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一段の円安は弊害が大きいのか【人気エコノミストの提言】

財界オンライン / 2021年12月19日 11時30分

円安は日本経済に悪影響をもたらす、と考える人が増えている。だとすると、一段の円安が進んだ場合、日銀は金融引き締めをしてでも円安進行を止めるべきか。以下、円安の是非について考える。

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 結論を先に言うと、景気刺激という観点からは、効果が低減しつつも円安はネットではプラスだ。日銀の超金融緩和が円安をもたらすのなら、景気刺激の観点からは望ましい。しかし、それはモルヒネのようなもので、長期的には資源配分や所得分配を歪め、日本経済の競争力、ひいては潜在成長率を損なう。

 円安を問題視する人が増えているのは、資源高によって輸入物価が上昇する中、円安がそれを増幅するためだろう。資源を輸入に頼る日本にとり、資源高は海外への所得移転を意味し、悪影響をもたらすと断言できるが、資源高と円安の影響は分けて議論しなければならない。

 為替の影響は、輸出をする人も輸入をする人も受けるため、メリット、デメリットの両方がある。ただ、マクロ経済全体で見ると、円安は日本で生産する財・サービスを割安にし、外需を刺激するため、インフレが問題になるまではメリットがあるといえる。極端な価格弾力性のケースを除くと、経常黒字であっても経常赤字であっても変わらない。

 近年、日本の製造業は生産拠点を海外に移転し、円安になっても以前のように輸出は増えず、国内の生産、雇用も増えない。インバウンド消費への刺激効果もコロナ禍で失われた。製造業の海外での利益が、円安で換算上膨らめば、株価はサポートされるが、円安進展の景気刺激効果はかなり低減している。

 一方、長期的な弊害が現れ始めている。実質実効為替レートを見ると、1970年代前半の水準まで円安が進んだ。それほどの実質円安でなければ、輸出部門が採算を取れないということだが、代償として、輸入に対し多くの支払いを余儀なくされている。円高回避の金融政策の継続で、生産性の低い企業を温存し、我々が貧しくなったのだ。

 この話は、超金融緩和の長期化の弊害と全く同じ議論だろう。景気刺激効果が大きく低減する一方で、金融システムや金融機関への悪影響が現れ始め、さらにゼロ金利政策の下でしか採算が取れない生産性の低い企業が増えている。つまり、資源配分や所得分配を歪め、それが潜在成長率にも悪影響をもたらしている可能性がある。ただ、インフレも低く、成長率も低いため、景気抑制につながる利上げを日銀は躊躇するのである。

 マクロ安定化政策を担う日銀がフォーカスするのは、あくまで景気刺激という短期の視点からで、超金融緩和の固定化やそれがもたらす円安による所得分配や資源配分の歪みを通じた生産性上昇率や潜在成長率への悪影響は、殆ど配慮されていない。インフレが低くても、完全雇用になれば、弊害の小さくない政策は検討が必要だ。

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