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【脱炭素】コマツ社長・小川啓之が進める建機「電動化」戦略の中身

財界オンライン / 2022年2月4日 18時0分

小川啓之・コマツ社長

「我々の強みはコンポーネント(主要部品)戦略」─こう話すのはコマツ社長の小川啓之氏。「脱炭素」に向けた電動化を「全方位で進める」と話すコマツ社長の小川啓之氏はコンポーネントの内製化で他社との差別化を図ると語る。電動化など新たな技術が登場するが、重要なのは顧客のライフサイクルコストを低減し、現場の生産性を高めること。「モノとコトの両方をやっていく」というコマツの次世代戦略とは。

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技術面を含めた連携戦略が重要に
 ─ 2050年の「カーボンニュートラル」(脱炭素)が全産業界の課題となっていますが、その中でカギを握る建設機械の「電動化」についての考え方から聞かせて下さい。

 小川 当社は2019年に発表した中期経営計画の中で、2030年までに生産と製品によるCO2排出量を半減することを経営目標として掲げています。

 特に、当社のCO2排出量を見た時には90%が製品、残り10%が生産となっており、製品からのCO2排出をいかに下げていくかが非常に重要だということです。

 従来から機械の作業効率の向上や地道な燃費改善、ハイブリッド技術などを含め、CO2削減に取り組んできましたが、やはり製品そのものの電動化を進めていかなければいけないということで、様々なパートナーと連携しながら、電動化した建設・鉱山機械の開発を進めてい
ます。

 ─ 建機の電動化に向けた課題をどう捉えていますか。

 小川 建機、特に当社の製品を見た時、自動車と違って非常に多品種少量が課題です。さらに、バッテリーの出力の問題もあります。現在、交換式バッテリーを活用した電動マイクロショベルの共同開発を進めていますが、稼働時間は1日数時間です。一方、鉱山のダンプトラックはほぼ24時間稼働するので、これをバッテリーのみで対応するというのはなかなか難しい。

 また、自動車とは使用環境も違います。我々の建機は常にオフロードで使用されますから、衝撃や粉塵なども考慮していかなければなりません。

 さらに鉱山でどう給電していくかといったインフラ面の課題、蓄電池などをどう搭載していくかといった車体のレイアウトの課題もあります。最後に、やはり非常にコストが高い。こうした様々なハードルを超えるために、当社は全方位で電動化の研究を進めています。

 ─ 全方位というとどういった方式がありますか。

 小川 ハイブリッド、バッテリー、ディーゼルエレクトリック、有線式トロリー、燃料電池、水素エンジン、バイオ燃料などが挙げられます。

 コマツはすでにハイブリッドやディーゼルエレクトリック、有線式トロリーの製品を持っており、バッテリ―式ミニショベルも国内市場へ導入しています。しかし、さまざまな機種、サイズの電動化に対応していくためには、1つの技術・手法に決め打ちすることができません。

 21年9月に発行した統合報告書「コマツレポート」の中で、2050年までのカーボンニュートラルを目標に活動することを表明しました。その中で、実現までの技術的ロードマップを示しています。

 開発を加速していく上で、建設・鉱山機械ともに技術面だけでなく、お客様とのパートナーシップも非常に重要になると考えています。

 そして残念ながら現状、電動建機、電動鉱山機械のマーケットは存在していません。どこにこのマーケットができるのか、あるいは我々自身がどこにつくっていくのかがカギになります。



どこに電動化の市場ができるのか?
 ─ 現在、どの分野、地域に可能性を見出していますか。

 小川 仮説を持っているのは、1つは鉱山です。鉱山会社自体がカーボンニュートラルをゴールに活動を進めており、電動化を求める声も挙がっているので、電動化のマーケットができると思います。

 次にマイクロショベルなどのミニ建機です。この分野は技術的ハードルが比較的低いですから可能性があります。特に需要が大きいのは気候変動への意識が高く、ミニ建機の市場が大きい欧州です。今、各メーカーが少しずつ電動化建機を市場に投入している段階に入っています。

 ただ、機械の開発だけではなく、インフラもセットで考えていかないと電動化マーケットはできないと思いますから、あらゆる可能性を考慮して注力していきたいと思います。

 電動化によるカーボンニュ―トラルが目的なのではなく、カーボンニュートラルの実現による社会貢献、さらには、その時流の中でどうビジネスモデルを構築していくかが企業として非常に重要です。

 ─ 社会貢献のみならず、本業を発展させることが結果としてカーボンニュートラルにつながるということですね。

 小川 ええ。実際に製品を選ぶのはお客様であり、まだまだ排出ガス規制すらない国もある現状で、本当に2050年にカーボンニュートラルが実現するのかは、まだわかりません。ただ、我々メーカーとしてはお客様に選択肢を提供する必要があります。

 お客様のニーズに応えるべく、今のうちから先行研究開発を進めていかなくてはなりません。電動化は、足元ですぐに売り上げや利益につながりませんが、それに対する投資はしっかりしていかなくてはいけないというのが今の状態です。

 ─ 建機の電動化の主役が見えない中、全方位といっても優先順位付けも重要になってきますね。

 小川 確かに、今はまだ最終的に何が正解かはわかりません。ただ、我々はいろいろなやり方を今のうちに考えておかないと、新たな時代に適応できません。

 方向修正を加えながらも開発を進めていかなければなりませんし、先程お話したようにどこに、どういった市場ができるかをきちんと見ていかなくてはいけないのです。

 我々が持つリソースも限られていますから、やはり優先順位を持って電動化開発を進めていく必要があります。20年4月には、100名規模の組織「電動化開発センタ」、50名規模の「自動化開発センタ」をそれぞれ発足させて、開発体制の充実を図っています。



