悲観もせず、楽観もせず、やるべき事を【私の雑記帳】
財界オンライン / 2021年11月14日 11時30分
悲観もせず、楽観もせず
コロナ禍収束の兆しが見られるが、まだ気は緩められない。10月中下旬で二回目のワクチン接種を済ませた人が68%に達し、ワクチン効果が出て、東京都内の1日の感染者数も30人台という水準。
8月の1日5000人台といった数字と比べると、深刻感は無くなった。しかし、油断は禁物。英国などは変異株が出て、若年層に感染者が増え始めたとか、ロシアでは感染者が1日3万人、亡くなる人も千数百人台という話を聞くと、日本国内で第6波が襲来することにも警戒が必要であろう。
ただ、塩野義製薬が国産ワクチンや飲み薬としての治療薬を近く世に送り出す予定であるなど、心強い話もある。悲観もせず、楽観もせず、やるべき事をしっかり実行していくことが大事であろう。
成長と分配の好循環で
岸田首相は第1次内閣を9月中旬スタートさせた時、『成長と分配の好循環』を経済政策の大本に据えると宣言。
以来、「中間層の充実を図る考えはもっともだ」と評価する声がある半面、「分配の色彩が濃く、株式市場は警戒ぎみ」と先行きを懸念する声もある。
岸田首相は、「成長か分配かの二者択一論は不毛」とし、「成長なければ分配なし」、「分配なければ成長なし」と強調。だとすれば、成長策のしっかりとした具体策を早く国民に示すべきであろう。
デジタル化、グリーン化という大きな流れの中で、規制改革を進め、富を創出する民間の知恵を引き出すことに尽きる。
旧来の規制改革は、「政府(官)は口を出すな、民に任せろ」といった感じのものだったが、産・官・学・労の連携が今は求められているのではないだろうか。
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自助・共助・公助
コロナ禍では東京、大阪など大都市で医療崩壊が一部見られ、自宅療養者が増え、自宅で亡くなる人も出た。
国と都道府県の連携のまずさ、公的病院と民間病院との連携のまずさも指摘された。重症患者を引き受ける公的病院や大学附属病院と中等症や軽症患者を扱う民間病院との連携で、司令塔を果たすのは官(政府、自治体)であろう。
国難ともいうべきコロナ禍であり、危機管理には産・官・学・労の連携は必須である。
民間の生き方は、まず自立である。つまり自助の精神だ。
しかし、自助だけでは解決できない課題もある。そうしたときには、民と民、あるいは官と民の連携で生きる〝共助〟も必要。また、社会全体の仕組みづくりに直結する場合は、財政(税金)投入による〝公助〟という場面も出てくる。
〝新しい資本主義〟とは
コロナ禍が全体的に一段落したと思えば、各地で地震が起き、阿蘇では火砕流を伴う噴火が起きた。自然災害が頻発していることにも警戒が必要だ。
それに、原油、天然ガスや産業用資材の高騰も気がかりだ。
このような中で好業績をあげる企業も少なくない。
〝失われた30年〟といわれる日本も、自ら改革し続ける企業は強い。自助の精神の実践である。
ソニーグループもそうだ。2021年3月期は純利益も1兆円を超えた。かつて日本の高度成長を支えた〝電機業界〟という言葉は今や消滅した。
ソニーの稼ぎ頭は、エレクトロニクス(家電製品)ではなく、映画や音楽、そしてゲームなどのソフトやサービスだ。エンターテインメント部門の充実である。
会長兼社長の吉田憲一郎さんは、「世界の人たちに感動を与える企業でありたい」と、〝感動〟を経営のキーワードに掲げる。
そのソニーグループが、今度は半導体分野で新しい手を打ち出した。世界最大の半導体受託製造会社のTSMC(台湾積体電路製造)が熊本県に造る半導体の新工場に同グループも出資を検討。
総投資額は8000億円で、うち半分は日本政府が補助する。
経済安全保障の視点からも、今回のTSMCを巻き込んでの官民連携は注目される。
新しい資本主義は、国の役割とは何か、企業の使命と役割はどうあるべきなのか、そして個人の生き方・働き方を問うことになる。
廣瀬光雄さんの提言
『日本の制度設計』をどう進めていくか?
本誌『財界』では、前号(秋季特大号)で廣瀬光雄さん(1937年生まれ、ビジネス・ブレークスルー大学大学院名誉教授)に登場してもらい、『世界の変革の波に乗り遅れるな!』を掲載した。
廣瀬さんは慶大卒業後、1964年(昭和39年)大日本印刷に入社。米シリコンバレーに渡り、1979年から1986年まで米国法人社長を務めた。
大日本印刷が本業である印刷の技術で開発したフォトエッチング法で印刷した配線、つまりセミコンダクター(半導体)を米国の産業界に売り込むための渡米。42歳のときのことである。
その後、医療・ヘルスケア関連のジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人社長を務め、パシフィックゴルフマネージメントを創業し、バブル崩壊後のゴルフ場再生で手腕を発揮。現在は、経営者養成のビジネス・ブレークスルー大学大学院で教鞭を執っている。
産業の盛衰を見てきた廣瀬さんが、「今はコネクテッド(Connected、つながる)の時代です」と強調する。
車の電動化で最先端を走る米テスラ。半導体が不足する中、代替品で対応し、2021年7月―9月期も史上最高益(16億ドル強)をあげて好調。テスラ株の時価総額は約93兆円とトヨタ自動車の3倍近くに膨れ上がる。
「テスラはコネクテッドを実践している会社」と廣瀬さん。
『つながる』思想
車の電動化時代を迎えて、CASEという言葉が使われる。
CはConnected(つながる)、AはAutonomous(自動化)、SはSharing(共有)、EはElectric(電動化)ということ。
「日本人の好きなインテグレーテッド(統合)ではなく、コネクテッド。そういう考えで、創業者のイーロン・マスクが開発した車がテスラなんですね。テスラの車って知っている人はみんな知っているんだけど、それを支える心情というか理念が、日本のトヨタとどう違うかということまで掘り下げて見ていないんですよ」
イーロン・マスク氏は「テスラはいまだに完成車を納車したことがない」と言う。
「テスラって未完成車なんだと。皆さんがそれぞれ乗り心地とか使い心地とかを、パソコンで教えてください。皆さんの意見で直していきますと。要するに、オープンシステムで、みんなの知恵とつながるということ。言ってみればいいとこ取りの発想ですね。ここが違います」
世界中の知恵とつながるというところが、テスラの知恵と強調する廣瀬さんである。
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