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コロナ禍で変わる旅行ビジネス JTBが進める「地域ソリューション事業」

財界オンライン / 2022年2月1日 7時0分

沖縄県の「美ら海水族館」

新たに定めた3つの事業領域

「まずは地域を元気にしなくてはいけない。コロナ禍前からお客様とのデジタル接点は拡大していたが、我々もデジタルを活用してお客様に、より旅をしやすい環境をつくろうとしている。『旅マエ』『旅ナカ』『旅アト』から、次の『旅マエ』までの『日常』を含めてトータルでサービスを提供していきたい」─。JTB社長の山北栄二郎氏は語る。

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 同社を含めてコロナ禍の煽りを受けた旅行会社の経営は依然として厳しい。しかし一方で、コロナは企業、自治体などの行政や小規模な観光事業者のデジタル化を迫る側面がある。山北氏は「これまでの地方創生の取り組みとしては、都道府県単位でのプロモーションが多かったが、今後は市町村単位での取り組みも深めていく」と話す。

 JTBは昨年4月1日から3つの事業戦略の柱を推進する組織「ツーリズム事業本部」「地域ソリューション事業部」「ビジネスソリューション事業本部」を設置。このうち地域ソリューション事業部は地域の交流促進に関するデジタルソリューションの提供支援を手掛ける。

 同事業部はこれまでの旅行会社の発想とは一線を画す。執行役員地域ソリューション事業部長の森口浩紀氏は「旅行会社の役割は首都圏などの旅行者を地方の観光地に運ぶ業務が主だった。しかし、視点を地域に置きかえれば、いかに旅行者に来てもらう仕掛けをつくることができるかという発想の転換が必要になる」と話す。その際のキーワードは「つなぐ」だ。

 例えば、事例の1つに沖縄県北部エリアがある。ジンベイザメで全国的にも有名な「美ら海水族館」があるが、実は他にもやんばるの森の上空を5本のコースで滑走する「ジップライン」や沖縄発祥のオリオンビールの工場、パイナップル農園などもある。さらに、新たなテーマパークの建設も進行中だ。

 JTBはこれらの観光地(コンテンツ)のデジタル化を支援し、地域の事業者同士を〝つなぐ〟環境の整備を支援している。つまり、旅行者はスマートフォン1つで予約・発券・精算ができるようになるわけだ。

 同社は既に同エリアで近隣施設を割安で利用可能な「美ら海とくとく5パス」と呼ばれる周遊券を造成。加えて、観光客によるレンタカーの渋滞などに対応するため、地元企業との共創のもと、自社で那覇空港からシャトルバスを運営している。

「地域やエリアを1つのテーマパークのようにデジタルでつなげることで地域の価値を高めていきたい」と同事業部企画・開発推進チームマネージャーの三村堅太氏は話す。地域創生に求められるのは自治体の税収の底上げだ。そのためには「その地域で旅行者が周遊し、宿泊し、買い物をしてもらわなければならない」(三村氏)。その仕掛けづくりをJTBが支援する。

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いかに公式サイトへ誘客できるか?

 その際にポイントになるのが公式サイトへの誘客だ。今では旅先で観光地のサイトを検索し、そこで見つけた観光事業者や観光協会の公式サイトから施設の入場券を購入したり、アクティビティ(体験)を予約したりするのが主流。「旅行会社のサイトを経由せずに公式サイトで予約・決済してもらえば、自治体や観光事業者の収入は増える」(同)ことになる。

 宮崎・熊本・大分3県の県境の近くに位置する全長約1・7キロの渓谷・高千穂峡。コロナ前はインバウンド客で溢れ、2~4時間待ちは当たり前だった。密を避ける安全・安心の確保が課題となったとき、地元の自治体や観光事業者が時間帯での分散化を図ろうとしても、ノウハウやコストの面で限界がある。

 そこでJTBが移動や食事、体験の情報・予約・決済・問い合わせなどがワンストップで可能となるサービス群「ツーリズム・プラットフォームサービス」からシステムを提供。今では公式サイトから日時指定と決済などができるようになった。

 同サービスは日本国内の提携パートナー企業に加え、世界の大手オンライン旅行会社の一角をなすトリップアドバイザーグループの「Bókun(ボークン)」とも連携。「インバウンドのお客様も公式サイトで集客できる」(森口氏)。

 既に全国1700施設で、そのサービスが導入されているパートナー企業もあり、現在進行形でプラットフォーム機能の充実を図っている。これらのサービス(各システム)の利用料をJTBが収入として得る。

 森口氏は「地域の観光施設は点在しており、規模もさまざま。予約・発券・決済などを一元管理すると共に、〝点〟で散らばる観光施設同士をデジタルでつないで〝面〟とすることで、お客様にその地域に長く滞在してもらえる」と話す。その際、JTBは裏方に回るが、同事業には約1500人(グループ全体で約2・1万人)を当てる。

 自治体に税収をもたらすのは「ふるさと納税」も同じだ。コシヒカリの産地・南魚沼市やうなぎで有名な鹿児島県大崎町などのふるさと納税の仕組みも同社が担っている。「ふるさと納税で、地域とつながる関係人口を増やすことができる」(同)。

 47都道府県に拠点を持ち、行政や観光事業者ともネットワークを持つ強みを生かして、これまでは地方に旅行者をいかに多く送客できるかに主眼を置いていたJTB。だがこれからは地域への「誘客」に力を入れる。コロナを経て、経営環境が大きく変わり、ビジネスモデル転換の必要性が増している。

 日本の観光業の復活には地方の観光地の復活は欠かせない。日本人の人流を活性化させることはもちろん、ポスト・コロナでは「インバウンドの爆発的な復活も起こり得る」(同)。それまでに地方の税収を増やして地域の活性化につなげられるか。JTBの本気度が問われる。

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