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【日本のガバナンスを問う】上村達男・早稲田大学名誉教授

財界オンライン / 2021年11月17日 18時0分

上村達男・早稲田大学名誉教授

株主には誠実義務がある

 ―― 昨今、経営の混乱が続く東芝や不正偽装が相次ぐ三菱電機など、日本を代表する企業のガバナンスが問われています。こうした状況をどのように見ていますか。

 上村 わたしが特に東芝問題について思うのは、モノ言う株主にモノ言う資格があるのかがまず問題で、とりわけ配当などの財産権はともかく、議決権は企業社会のデモクラシー(民主主義)の問題ですので、株主の素性情報などが十二分に与えられることなしに、簡単に認めてはいけないと思います。

 ―― この辺は大事なポイントだと思いますので、もう少し詳しく説明してもらえますか。

 上村 株式会社制度は各会社が持っている事業目的を最大に実現するところに基本的な役割があります。これは定款の目的を守るのですから、株主価値最大化がこれ以上の意義を有することはあり得ません。

 投資ファンドにもいろいろあります。しかし、日本の企業が獲得した利益を、1万分の1秒単位での売買を繰り返すような、しかも匿名の、固有の事業目的を有しないファンドなどに分配することが目的であるかに思わされていることくらい、国益に反することはありません。もう少し長期で持つ場合も、東芝のようにガバナンスの根幹を揺るがすことで利を得ようとすれば多少長めに持つ必要があるというだけだと思います。

 欧州でも会社は株主のものと言いますが、それは個人や市民、ないしは、個人に対して厳格な受託者責任を負う機関投資家にのみ、モノ言う資格があるというのが前提です。社会の仲間、companyであると認知される必要があります。まして、支配できるほどの株式を有すれば、会社に対する誠実義務があるというのは当たり前です。

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株主総会のあり方が問題

 ―― 全ステークホルダーに誠実でなければならないと。

 上村 ええ。全ステークホルダーとは言い換えると社会を構成する人間たち、ということですね。例えば、英独仏では株主の素性を確認する制度があって、匿名の株主は相手にしません。日本にはそれすらありません。

 ところが、米国ではカネで株式を買ったら主権者になる。つまり、株を買ったらシェアのホルダー(株式を持っている者)というだけで正当な株主であり、主権者になれると。カネがあれば必ず株式を買えますので、要は人間たちを支配できる根拠はカネだけで良いのです。

 もともと欧州の会社制度を規範としてきた日本は、この30年ぐらいで急速に米国の発想に取り込まれ、欧州的な株式会社や株式市場に警戒的な制度のあり方を過剰規制だとして軒並み規制緩和の対象にしてきました。そうなるとカネがあるものは誰でも株主になれますので、規制についてナイーブな日本を狙って登場してきたのが、海外ファンドです。

 しかし、日本のマスコミは何も考えずに、彼らの声を資本市場の声とか資本市場の信認と言って疑わない。わたしはこうした現状に呆れています。

 ーー ところで、今後の企業と株主との対話のあり方は、どのように考えていけばいいですか。

 上村 わたしが問題だと思うのは、株主総会とガバナンスの関係。もっと言えば、株主総会のあり方が問題だと思います。

 株主総会というのは、3カ月前に株式を取得していた人たちが参加できる集会です。しかも、翌日に株式を手放した人まで参加できる。つまり、株主でない者も参加できる集会で、かつ、質問は事前にでき、決議も書面でよい。株主総会の無機能化というのは100年も前からの認識なのですが。

 ―― なるほど。これは大事な指摘ですね。

 上村 株主総会というのは、もともとその程度のもので、昔から観客のない喜劇と言われてきました。その分、大事にされてきたのがガバナンスなのですね。ガバナンスをきちんと守ろうとしたら、経営者にはものすごく負担が大きいですし、しんどいです。その現実を無視して、株主総会を会社の最高意思決定機関であるかのように思い込んでいるマスコミはあまりに不勉強だと思います。

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