電動化時代にも「コンポーネント」がカギ
 ─ 改めて、コマツが持つ強みは何だと捉えていますか。

 小川 我々の1つの強みは「コンポーネント」(主要部品)です。電動化になったとしても、コンポーネント戦略は引き続き重要です。

 元々、機械の品質や性能のカギとなるコンポーネント、例えばエンジン、トランスミッション、油圧機器、電子機器を我々は自社で開発し、生産するという形で内製化しています。一方、競合他社は外部から調達しています。

 ですから、例えば我々はコンポーネントにセンサーを搭載して、そのデータを活用した建機の稼働管理・分析を行う遠隔システム「KOMTRAX」から稼働状況を把握し、故障予知や部品交換時期予測などのアフターサービスに活用することができます。

 今後、電動化においてバッテリーセル自体をコマツが内製することはありませんが、バッテリーセルを含むモジュールやパッケージなどをマネジメントするシステムは、パートナーと連携して開発していくことになると考えます。その意味でも電動化においても、コンポーネント戦略が重要であることには変わりありません。

 内製化が全ていいというわけではありませんが、関連技術を社内に蓄積していかないと、競合他社との差別化はできないと考えています。やはり、コンポーネントを手掛けている会社が最後に生き残るのではないかと思っています。

 ─ 車体を組み立てているだけの会社は厳しくなってくると。

 小川 そうです。我々のビジネスは新車を販売して終わりではなく、それ以降のアフターサービスやソリューション提供が非常に重要です。

 お客様のライフサイクルコストの中で、新車のコスト割合は2~3割で、残りは例えば燃料費、オペレーターの人件費、修理・オーバーホール費用であり、この部分のコストを下げていくことがお客様に価値を認めていただくことにつながります。ここでもコンポーネントがカギを握っています。

 我々はコンポーネントを通じてお客様とのタッチポイントを増やして、長期的な関係を築いていきます。例えば、我々の純正部品を使っていただくことで我々の売り上げが上がり、お客様にとっては中古車になる時にその価値が上がります。トータルのバリューチェーンでビジネスを考えていくということです。

 ─ 各産業に「GAFA」などITプラットフォーマーが入り込んできていますが、そうした時の対抗策にもなる?

 小川 はい。建機のビジネスではアフターサービスや部品供給が重要ですから、この分野は参入障壁が高いと思います。

 私が常に言っているのは、我々は「モノからコト」ではなく、「モノとコトの両方をやる」会社だということです。

「モノ」は機械の進化であり、自動化、遠隔操作化、電動化、自律化などを進めていきます。「コト」ではお客様の施工オペレーションの「見える化」、最適化を推進しています。その両方の最終点がデジタルトランスフォーメーション(DX)です。

 お客様にアプリケーションやプラットフォームの価値を認めていただき、そこにデータのやり取りを含め親和性の高いコマツの機械を提供していくことで、安全で高効率、高生産性なお客様の現場を実現していくという考え方で取り組んでいます。

林業ビジネスを第3の柱に
 ─ ところでコマツは林業機械にも取り組んでいますが、林業もカーボンニュートラルに向けては重要な産業ですね。

 小川 ええ。林業ビジネスは建設機械、鉱山機械に次ぐ第3の柱として力を入れていきたいと考えています。

 林業ビジネスは木を切る「伐採」だけではなく、木を植える「植林」、「造林」、木を育てる「育林」という循環があります。我々はこの循環の全ての工程の機械化、自動化を進め、「スマート林業」の実現を目指しています。

 例えばブラジルでは、ブルドーザーをベースに開発した植林機によって、苗木を植える地ならしや植え付けの位置情報のデータを活用した植林に取り組んでいます。こうした林業ビジネスに関するソリューション提供を通じて、森林再生をサポートするビジネスを展開していく。それによってCO2削減にも貢献することができます。

 他にも、例えば建設現場における「スマートコンストラクション」の知見を活用して、ドローンを飛ばして森林の密度や木の高さなどを測ることができるようになっています。

 ─ 日本は国土の約7割が森林ですが、この資源を生かし切っていませんね。

 小川 そうですね。その意味で林業を再生しなければカーボンニュートラルは実現しません。木は成長する過程で、光合成によってCO2を吸収して生命活動に必要な炭水化物をつくり、余分になった酸素を空気中へ出します。

 また、木は伐採しても内部にCO2を固定しており、燃やさない限りは出てきません。しかし、ある程度生育するとCO2の吸収は飽和してきます。日本の山は成長しきった木が放置されているところも多く、ほとんどCO2を吸収していない状況もあるようです。

 生育しきった木を伐採することと、切った後に新しい木を植えることで森林を再生することが重要です。植林、造林、育林、伐採のサイクルを適切に回していくことがCO2削減にもつながります。

 ─ その意味でも林業復活が大事だということですね。

 小川 そうです。グローバルで見れば、林業が盛んな地域では植林、造林、育林、伐採のサイクルを回しながら、パルプを作ったりする植林メーカーがいます。こうした企業には我々の機械も入っています。

 スウェーデンには04年に買収した林業機械開発・生産を手掛けるコマツフォレストABがあります。林業機械用のシミュレーターやアタッチメント会社を買収するなど事業を拡大していっています。

 林業ビジネスの売り上げは約1000億円ありますが、24年までに1400億円、40%増を目指して活動しています。

 我々は元々、本業を通じた社会課題の解決を目指して活動してきており、きちんとビジネスになる形で社会貢献していくことが非常に重要だと思います。

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