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【政界】第2次岸田文雄内閣が本格始動 問われる経済安保と成長政策

財界オンライン / 2021年11月22日 11時30分

イラスト・山田紳

※2021年11月17日時点

単独で国会を安定的に運営するために必要な絶対安定多数(261議席)を確保した自民党。次は首相・岸田文雄政権の目玉政策である「成長と分配の好循環」の具体策はいつ出てくるのかに国民の関心は移る。2050年の脱炭素政策は新規事業の創出を生む一方、原子力発電所を動かすかどうかの明確な判断が要求される。国民の声を聞くと同時に、国民にも痛みを強いることが求められる中、世界で存在感を示す日本へと変われるかどうかは岸田のリーダーシップにかかっている。

徹底した「岸田流」

 岸田は衆院選を最後まで「岸田流」で戦った。他人のことを批判せず、攻撃せず、悪口も言わない。岸田が永田町では珍しい「敵のいない政治家」といわれる所以だ。今回は、野党が全国289小選挙区のうち213選挙区で候補者を一本化し、血で血を洗う戦いが展開された。それでも「岸田流」を貫いた。

 衆院選が公示された10月19日、北朝鮮は新型とされる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を日本海に向けて発射した。岸田は自民党公認候補の応援演説を途中で切り上げて首相官邸に戻ると、政府の国家安全保障会議(NSC)を開催。

 記者団に「我が国と地域の安全保障にとって見過ごすことができない」と述べ、その上で「『敵基地攻撃能力』の保有も含め、あらゆる選択肢を検討するよう改めて確認した。今後とも防衛力の抜本的な強化に取り組む」と強調した。

 さらに選挙期間中には、中国とロシアの海軍艦艇が津軽海峡を日本海側から太平洋に向かって通過し、南下した後、大隅海峡を東シナ海に向けて通過した。津軽海峡などは国際海峡のため国際法上の問題はないものの、日本を周回する特異な行動だった。だが防衛相の岸信夫が「初めての確認で極めて異例だ」とし、「我が国への示威活動を意図したもの」と分析してみせただけだった。

 岸田は街頭演説などで「北朝鮮が弾道ミサイルを発射した。最近は中国とロシアの艦隊が私たちの国の回りを航行し、訓練をしている。こういった事態が報じられている」とまるで他人事のように語っている。

 岸田周辺は「慌てている感じを与えると相手が喜ぶだけ」というが、国民の生命と財産を守ることは国家運営の最大の基礎だ。明確な政治的メッセージを出すことは相手国に警告を発するだけでなく、日本国民に安心感を与えることにもなる。

 しかも、今回の衆院選では野党勢力、特に野党第一党の立憲民主党への「攻撃材料」になったはずだ。立憲民主党が「日米安全保障条約の廃棄」「自衛隊の段階的解消」を掲げる共産党と政権獲得が実現した際の「限定的な閣外協力」で合意したことから、立憲民主党の外交安保政策に対する国民の不安をあおることができたからだ。

 しかし、岸田は衆院選が終わるまで、中国などを牽制しないだけでなく、それを立憲民主党や共産党に対する「口撃」材料にすることもしなかった。

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政府と党の役割分担

 その役目は、岸田政権で自民党幹事長に就いた甘利明や、副総裁兼財務相から党副総裁に迎えられた麻生太郎らが担っていた。「岸田流」を貫くため、明確な「役割分担」であり、「チームプレー」だったのだ。

 野党攻撃の口火を切ったのは甘利だった。「立憲民主党と共産党が候補者の一本化を図り、勝利した場合、閣外協力をするという。今回は体制選択の選挙だ。日本の政治史上、初めて共産主義の考え方が政府に入ってくるかどうかの戦いだ。私どもは自由と民主主義を守っていかなければならない」

 衆院解散直後の10月15日、岸田と首相官邸で会談した後、甘利は記者団にそう語り、立憲民主党の政治理念なき「共闘」路線を批判。選挙期間中も街頭演説などで繰り返し訴えた。

 麻生も応援演説などで「いま立憲共産党になっている。共産党は確か天皇制反対、自衛隊違憲、日米安保条約に反対。そういう政党と立憲民主党は『共闘』しており、日本の舵取りを任せるわけにいかない」と野党攻撃を続けた。

 麻生、甘利とともに頭文字から「3A」と呼ばれた元首相・安倍晋三も同じ。首相在任中に安全保障関連法を整備して強固な日米同盟関係を築き、覇権主義的な動きを強める中国や核・ミサイル開発を進める北朝鮮に睨みを利かせてきた自負がある。

 街頭演説では「共産党の力を借りて立憲民主党が政権を握れば日米同盟の信頼関係は失われる。世界の平和と安定を維持していくため、私たちは絶対に負けるわけにいかない」などと訴えた。

 岸田も衆院選最終盤になって、役割分担していることをインターネット番組で明かしている。「北朝鮮が弾道ミサイルを発射するとか、中国とロシアの艦隊が日本列島の周りで訓練をしているとか、不透明な状況にある中で、国民の命や暮らし平和を守る。共産党と手を組むことによって政権を取ろうとしている方々が本当に責任を担えるのか。こういった言い方をしてもらっている」

