【新潮流】「ありがとう」が報酬に クラウド名刺管理・Sansanが資本業務提携するUniposの可能性
財界オンライン / 2022年1月2日 7時0分
社内のコミュニケーションをどう活性化するか──。リモートワーク、ジョブ型、DXなど働き方が変化し、雇用の流動化が進む中、社員の貢献や活躍を評価し、オープンにすることで、モチベーションアップや組織の活性化、一体感醸成につなげようとする「ピアボーナス」というサービスが登場。このサービスを提供するUniposに、2020年12月Sansanが出資。資本業務提携で新市場を開拓する狙いとは──。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako
あのNTTもジョブ型雇用で脱日本型経営へ
共感や感謝がやりがいに
コロナ禍で一気に進んだ働き方改革。リモートワークで通勤時間がなくなり「時間を有効活用できるようになった」という声は多い。特に育児中の人からは「もはやリモートなしでは家事が回らない」という声もある。
多様な働き方で効率化が進む一方、「リアルの関係がないと、仕事はできても、人間関係の構築は難しい」とコミュニケーション不足を心配する声も多い。
一部上場企業の経営層・一般社員約800人に行った調査では、テレワークによって「チームとしての生産性が低下した」と回答したのが全体の44・6%。「生産性が高くなった」と答えた7・6%を大きく上回った。
また、ジョブ型雇用を進める企業が増える中、懸念される課題の1位は「会社の良い企業風土や一体感が失われる」が37・2%、「契約内容(賃金)以外の貢献が減ってしまう」が34・6%、「会社の経営理念・ビジョンが浸透しづらくなる」が34・6%と上位を占めた。
多くの企業、働き手が新たな課題を感じる中、それを解決するサービスが登場。それが「ピアボーナス」だ。
「ピアボーナス」とは「peer(仲間や同僚)」と「bonus(報酬)」を掛け合わせた造語で、社員同士が〝感謝〟や〝賞賛〟の気持ちを〝少額の金銭的報酬〟と一緒に送り合うこと。
現在、ベンチャー数社がサービスを提供しているが、ピアボーナスの価値にいち早く注目し、商標登録したのがマザーズ上場のUnipos(ユニポス)。
Uniposは2005年ネット広告会社としてスタートし、その後、「Fringe81」に社名を変更、17年6月マザーズ上場。同年12月ピアボーナスサービスの『Unipos(ユニポス)』の提供を開始。そして21年10月、祖業のネット広告事業から撤退し、ピアボーナス事業に注力するため、社名を「Unipos」に変更。コーポレートミッションも「感情報酬を社会基盤に」に改めた。
Uniposのピアボーナスサービス『ユニポス』は現在、トヨタ自動車やアース製薬、メルカリや伊勢丹、パーソルテンプスタッフなど540社以上が導入している。
ユニポスの仕組みは、いたってシンプル。
「賞賛をおくる人」がメッセージと一緒にポイントを送る。「賞賛をもらう人」はもらったポイントを会社が決めた〝リワード〟(金銭やアマゾンギフト券など)と交換。このやりとりは全社員に公開されているため「共感した人」が〝拍手〟を送ると、拍手数に応じたポイントも賞賛を「おくった人」「もらった人」の双方に付与される。
ポイントは1人あたり毎週400ポイント(400円)が付与され、使わなかったポイントは失効する。送れるポイントの上限は120ポイント(120円)。缶コーヒー1本とほぼ同じ価値だ。
では、ピアボーナスの導入でどんな効果があるのか。導入企業の事例を見ると、感謝を伝え合うことで経営陣、働き手双方に変化が出てくることがわかる。
例えば、ウシオ電機。
営業や新商品開発から人事に異動した社員が、職場活性化のために「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)だけでないやりとりが必要」と感じてユニポスを導入。コロナ禍でボーナスが支給されると「コロナ禍の今年もボーナスありがとうございます」というメッセージが投稿されるなど、様々なメッセージが日々投稿されている。
全社員がメッセージを見られるため、部署や勤務地を超えた社員間の交流も生まれ、静岡県と兵庫県の開発者の共同開発にもつながっているという。
