三菱UFJFG・亀澤宏規のデジタル提携戦略、新たな時代の金融インフラの姿とは?
財界オンライン / 2022年1月12日 18時0分
「グループを超えて、つながることができるところとつながっていく」─三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)社長の亀澤宏規氏はこう強調する。従来は自前主義が強かったが、近年MUFGはNTTドコモ、リクルートなど矢継ぎ早にデジタル分野での提携を実行。ITプラットフォーマーの存在も意識して、新規領域の開拓を急いでいる。
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業績上方修正も先行き楽観視せず
「コロナとの戦いは見通せない部分はあるが、日本政府も含め各国が努力している。未知との戦いだが、人類の英知を結集してワクチン、治療薬などが出てきたことで、引き続きリスクはあるが、ある程度コントロールができるようになったのではないか」と話すのは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)社長の亀澤宏規氏。
グループの三菱UFJ銀行はコロナ禍で、他の金融機関と同様に取引先の資金繰り支援に奔走。融資が届かない芸術活動や医療機関、学生に対しては寄付を行うなどして支援してきた。
2022年を「ワクチン、治療薬の開発で、経済的にはある程度高成長が続く」と見通す。ただ、新型コロナの変異型であるオミクロン株、コロナも影響しての半導体不足などサプライチェーンの問題、インフレ懸念、米中対立を始めとする地政学リスクなど予断を許さない。
「日本経済が19年のGDP(国内総生産)レベルに戻るのが24年と見られていたが、2年早く22年には戻る見通し。ただ、レベルが戻っただけで元々の成長軌道には戻っていない。これを戻すことが重要」
その中でMUFGの業績を見ると22年3月期連結決算の見通しは、最終利益で1兆500億円と、21年5月段階の8500億円から上方修正。4-9月期を見ても過去最高。
ただ、その一つの要因として亀澤氏は「与信費用が少なかったこと」を挙げる。融資先の倒産に備えて積んでいた貸倒引当金を使わずに済んだことが大きかった。政府による実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)による企業支援が功を奏した形。持ち分法適用会社である米モルガン・スタンレーの業績が好調だったことも背景にある。
そのため、22年以降については「まだまだリスクは高い」と見る。MUFGが例年計上している与信費用の半分程度にまで減少していることから「違和感」を感じていることと、融資先の中には最高益を更新している企業もあれば、赤字決算を出している企業もあるなど「二極化」しており、先が読みづらい。
先行きは楽観視できないが亀澤氏は「ベースはしっかりしてきた。課題だった利ざやや経費率を含め、少しずつ筋肉質になってきている」と、これまで進めてきた体質改善に手応えを感じている。「ベースができれば、それをいかに上振れさせるか。お客様へのソリューション力はこれから。気を引き締めてやっていく」
安定的に純利益で1兆円を稼ぎ出す収益基盤の確立が大きな課題となっている。
プラットフォームとの向き合い方は?
そのカギを握るのが、デジタル領域の開拓。亀澤氏は「テクノロジー」と「オープン」という2つのキーワードを掲げる。
従来、MUFGだけでなく銀行グループは「自前主義」が強かったが、それを転換。「我々だけが自前でといってもお客様に選んでいただけない。我々はプラットフォーム、場をつくる。テクノロジーの進歩が、それを可能にした」
21年12月にはスマートフォンを通じて、資産形成に向けた様々な金融サービスを総合的に提供するサービス「MoneyCanvas」を開始。
このプラットフォームにはポイントの株式交換サービスで大和証券グループのスマホ証券会社・CONNECT、保険では東京海上日動に加えて損害保険ジャパン、貸付ファンドのオンラインマーケットを展開するベンチャー・ファンズなどグループを超えた他の大手、ベンチャー企業も参画している。
「グループを超えて、つながることができるところとつながり、お客様にベストなソリューションを選んでいただける仕組みをつくる」(亀澤氏)。この場合は、MUFGがプラットフォームを構築し、そこに人を呼び寄せる形。
一方、MUFGは通信大手・NTTドコモとも提携。22年内にドコモの「dポイント」がたまる「デジタル口座サービス」の開始を検討している。こちらは「NTTドコモというプラットフォームと組む形。BaaS(サービスとしての銀行)的に銀行機能を提供する」。先々はデータ解析の会社を共同で立ち上げることも検討している。
さらに、リクルートとはリクルート51%、MUFG49%という比率の「リクルートMUFGビジネス」という共同出資会社を設立し、決済サービス「COIN+」の展開を発表している。加盟店の決済手数料が0.99%(税抜)とクレジットカードのみならず、他のコード決済に比較しても安価な手数料を実現。「我々は裏側の決済だけを出し、表は『COIN+』という形」(亀澤氏)
自社のプラットフォームもあれば、他社のプラットフォームに機能を提供するケースもあるということ。
亀澤氏は「デジタル時代は物事を『ヨコ』で見ないといけない」と強調する。従来は「タテ」、商品、サービスごとに物事を見る傾向が強かったが、「ヨコ」、つまり「ファンクション(機能)で見て、どの領域で我々の能力を生かせるかという発想でデジタルを進めていかなくてはいけない」と話す。
近年、グーグルが日本の決済ベンチャーを買収するなど、ITプラットフォーマーが金融領域への侵食を進めている。これが進めば、銀行グループなどは、プラットフォーマーの1機能になってしまうのではないか? という見方もあったが、MUFGの動きは、その流れに一石を投じるもの。亀澤氏はプラットフォーマーをどう捉えているのか。
「プラットフォーマーは自らのインフラを持った上で、ルールを自分で決め、そこに様々な人を参加させて手数料を取る存在だと思っている」と亀澤氏。
銀行で言えば、本人確認が済んだ銀行口座や決済機能がインフラに当たるが、アマゾンであれば物流網の上にECサイトなど様々な機能を持ち、アップルであれば「iPhone」をベースにしたインフラを持つ。
「例えばアマゾンやアップルが銀行を展開する可能性もあると思うが、彼らの決済部分のプラットフォームに入るという考え方もある。彼らが単純に金融事業に取り組んでも利益は出ない。決済は損が出るし、コンプライアンスコストも高い。プラットフォーマーとの関係は、基本『協働』になるのではないか」
表であるか、裏であるかは別にして、必ずどこかにMUFGの金融機能がインフラとして入っていることを目指すということ。この考え方は近年「エンベデッド・ファイナンス」(Embedded Finance=埋め込み型金融)とも呼ばれている。
「プラットフォームを表が牛耳っているのか、裏が牛耳っているのかという議論はあると思うが、少なくとも金融の部分については我々が牛耳って、お客様に表に出てもらう。そして時には我々も表に出ていく」
時に主役ではなくとも、金融インフラを担い続けるという考え方だ。
米地銀の個人部門売却、その資金の振り向け先は?
