき姿とは?
 ─ 日本全体の問題として「東京一極集中」があります。地方再生の最前線にいる地銀として、この問題をどう考えますか。

 柴田 背景には複合的な要因があると思います。例えば人口減少で言えば、静岡県の高校を卒業した後、多くの人が首都圏の大学に進学しています。これには静岡県内に教育機関が少ないという問題が関係しています。

 さらに、その首都圏の大学に通った人達は地元に戻らずに、首都圏で就職してしまうという現実もあります。これは地元に魅力ある職場が少ないことがその一因だと考えられますので、静岡の産業や企業の魅力をもっと高めるための支援も、地方銀行の重要な役割の1つだと思います。

 静岡銀行では、「TECHBEAT Shizuoka」というイベントを静岡県と共催し、首都圏のベンチャー企業が持っているノウハウと、静岡県内企業とをマッチングさせることで、県内企業が魅力ある企業として成長する、あるいはベンチャー企業が静岡で事業を立ち上げ、新たな産業が育つといったことを目指しています。

 ─ 雇用を生む意味でも重要な取り組みになりますね。

 柴田 そう思います。今回のコロナ危機で、首都圏一極集中が見直される機運があると感じます。首都圏からの移住という観点では、全国で人気1位が静岡県、2位が山梨県です。

 現在、山梨中央銀行さんとの間で、例えば移住・定住者向けローンなどの新しい金融サービスを提供することで静岡県と山梨県に人々を呼び込むことができるのではないかと思案しているところです。

 ─ 柴田さんが考える、これからの銀行のあるべき姿を聞かせて下さい。

 柴田 先程も申し上げましたが、伝統的なビジネスモデルで収益を上げていくことは難しい時代を迎えています。こうしたなか、これからの時代においては、お客様に寄り添い、課題を解決するための業務をいかに磨いていくかが、各銀行のビジネスモデルをつくる上で重要になってきます。

 今後は、従来以上に「銀行グループ経営」にスポットが当たってくるのではないかと考えています。静岡銀行にも連結で13社のグループ会社がありますが、それぞれの会社が自立し、専門性を磨きながら成長すること、そして相互の連携を高め、グループとしてより高度で多様な総合金融サービス機能を提供することが大事だと考えています。

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