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日本M&Aセンター社長が語る「日本全体で黒字倒産の危機にある会社は60万社。これをM&Aで救いたい」

財界オンライン / 2021年12月3日 7時0分

三宅卓・日本M&Aセンターホールディングス社長

「『M&Aで会社が成長できた』と思っていただけるようにしたい」と話す日本M&Aセンターホールディングス社長の三宅卓氏。2021年10月1日には業界の自主規制団体「M&A仲介協会」を設立、三宅氏は代表理事に就いた。上場しているM&A仲介会社5社が理事となり、業界の業務品質向上を図る。三宅氏が考えるのはM&Aの好循環の実現。そのために必要なこととは何なのか──。

【前回の記事はこちら】日本M&Aセンター社長に聞く「全国約127万社で後継者不足、 この問題をどう解決しますか?」

グループ各社が専門性を高めて
 ─ 前回、日本M&AセンターはM&A(企業の合併・買収)の世界でナンバーワンを目指すというお話でした。その中身は成約数、業務品質、総合力、時価総額、顧客満足、カバー力、イノベーション力、従業員満足という8つの指標での世界一ですね。現在、時価総額ではすでに首位ですね。

 三宅 そうです(10月18日現在、約1兆1200億円)。欧米で上場している企業よりも当社が大きい。他にも成約数では先日ギネス世界記録に認定されました。それ以外の指標でも、胸を張って世界一と言えるようになっていきたい。

 その実現のためにも、それぞれのグループ会社が独自性を明確にして、きちんと経営できるようにしていくことが重要です。

 ─ 非常に専門性の高い人材の集団になっていると思いますが、グループ会社間での流動性も高めていきますか。

 三宅 ええ。M&Aに関わる仕事は、いずれも専門性が高く、特殊です。例えば、日本M&Aセンターに入社した後、プライベート・エクイティ(PE)の仕事をしたいとなれば「日本投資ファンド」がありますし、企業評価の仕事を突き詰めたいとなれば「企業評価総合研究所」があります。また、PMI(Post Merger Integration)を専門的にやりたいといえば「日本PMIコンサルティング」で仕事ができます。

 同時に、グループ会社の経営者には独立性をもってきちんと経営をし、レベルを上げてもらいたいと思っています。

 従来のグループ会社は日本M&Aセンターの子会社でしたから、いわば「チーム三宅」だったわけですが、それでは駄目だと思うんです。1社1社が専門性を持ってレベルを上げていくために今回、持ち株会社化したわけです。

 ─ 今、「45歳定年説」など生き方、働き方に関して様々な議論が出てきています。こうした流れをどう見ますか。

 三宅 人が活発に動いていくという意味での人材の流動性は必要だと思っています。「日本M&Aセンターグループは人材の宝庫だね」、「あの会社の卒業生はレベルが高いね」と言われるような会社になっていきたい。

 独立して、自分で事業をやっていく人や、外に出てもっと大きなM&Aにトライしたい人もいるでしょうから、そういう思いを持つ人も応援したいと思います。

 ─ 日本M&Aセンターを辞めて、同じような仕事をしている人もいるわけですね。

 三宅 います。中小企業のM&Aに関しては、当社の卒業生に限らず、多くの企業が弊社のやり方を踏襲しています。例えば地方銀行さんにしても常時30人の方が研修に来ていますし、資格制度である「M&Aエキスパート」も3万人以上の有資格者がいます。

 我々はノウハウを全て外に出しています。どんどん真似をしてもらうことで、日本全体のM&Aのレベルが上がっていくと考えているからです。

「M&A仲介協会」設立の狙い
 ─ 2021年10月1日に自主規制団体「M&A仲介協会」を設立しましたね。この団体の活動の方向性を聞かせて下さい。

 三宅 日本M&Aセンター、ストライク、M&Aキャピタルパートナーズ、オンデック、名南M&Aという上場しているM&A仲介会社5社が理事となって発足しました。

 さらに今後、地方銀行さん、信用金庫さんなどにお声がけをして、会員になっていただく他、ゆくゆくは理事としてもご参加いただき、さらにいい協会にしていきたいと考えています。

 ─ 業界として自主規制団体を持つことのメリットをどう考えますか。

 三宅 この取り組みは中小企業庁とも連携しています。中小企業・小規模事業者のうち、経営者の年齢が70歳以上で、後継者が未定の企業は127万社あります。中小企業庁は、そのうち黒字である60万社を救いたいと考えているんです。

 政府としては、例えば「中小M&Aガイドライン」の普及、M&A仲介業者の登録制度の創設、事業承継補助金の拡大、事業承継に係る税優遇、事業承継・引継ぎ支援センターの強化といった取り組みを進めています。

 ただ、これは政府だけでできることではありません。民間としてもやっていく必要があります。「中小M&Aガイドライン」を業界全体で守り、知らない人には啓発していく。これが自主規制団体の根幹です。

 さらに、顧客が満足するようにM&Aのプレーヤーのレベルアップのための教育や、苦情の受付も自主規制団体でやっていきます。それによって正しいM&A、顧客満足度の高いM&Aが加速することで、多くの企業が事業承継にM&Aを活用したいという気持ちになり、先程の60万社を救うことにつながるという考え方です。