近年進める構造改革も、デジタルも含めた成長の布石。21年9月、MUFGは米国の主力銀行・MUFGユニオンバンクの個人向け事業・中小企業向け事業を米地銀最大手・USバンコープに売却することを決めた。売却資金は約8800億円。
MUFGユニオンバンクは近年、金融のデジタル化の荒波にさらされて米西海岸に約300カ所展開する実店舗が重荷となり、収益が低下していた。
だが、「引き続き米国は我々にとって極めて重要な市場」(亀澤氏)。売却後も法人向け事業は継続し、米州事業の約7割はMUFGに残るため、個人向けに注いでいた経営資源を振り向け、モルガン・スタンレーとの協働を進める方針。
また今回、USバンコープ株式(約2.9%)を取得する。保有比率は小さいが、USバンコープの株主はファンドで、事業会社として戦略的に保有するのはMUFGだけ。現在、業務提携を検討しているが、USバンコープはデジタル化で米国でも先端を行く銀行。人材を派遣するなどして、そのノウハウを吸収したい考え。
ユニオンバンク売却で得た約8800億円をどう活用していくかも問われるが、亀澤氏は大まかに3分の1ずつに分けて投じていく方針を示す。
1つ目は前述のUSバンコープ株式(約2750億円分)を取得して、その成長を取り込む。2つ目は自社株買いによる株主還元、3つ目は新規の成長投資という内訳。
注目されるのは成長投資。すでに4カ国の地銀と資本関係を持つアジア圏や、アセットマネジメント分野、そしてデジタル分野がその候補になる。
この売却資金の活用以前から、MUFGは新たな分野への投資を進めている。例えば、20年8月にはイスラエルのフィンテック企業・リクイディティーキャピタルと合弁で、アジアでスタートアップ向け融資を行う「マーズ・グロース・キャピタル」をシンガポールに設立。
スタートアップ企業は基本的に赤字のところが多いが、銀行は赤字企業に融資するのが難しい。そこでファンドを立ち上げて、ユニコーン、ユニコーン候補に対して融資を提供していくビジネスモデル。3つのファンドに計500億円を投じる。
与信判断は、イスラエルのリクイディティーキャピタルのAIを活用したモデルと、MUFGのノウハウを融合。決算書ではなく、ユーザー数の伸びや、サービスへの滞在時間、離職率などのデータを分析して融資の実行や停止を判断する。融資した企業が上場すれば、その成長を享受することもできる。
今後、グローバルも含めた他社とのオープンイノベーションで、こうした成長分野を見極め、その果実を得ることができるかが問われる。
銀行として蓄積した「資産」を生かして
今や銀行を取り巻く環境は大きく変わっている。その意味で亀澤氏は将来の銀行グループの姿をどう描いているのか?
「全く違う姿になるとは思っていない。預金も融資も必要なもの。特に大企業向けの融資はデジタルとは関係のないソリューションビジネス。一方で、大きく変わるのはマスリテール(一般的顧客)、マス法人の領域ではないか」
この領域では人手を介さずに、全てがデータで処理される世界も見据える。顧客から得たデータを使って、いかにサポートするかで企業が競うことになる。「大規模な融資や投資銀行業務はアマゾンなどには難しいが、決済や小口融資では様々なプレーヤーが入り乱れる可能性がある」
前述のような各種のデジタル提携戦略は、この将来像を睨んでのもの。自らはどういう機能を担うのかを考え、必ず誰かと提携していく。
その時に銀行であることが生きるとも考えている。今、各業界で「KYC」がキーワード。「Know Your Customer」の略で本人確認を行う手続きのこと。銀行はマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与などを未然に防止する必要もあり、KYCを徹底している。
だが、近年はオンライン上でのサービスが増加し、その利便性、安全性を確保する上でもKYCの重要度が増している。「その意味で、KYCの済んだ口座を持っていることは大きな価値かもしれない」と亀澤氏。
さらに、安定的な決済機能の提供も含め、銀行として蓄積してきた「資産」を生かしていく。新たな時代にも与信や審査、融資といった「核」をしっかりと握り続けるということである。
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