【わたしの一冊】『失敗の本質日本軍の組織論的研究』 戸部良一 他 著
財界オンライン / 2021年11月3日 15時30分
非常時に役に立たない日本的組織 非常時にいかなる人物がリーダーとなり、いかなる戦略を組織的に構築するかは国の存亡に関わる。チャーチルもマッカーサーも戦時限定の英雄であった。我が国では10年前に未曾有の有事である福島第一原発事故が発生した。そして今回、100年ぶりのパンデミックとなるコロナ禍に直面している。
この二つの非常事態宣言を出した政権は異なったが、その対応はいずれも敗戦・失敗と評価されてもやむを得ない。
本書は全3章からなり、1章はミッドウェー、ガダルカナル等の失敗事例研究、2章は大東亜戦争敗戦の要因を戦略上および組織上の視点から分析し、日本軍の失敗の本質を組織的失敗と位置づけている。最後の3章は日本軍の特性や欠陥が敗戦後も日本の様々な組織に継承されたとの認識のもとに、統合機能を欠き、自己革新組織たりえず、自己否定的組織学習を行えなかった等の日本軍と同一の欠陥を、日本の政党、報道機関や行政官庁が持つと指摘している。日本軍は異端や異能を排斥し、インフォーマルな人的ネットワークによる作戦行動を取り、陸海参謀組織の上部構造として統合本部が存在せず、東条英機という個人が全てを統合するという歪んだ集団主義であった。また、日本軍エリートは科学的思考もコンティンジェンシープランも持たず、「戦機まさに熟せり」とか「天佑神助」などの空文虚字の作文が罷り通った、と指摘する。「ステイホーム」「人流抑制」などという国や都のコロナ対策を想起せざるを得ない。
最近の三菱電機の検査不正は本社と現場の連携不在という日本軍の失敗の二の舞である。
本書は日本的組織と日本人の行動パターンに対する頂門の一針として、発刊から40年近い歳月を経ても、少しも輝きを失わない。昨今の危機管理ゼロの国家・大企業のリーダーたちは太平洋戦争が始まった80年前からの悪弊を踏襲しているのだから国の将来が心配である。
久保利 英明 日比谷パーク法律事務所代表、弁護士 https://kubori.jp/
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