 ─ M&Aの好循環をつくっていきたいと。

 三宅 そうです。一番怖いのは「M&Aって大変だ」、「M&Aで騙された、失敗した」という評判が立つことです。例えば、地方で人口が3万人くらいの街では経営者が友人同士ですから、「M&Aでえらい目に遭った」という話が伝わると、誰も活用しようと思いませんし、それでは60万社を救うことができなくなります。

「M&Aで会社が成長した」、「事業を譲渡したら社員は幸せになった」、「経営者はいいリタイアをできた」となれば、多くの企業に活用してもらえます。M&A仲介協会で音頭を取り、好循環をつくっていきたい。

 ─ 日本M&Aセンターはすでに地銀や地方自治体とも連携していますが、これを強化することにもつながりますね。

 三宅 ええ。銀行さんとは二人三脚でがっちり取り組んでいます。当社では毎年、M&A支援業務における当社との協業において、顕著な実績、地域貢献をされた地方銀行さんを表彰する「M&Aバンクオブザイヤー」を開催しています。

「ブリッツスケール」を実現した10年間
 ─ 今回の持ち株会社化は10年先、15年先を見据えたものと言えますか。

 三宅 そう考えています。私はこれからの30年を「第2創業」と定義しています。当社はこの10年間で大きく成長し、時価総額も1兆2000億円、社員数も900名弱まで来ました。ブリッツスケール(Blitzscale =爆発的成長)ができたと自負しています。

 ただ、今後の日本を考えると、まだまだ足りません。先程の黒字倒産が危惧される60万社も救っていかなくてはいけない。

 また、日本は人口が減少していますが、中でも20歳から64歳までの就業人口が激減していきます。その中ではアジア、ASEAN(東南アジア諸国連合)との連携が大事になってきます。

 そういう時代の中で、今までのやり方、成長戦略ではなく、次世代はもっとダイナミックに動いていかなくてはなりません。私の世代はブリッツスケールを果たしましたが、会社はこれからさらにいろいろなことに取り組んでいかなくてはいけない。この仕事は次世代の人達にやって欲しいという意味での「第2創業」です。

 ─ 会社が生まれ変わるイメージですね。

 三宅 そうです。日本M&Aセンターは生まれ変わります。2021年11月5日に創業30周年記念イベントとして「M&Aカンファレンス2021」を開催しましたが、テーマが「Exceed30th」としました。30周年を超えて飛躍していくという意味を込めています。

 ─ 三宅さん自身、M&Aという仕事を手掛けてきて、この仕事に対してどういう思いを持っていますか。

 三宅 M&Aは最高に面白い仕事です。ディールそのものも、1人ひとりの経営者の人生があり、大きなドラマがありますし、従業員とそのご家族の生活、未来をつくっていく大事な仕事でもあります。

 ビジネスとして見た場合にも、日本のM&A業界は未成熟、未発達ですから、工夫次第でいくらでもやりようがありますし、イノベーションを起こすこともできると思います。

 しかも、社会的使命があり、お客様に喜んでいただける仕事です。ですから、若い人達にどんどん業界に入ってきてもらいたいと思いますし、そこで活躍してもらいたいと思いますね。

 ─ 三宅さんからご覧になって、どういうタイプの人が伸びていますか。

 三宅 第1に使命感がある人、第2にハングリーで上昇志向がある人、第3にクールヘッドとウォームハートの人です。

 このクールヘッド、ウォームハートは非常に大事です。社長さん、従業員の方々の気持ちに共感できるウォームハートが必要ですが、一方で客観的なファクトを冷静に見て判断できるクールヘッドがなくてはいけません。この2つが共存していないと伸びないですね。

末期がんの経営者からの依頼
 ─ 三宅さんが手掛けてきて、印象的だった仕事は?

 三宅 ある製造業を経営する末期がんの経営者からのご依頼が心に残っています。通常ならば半年かかる仕事を3週間で仕上げました。その経営者は亡くなってしまうのですが、その方が心配しておられた従業員とそのご家族、得意先、仕入先は全て救うことができました。

 もし、M&Aを活用しなかったら、廃業になるところでした。従業員が約40人いましたが、廃業となれば路頭に迷ってしまいますし、例えばお子さんが高校生であれば中退することになるかもしれません。そうなったら、そのお子さんはどういう人生を歩むか。どういう仕事に就くことになるか。このM&Aは多くの人を救うことができたと思います。

 ─ 地域経済を救う仕事でもあると。

 三宅 マクロ的に言えば、当社は20年度、405社の仲介を手掛けましたが、GDP(国内総生産)に対して3767億円の経済損失回避効果があったという試算を、当社グループの矢野経済研究所が出しています。

 それらの企業の従業員数の合計は3万人弱でしたが、ご家族を含めると約10万人の生活を守ったと言えます。そして、会社の事業は継続していますから、今後10年、20年と続いていくわけです。

 これらの会社が10年間、そのままの状態で継続したとして、10年間累計で3兆55億円の経済損失回避効果が見込めます。もちろん、これらの企業は相乗効果で成長しますから、さらに大きな効果があると言えます。

 M&Aは、こうした社会的意義のある公共性の高いものだということを、さらに中小企業に知っていただき、日本経済に貢献していきたいと思います。

【関連記事】日本M&Aセンターなど5社が「M&A仲介協会」を設立

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