また、長野県に本社を構える創業135年のカクイチは組織や業務のデジタル化と合わせてユニポスを導入。「デジタル化=業務効率化」だが、感謝と報酬を送り合うユニポスを同時に導入したことでデジタルへの抵抗感をなくし、DXを軌道に乗せることができたという。
「感謝」を伝えることは「誰かが見てくれている」「理解者がいる」という励みやモチベーションになるため、業績拡大に直結する事例も出ている。
保育園『キートス』を経営するハイフライヤーズは保育士の離職問題に頭を悩ませていたが、ユニポスを導入すると離職率が34%から10%に減少。
「仲間や保護者からの共感や感謝が保育士たちのやりがいにつながり」(園長)、離職防止、ひいては業績の拡大につながっている。
社内には「ドラマ」がある
「社員は一生懸命働いている。そこにはいろんなドラマがある。でも、経営者の僕のところまでは届かない。経営者が把握できていない社内のドラマはあるはずで、それを知りたいと思ったんです。それで『社内で頑張っている人に投票して下さい』とダンボールを置いて、感動した投稿の対象者に寿司をごちそうするようにしたら離職率も下がった。その話を経営者仲間にしたら『サービス化したら買うよ』と言われて作ったのが始まりです」
Unipos社長CEOの田中弦(ゆずる)氏はサービスが生まれた経緯をこう語る。
田中氏は大学卒業後、1999年ソフトバンク入社。その後、ネットイヤーグループの創業に参画し、2005年ネットエイジグループ(現UNITED)の執行役員として広告事業を立ち上げ、現Uniposを設立した。
ユニポスは、自らの問題意識から生まれたサービスだが、今もユニポスを通じて気付かされることがあるという。
「ユニポス事業に集中するため広告事業からの撤退を進めていますが、その作業をしんがりとして頑張っている社員がいる。会社の祖業である広告事業の売上がゼロになる瞬間は会社にとってすごく大事な瞬間。それが、しんがりの部下と上司のやりとりから見えてくるんです」
ITの業界では海外で普及したサービスが日本に入ってくることが多い。だが、ユニポスは日本独自のサービスといえる。
「海外では1対1で1万円程度のスタバのカードを部下に送ったりすることがあるのですが、僕がやりたいのはちょっと違うなと。缶コーヒー1本の手軽な感じでやりとりして、全公開にする。すると、誰が何をやっているかがわかるようになってカルチャーが良くなるとか、バリューやミッションを共有しやすくなる。昔から、喫茶店での上司や部下とのやりとりはあって、すごく良いことを言われても、そのやりとりは、その場だけで消えてしまう。それは勿体ないなと思っていたんです」
少額でも、金銭に関わるやりとりは人を動かす。そうして見えてくる社内の情報はマネジメントにも役に立つ。
「お金が介在すると、みんな真面目に書くんです。週に400円配られて、使わなかったら日曜日にはリセットされる。そうすると(使い切ろうと)帰りの電車で使ってくれる。週に400円、月に1600円渡すことで、会社の中で起きていることが見えてくるんです」とサービスの価値を熱く語る。
ユニポスは日本発のユニークなサービス。だからこそ、競合が少ない今、祖業から撤退し、事業拡大にアクセルを踏む。
その中で、もう1つ大きな決断をした。名刺管理大手Sansanとの新たな資本業務提携だ。
提携の内容は、共同でのサービス提供を見据え、SansanがSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)企業として培ってきた営業やマーケティングのノウハウでユニポス事業を拡大し、事業が成長したタイミングでUniposはSansanグループに入るというもの。
また、Uniposの広告事業のノウハウをSansanのEight事業の広告で活かしていく。
「見たこともないサービスを社会実装した大先輩がSansan。見たこともないサービスという意味ではユニポスも同じ。Sansanの名刺管理サービスも『バインダーでいいですよね。わざわざスキャンするなんて面倒じゃないですか』と言われていたはず」と業務提携の意味を語る。
Uniposに出資したSansan共同創業者で取締役CROの富岡圭氏も「組織として名刺管理しているところはなかったですし、名刺管理の予算を持っている会社なんて1社もなかった」と振り返り、「僕らも創業5~6年でマスマーケティングしながら事業を広げていった。そうしたマーケティングやカスタマーサクセスのノウハウを活用していく。僕らもいろんな失敗をしてきたので共有できることがあると思う」と語る。
