日本の成長政策をどう進めるか? 望月晴文・元経済産業事務次官(東京中小企業投資育成社長)に聞く
財界オンライン / 2021年11月19日 18時0分
従業員に対する分配を
―― 先の衆院選では「成長と分配」が争点となりましたが、今回の衆院選を望月さんはどのように受け止めていますか。
望月 岸田首相は「成長と分配の好循環を目指す」と宣言し、立憲民主党などの野党は「分配なくして成長なし」ということで、「成長と分配」がぼんやりとした争点というか、キーワードとなりました。
安倍政権は第一、第二の矢で大胆な金融政策と機動的な財政出動を行い、規制緩和や構造改革をしながら第三の矢である成長戦略を実現しようとしました。その成果がトリクルダウンといって、富裕層や大企業が豊かになれば、その恩恵が低所得層や中小企業に波及する。そういうことを目指したわけです。
この成長に至るまでのシナリオは菅政権も、今回の岸田政権においても、そう差は無いと思います。成長のシナリオの先に今度はトリクルダウンではなく、分配ということを、どのように上手にできるかというのが、岸田首相には問われていると思うんですね。
―― この分配ですね。一部ではバラマキではないか? という見方もあるんですが。
望月 バラマキというのは、成長をした後、財政を経由して配るということですよね。しかし、今度は経済のメカニズムの中で成長の成果を直接、従業員や国民に配るということなんで、いわゆるバラマキとは違うと思います。
要するに、企業の中ですでに貯まっているキャッシュ、いわゆる内部留保をどのように有効に活用していくかが重要で、貯めこんでいるだけでは意味がない。今の企業経営者は、この部分が弱いかなと思うので、もっと分配というか、投資に向けてほしいと思います。
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人への教育投資が必要
―― では、どのような投資が望ましいですか。
望月 投資の基本というのは、1に設備投資、2に成長投資、そして3にM&A(合併・買収)です。これは資金効率がいい順で、まずは設備投資。その次に時間はかかりますが、成長のための研究開発投資、そして最後に成長のための時間を買うためにM&Aを行うと。わたしはこれが企業における投資の大前提だと思います。
その上で、企業が稼いだ利益を、これら3つの投資に向けると同時に、従業員に対する賃金で分配する。そして株主を含めたステークホルダーに分配することが大事だと思います。
近年は株主に分配する、つまり配当することに関しての議論ばかりが盛り上がっていますが、従業員に対する分配という部分が盛り上がってこなかった。ここは本来、労働組合の役割なのだろうと思いますが、労組の力が弱くなっていますので、ここのところをどういうルールや政策で実行してもらうのか。これが問題なのだと思います。
―― いかに賃金を上げていくかというのは大きなテーマですね。
望月 ええ。安倍政権の時に経団連などに賃上げを要請して、いくらか賃上げをした会社はありましたが、あれでお終いではいけない。もっと健全な労使関係でいけば、賃金の分配に関しても、株主が株主総会で配当の分配を要求するように、経営者と従業員の関係も同じようになるべきだと思います。
日本は過去の失われた30年といわれた時期に、債務、雇用、設備という3つの過剰を解消し、筋肉質な体制をつくることでバブルからの復活を果たしてきました。ただ、その後もリーマンショックや現在のコロナがあったりして、なかなか人への投資ができていないのが現状です。
だから、これから日本企業に必要なことは、先ほど言った3つの投資に加えて、わたしは、人材のためにもう少しお金を使うべきだと思います。
―― 何より、これからは人材投資が大事だと。
望月 ええ。今までも政府は補助金を出したり、教育センターをつくったりして、様々な支援策を打ち出していますが、今度は人材投資に対する支援も加えてほしい。大企業は投資もできますが、中小企業はそんなに余裕がない。この中小企業に手を打っておかないと、ここから先、中小企業だけが取り残されてしまうので、そうならないような政策が必要です。
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