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SBI・北尾吉孝が新生銀行獲得で背負った『プラス・マイナスの両面』

財界オンライン / 2021年12月9日 15時0分

北尾吉孝・SBIホールディングス社長

ギリギリの調整で折り合う
「これからは一緒にやっていきましょう」─2021年11月24日、東京・六本木のSBIホールディングス本社で、社長の北尾吉孝氏と、新生銀行社長の工藤英之氏が向かい合った。

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 新生銀行の筆頭株主であるSBIが事前の協議なく仕掛けたTOB(株式公開買い付け)を巡って対立関係にあった両社。11月25日には新生銀行が買収防衛策の発動を巡って株主の意思を問う臨時株主総会の開催を予定していた。

 だが、直前で総会は中止。それは24日になって両社が折り合ったからだ。新生銀行はSBIに対し、TOBに賛同する条件として2つ提示していた。

 SBIは、新生銀株の48%を上限に取得することを決めているが、それはそれ以上取得すると銀行持ち株会社と見なされて、銀行法上の規制を受けることになり、例えばSBIが取り組むバイオ関連事業などが行えなくなる恐れがあるからだ。それに対して新生銀行は「売りたいという株主さんの株式は全部買って欲しい」と要望。

 もう一つ、新生銀行側は1株当たり2000円というTOB価格の引き上げを要望していたが、これに対し北尾氏は10月28日の決算会見で「びた一文増やさない」と強調。

 ただ、工藤氏の説明によれば、それ以降も両社は「折り合える条件」について実務レベルで議論を重ねていたのだという。その場で新生銀行側は同社が21年11月12日に、大株主である預金保険機構に示した経営方針をSBIが「尊重する」とすれば、TOBに賛同とは言えないまでも、「反対は取り下げられる」というアイデアを提示した。

 だが、それはSBIにとって譲歩を意味する。社内でも議論があったと思われるが24日朝、新生銀行に対し、「できるかもしれない」という連絡を入れ、そこから急転直下の合意に達し、新生銀の臨時株主総会は中止に。

 この間、総会2日前には前述の預金保険機構と整理回収機構(合計で約20%の株式を保有)がメディアを通じて、新生銀の買収防衛策に反対する意向を示していた。工藤氏は「SBIとの議論は、それ以前からしており、国の議決権行使がどうなるかは我々には関係ない」と話したが、完全に外堀が埋まった形。

 また、工藤氏は「もっといい選択肢はないのか」として「ホワイトナイト」探しも模索してきたが「結果的にSBIの提案に勝るものはなかった」

 これでTOB自体は、SBIが示した上限に届くかどうかは不透明だが成立する見通し(期限は当初から2日延長されて12月10日まで)。

 今後、新生銀行は2月を目処に臨時株主総会を開催し、新たな取締役を選任するが、工藤氏は「引き継げる人がいれば(自分は)退任するのかといえばそうだ」とし退任の意向を示した。

 SBIは取締役候補として、会長に元金融庁長官の五味廣文氏、社長にSBIホールディングス副社長の川島克哉氏、取締役に同執行役員で元三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)常務執行役員の畑尾勝巳氏を推薦している。

「第4のメガバンク構想」で新生銀の役割は?
 これで焦点は成長戦略、そして新生銀行が抱える公的資金をどう返済していくかに移る。

 北尾氏は25日にブログを更新、「私が目指すは正に、新生銀行グループとSBIグループが一体となって心を一にし、そして収益力を上げ公的資金3500億円を返済するという大義を果たすこと、こそです」とした。

 新生銀行の利益剰余金は21年3月期末で約4300億円。数字だけ見れば完済できそうに見えるが、そう簡単ではない。

 政府はこれまで新生銀行、前身である日本長期信用銀行に対して約5000億円の公的資金を注入、現時点で約1500億円を返済している。

 だが、優先株で注入された公的資金は08年までに普通株に転換。政府が公的資金を回収するには、1株当たりの株価を7450円まで高める必要があるが、11月末時点の株価は1900円台と3倍以上の開きがある。工藤氏は「普通株転換は結果的に失敗だった」と話した。

 市場では、SBIが新生銀行の持ち株比率をさらに高めた上で、政府と合計で3分の2以上にして自社株買いを実施、大半を取得できた時点で少数株主から株式を買い上げて上場廃止にする、政府に対しては相対で公的資金を返済する、といった案も取りざたされている。

 もちろん、新生銀が持つストラクチャードファイナンス(仕組み金融)やクレジット投資、子会社の「アプラス」が持つカードローンなど消費者金融のノウハウを活用し、提携地銀の収益力の底上げにつなげるといったシナジーで業績を向上させ、株価を高めていくという正攻法を取る可能性もある。

 また、国際業務も手掛ける新生銀行を、信金業界における信金中央金庫のような「マネーセンターバンク」にし、提携地銀の資金運用の効率化、海外投融資の進出支援といった役割を担わせるシナリオも考えられる。

 これで北尾氏の構想は大きく前進する可能性があるが懸念もある。今回、SBIが新生銀行に対して強硬な姿勢を取ったことで今後、地銀がSBIとの提携に二の足を踏む恐れがあること。また、OBを受け入れるなど良好な関係を築いてきた金融庁との関係にも、さらに厳しい目が注がれる可能性があること。

 大手証券会社首脳は「両社の組み合わせで新しいものが生まれる可能性もあるが……」と期待を示しながら、先行きの不透明感で言葉を濁す。大手行で唯一残る公的資金返済と成長戦略。この実行に向けた北尾氏の次の一手が注視されている。

【あわせて読みたい】SBIの新生銀に対する敵対的TOB、金融庁にも難題

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