すでにエンジニアやデザイナーなど人材の交流も進んでいる。
「Sansanは『出会いからイノベーションを生み出す』がミッションですが、基本的には社外の人とのつながり、名刺に価値を見出していこうと。一方で、Uniposさんは社内のつながりやコミュニケーションが見えるサービス。そうなると、社外と社内の提案を打ち出していける。そこに可能性を感じている。両社とも、今までにない『新しい価値を見出していく』というカルチャーが似ているので両社が力を出し合うことで独自性もより強まっていくのではないか」(富岡氏)と期待する。
今、ベンチャー業界ではSaaS企業が成長し、プラットフォーム化にしのぎを削る。Sansanも名刺管理だけでなく、名刺で培ったアナログをデジタルにする技術を活かして『Bill One(ビルワン)』というオンライン請求書事業を始めている。
各社、強みを持つ領域は異なるが、事業拡大を進める中で領域が重なる部分も増えている。
その意味では、SansanとUniposの資本業務提携からは、SaaS企業の生き残り合戦という様相も見えてくる。
社会のあり方が変わる中、名刺管理、ピアボーナスという今までにない価値の提供で新しい時代のインフラ、スタンダードを作れるか。ユニポスの事業拡大は、新たな提案で組織を変えていく挑戦でもある。
「Sansanの〝社外〟のつながりとUniposの〝社内〟のつながりで、新たな価値を生み出したい」
Sansan取締役執行役員CRO
富岡 圭
とみおか・けい
1976年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、日本オラクル入社。2007年にSansanを共同創業。CRO(Chief Revenue Officer)として全社の事業収益を統括
ミッション、バリューの浸透にユニポスを導入
僕らはミッションの浸透に力を入れていますが、地味な活動ですし、難易度が高い。そういう時にユニポスさんの話を聞いて導入を決めました。さらにコロナ禍でリモートワークが増える中、ユニポスを使ってリモート下でもチームワークを強化して、ミッションを浸透させようとしています。
ユニポスではメッセージにタグを付けられるので、そのタグに会社のバリューズや推奨する姿勢を付けることで、送る側にも受け取る側にも自然とミッションやバリューが浸透していきます。経過を見ても、実際にすごく効果があるので使い続けています。
リモートになると熱量が伝わりにくいので、エモーショナルな投稿に企業理念、〝Sansanのカタチ〟を乗せていくと伝わっていくなと感じています。
予算の付かない商品をどう売るか?
本当に地道な取り組みです。
まずは営業やマーケティングで効果を出そうと、Uniposさんから出向していただいている方とうちの営業部隊、特に大手企業を担当する部門が一緒になって活動して、実績を作っていきたいと思っています。
僕らも創業して5~6年でマスマーケティングをしながら事業を拡大してきたので、そうしたマーケティングやカスタマーサクセスなどのノウハウも共有しながら相乗効果を出していけたらと思っています。
エンジニアやデザイナーなど現場の交流もしていますし、お互いがお互いのサービスを使っていることはすごく大きいと感じています。Sansanがユニポスのユーザーでありファンなので、サービスをより良くするための提案もしています。
新しい価値を見出していくカルチャー
弦さんとはネット業界の集まりで紹介してもらい、『SanSan』を買っていただいたのですが、業界を引っ張ってこられた方ですし、うちのサービスの導入を即決してくれて、すごい人だなと思っていました。今また新しいことにコミットして、弦さん自身がユニポスのTシャツを着て最前線でやっているのを見て「いいな」と。うちのカルチャーにも似ているなと。
僕らは人とのつながり、出会いからイノベーションを生み出そうとしています。基本的には「社外」の人とのつながりに価値を見出していこうとしています。一方、Uniposさんのサービスは「社内」の見えないつながりが見えるので、お客様に対しては「社外」と「社内」の価値を打ち出していけるのではないかと。そこにすごく可能性を感じています。
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