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経済の安全保障

 岸田政権内の役割分担の重要な一角を担う甘利が幹事長を辞任した。自身が小選挙区で敗れたことが理由だった。

 党内には「衆院選の仕切り役としてけじめをつけたいのだろうが、落選したわけではないし、絶対安定多数を確保した自民党も負けたわけではいない。辞める必要はない」との声もあったが、岸田は甘利の辞意を受け入れ、後任幹事長に外相の茂木敏充を起用した。

 衆院選を乗り切り、第2次岸田内閣を発足させた岸田がこれから進める重要政策のひとつが「経済安全保障」政策だ。岸田は自民党政調会長時代、新国際秩序創造戦略本部の本部長を務め経済安保を中心にした政権構想を練ってきた。

 経済安保を「我が国の生存、独立及び反映を経済面から確保すること」と定義し、(1)エネルギー(2)情報通信(3)交通・海上物流(4)金融(5)医療─の5つを重要産業と位置づけ、それぞれの基本政策を示している。

(1)エネルギー=電力の安定供給及び安全の確保▽電力事業者のサイバーセキュリティ対策の強化▽脱炭素化に向けた取組みなど

(2)情報通信=ネットワークの強靱化▽電気通信事業者のサイバーセキュリティ対策の強化▽研究開発・産業基盤強化のための資金確保など

(3)交通・海上物流=インフラの強靱化の推進▽安全対策の充実・テロ等対策の推進▽国際競争力強化等による製造基盤・技術基盤の維持など

(4)金融=金融システムの強靱化▽情報セキュリティの強化▽暗号技術等の高度化のための取組みなど

(5)医療=研究開発支援の強化▽国立感染症研究所の機能強化▽ワクチン・治療薬の研究開発能力の強化など

 いよいよ具体化させ実現に移す段階になった。岸田の掲げる「成長と分配の好循環」の成長戦略の柱となる。世界的な新型コロナウイルス感染拡大が収束した「アフターコロナ」「ポストコロナ」は新しい国際秩序が生まれるとされ、そのとき日本が国際社会で主導権を握るための国家戦略でもある。

 ただ、今の日本の産業界は中国と密接な関係にあり、経済分野で中国に毅然とした態度をとることは難しい。しかし、経済安保政策の推進は中国を強く意識せざるを得ず、様々なハレーションも起きることが想定される。

 岸田は経済安保政策の実現に向け、まずは「経済安全保障推進法」制定に取り組む。新設した経済安保相に小林鷹之を抜擢し、経済再生担当相に山際大志郎を起用した。小林は党戦略本部の事務局長を務め、山際は幹事長だった。2人は戦略本部の座長だった甘利とも親密な関係にあり、経済安保政策を重視する姿勢を前面に打ち出した。

 特に小林、山際を閣僚に起用する一方、牽引役だった甘利を党側に残したのは、様々な批判、不満の矛先が政府に向かうことを避け、党側の甘利が矢面に立つことを想定した役割分担の態勢だった。岸田にとって甘利は、源義経にとっての武蔵坊弁慶だった。

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対中国も岸田流で?

 中国とどう対峙し、どう渡り合うのかが注目されるタイミングで甘利が表舞台から「退場」した。

 安倍政権では、安倍をはじめ保守色が濃い議員が閣内に配置され中国に強硬姿勢を示してきたが、親中派の二階俊博を自民党幹事長に置くことでバランスをとってきた。岸田政権は、政府と自民党を真逆の立場にすることでバランスをとるはずだった。甘利辞任を受け、小林は「引き続き与党としっかり連携をとっていく」と述べたが、対中強硬路線と融和路線のバランスは崩れた。経済安保政策にも微妙な影響が出そうだ。

 甘利の後任幹事長の茂木は、日中国交正常化を果たした元首相、田中角栄が派閥会長を務めた自民党経世会(田中派)の流れを汲む平成研究会(旧竹下派)に所属する。保守系議員の支持の厚い高市早苗が政調会長にいるとはいえ、対中強硬路線の動きは鈍化しそうな雲行きだ。

 岸田は衆院選直後の11月2、3両日、イギリスで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の首脳級会合に出席した。脱炭素社会の実現は経済安保の重点5分野のひとつ「エネルギー」と密接に関係する。成長戦略にもつながる。

 世界最大のCO2排出国である中国(世界全体の排出量の28%)のCO2対策をどう考えていくか─。中国の生産物を輸入する日本・米国・欧州もその責任の一端を担う。ただ中国を批判するだけでは解決しない。CO2削減にどう知恵を出していくか。岸田の真価が問われるのはこれからだ。

 経済と国防という2つの安全保障の分野で政府と自民党の役割分担がなくなったいま、「岸田流」がどう効果を発揮するか。この解決策づくりを国内外が凝視している。 (敬称略)

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