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【プラスチックの循環型社会を】化学大手が進める「廃プラスチックの完全資源化」

財界オンライン / 2021年11月16日 15時0分

海洋汚染の原因となっている廃プラスチックーー。この問題を発端に、プラスチックを取り巻く環境が変化している。環境に優しいバイオプラスチックなどの普及と合わせて、今、化学各社が注力するのが、廃プラスチックの循環型サプライチェーンづくり。環境や人権に配慮しなければビジネスが成立しない時代、素材メーカーは社会の仕組みづくりまで踏み込んだ事業を始めようとしている。

廃プラスチックの再生率は25%

 CO₂を排出する「サーマルリサイクル」はリサイクルとは言わない─。ごみ回収の仕組みなどリサイクル先進国と思われてきた日本だが、世界基準で見ると、違う景色が見えてくる。

 日本の廃プラスチックの回収量は年間851万㌧。そのうち、未利用の廃プラが15%。樹脂に再生する「マテリアルリサイクル」が22 %、プラスチックを分解してモノマーの状態まで戻す「ケミカルリサイクル」が3%、そして60%と大半を占めるのがプラスチックを燃やして燃料にする「サーマルリサイクル」だ。

 日本はサーマルリサイクルも含めてリサイクル率85%を謳ってきたが、CO₂を排出するサーマルリサイクルを除くと、リサイクル率は25%に激減する。

 環境対応で世界のルールづくりを主導する欧州はリサイクルの責任を供給メーカーが負うべきとする流れにある。こうした中、日本でも化学メーカーを中心に様々な取り組みが進んでいる。

 住友化学はアクリル樹脂を熱分解して、原料となるMMAモノマーに再生する技術を確立。愛媛工場にケミカルリサイクルの実証設備を建設して2022年から実証実験を開始、23年からサンプル提供を開始する他、積水化学工業と〝ごみ〟をまるごとエチレンにし、そのエチレンでポリオレフィンを生産する実用化に着手している。

 三菱ケミカルはENEOSとプラスチックの油化事業を開始。茨城事業所に年間2万トンの処理能力を持つケミカルリサイクル設備を建設。23年度に廃プラスチックの油化を開始する。

 また、昭和電工は宇部興産と荏原環境プラントの技術を活用して、川崎工場で廃プラスチックから水素と二酸化炭素を作り、それらを原料にアンモニアや炭酸、ドライアイスなどを生産している。

 廃プラスチックのリサイクルで問題となるのが「品質」と「回収」。「求める品質」は出ているか、再利用可能な廃プラスチックを「どう集めるか」という問題だ。

 実用化している昭和電工の場合、川崎という一大消費地に工場があることで「回収」の問題をクリア。また、アンモニアや炭酸などケミカルリサイクルで自社に必要な原料を生産しているため、ビジネスとして成り立っている。だが、元の技術を持つ宇部興産は設備のある山口県宇部市で十分な廃プラを集められずにプラントを休止。2010年に事業撤退を余儀なくされた(現在はライセンス事業を展開)。

 こうした中、注目を集めているのがブロックチェーンを使ったプラスチックの循環型プラットフォームの構築。ブロックチェーンの強みであるトレーサビリティ(履歴の可視化)を活かし、社会全体でプラスチックをリサイクルする仕組みづくりだ。
 
消費者参加型の仕組みに

「リサイクル材を使用する大きな課題は『含有物質の明確化』と『トレーサビリティをいかに担保するか』ということ。この課題を解決するため、ブロックチェーン技術を活用し、プラットフォームとなり得る技術を開発しています」(三井化学デジタルトランスフォーメーション推進室長・浦川俊也氏)

 三井化学は今年4月、日本IBMとブロックチェーンを活用した資源循環プラットフォーム構築に向けた協議を開始。。8月に野村総合研究所を交えた3社でコンソーシアムを組み、実証実験を進めている。

 プラスチックの再利用といっても、医療機器関連など高い品質が求められるものでは「リサイクル材の含有物質の明確化」が求められる。また、リサイクル品には税制優遇もあるため「リサイクル材であるという保証」も必要。さらに欧州では「出自不明品の取り扱いを除外」する流れがある他、中国の使用済ペットボトルの受け取り拒否で露わになった「国内循環確保」の必要性など、解決すべき課題は多い。

 そこで、三井化学連合では、ブロックチェーンを使って「製造工程」「検査工程」「物性情報」「品質情報」「有害物質情報」「リサイクル材比率」「リサイクル回数」などを追跡。

 家電であれば、「原材料の製造ロット」、「プラスチック部品の製造ロット」、「家電製品のシリアル番号」、「消費者が購入した後のシリアル番号」、「使用済み家電を回収したケース・回収車番号」、「解体業者の解体ロット・製造ロット」、「破砕業者の下で破片になったプラスチックや金属の製造ロット」、「再生プラスチックになった製造ロット」を追跡。さらに、そこから原料まで戻り、再度製品化される循環を追跡できるようにする。

 現在、2つの実証実験で現場の負荷や課題を洗い出し、最適な仕組みを模索。さらに、その先では、消費者に〝トークン〟というポイントを付与し、使用済み製品が効率的に回収できる仕組みづくりも視野に入れる。

 素材を手掛ける三菱ケミカル、原料を調達してパッケージを製造する大日本印刷、再生樹脂事業を手掛けるリファインバースもブロックチェーンを活用したサプライチェーンづくりを進めている。

「原料」から「最終製品」まで追跡できるサプライチェーン・トレーサビリティシステムを開発した蘭サーキュライズ社のシステムを活用し、パッケージのプラスチックの配合など「企業秘密となる情報等には配慮しながら再生プラスチックの配合率をわかるようにするなどの検証を仮想の製品で調べている」(大日本印刷包装事業部・イノベーティブ・パッケージングセンター・マーケティング戦略本部事業開発部部長・加戸卓氏)

 リサイクルの仕組みは消費者を巻き込んだ社会インフラづくりでもある。今は各社でノウハウを蓄積している状況だが、最終的には、全国共通の仕組みに集約されるのが望ましい。

 三井化学は実証実験後、22〜24年度にかけて国内のコンソーシアムを設立し、25年度以降は「日本発のグローバルプラットフォーム」を目指す方針だ。

 素材メーカーは今、「単品の提供」から「ソリューション型」ビジネスへの転換を進めている。物質的側面で社会を支える素材メーカーだからこそ、新たな社会の仕組みづくりでも果たすべき役割は大きい。

積水化学工業の「得意技を磨き続ける」経営

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