民主主義の危機が叫ばれる中、日本の安全保障をどう構築するか? 答える人・元防衛大臣 森本敏
財界オンライン / 2022年2月10日 7時0分
国家安全保障戦略を見直す意味とは?
―― そういう既存の世界秩序が変わろうとする中で、日本の役割とは何だと考えますか。
森本 従来の秩序を戻すためには、強力な価値観を共有する国のリーダーシップがどうしても必要です。そういう意味では、日米豪印の4カ国連携「Quad(クアッド)」は非常に大事です。
特に、インドが入っているというのが非常に重要です。インドはもともと非同盟の国で、それを連携させることができたのは日本の力。もっと言えば、印モディ首相と緊密な信頼関係ができていた安倍晋三・元首相の貢献は大きいと思います。今春、クアッドの3回目の首脳会議を日本でやることになっているのですが、この時に日本がクアッドを発展させるためにどのような役割を果たすかが大事です。
―― それは今まで指摘してきたような、国際法上の危機と民主主義の危機と軍事技術による危機、そういう問題を抱えている中で、日本の立場を明確にするということですね。
森本 インド太平洋の安定を図る上で、地理的に言うと、米国、インド、豪州の真ん中に日本がいるわけですから、日本がクアッドの調整役にならなければなりません。クワッドの事務局を日本においてもよいと思います。
今、日本は「国家安全保障戦略」の見直しを行っていて、一言で言えば、この狙いは対中戦略です。インド太平洋の安定を維持するために、相対的に国力が低下しつつある米国の同盟国として協力・支援できる同盟国を見ると豪州は遠すぎるし、韓国は朝鮮半島にしか関心がない。東南アジアの国々では弱すぎる。そうなると、日本が相当重要な対米協力の役割を果たさないとインド太平洋の安定を維持することができないわけです。
まず、どういう対中戦略をつくるかが、国家安全保障戦略の見直しの最大課題です。クワッドをどのように活用するかもそのための一つの課題です。
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2024年頃が一番難しい時期になる?
―― これは我が国の安全保障の根幹をなすわけですね。
森本 近年、圧倒的に中国の軍事力が強くなってきて、更に、北朝鮮とロシアがいる。北朝鮮とロシアが日本に北方から脅威を与えると、日米の防衛力はそっちに向かわないといけないので当然、台湾海峡周辺に力の空白ができる。中国はこうした力の空白を狙って行動を起こす可能性があり、その対応には、日本の今の防衛力では不十分です。米国は、日本の能力がもっと高くないといけないし、役割をもっと果してもらわないと困るという見方です。
―― 要するに、日本の防衛費を増やせと。
森本 防衛費だけの問題ではなくて、米国の足りない部分をどこまで日本が補って対中戦略を進めることができるか。それが国家安全保障戦略を見直しする最大の狙いです。
米国でもこの春には国家安全保障戦略や国家防衛戦略などの見直し結果を公表する予定ですが、状況の変化が急速なので作業結果が遅れていると思います。しかし、バイデン大統領が今年の中間選挙で勝てるかは分かりませんが、誰がリーダーになるにせよ、米国の対中戦略はあまり変わらないと思います。
―― これは共和党、民主党とも対応はほぼ同じですね。
森本 経済政策は違う面が出てくると思いますが、国家戦略については基本的に同じです。
中国では今年秋に5年に一度の共産党大会が開かれ、習近平指導部が2期10年を締めくくります。ここで習近平国家主席は3期目に入り、2027年にもう一度再選すれば4期目に入ります。わたしは、このまま中国が経済・軍事を強化していくと、4期目突入もあり得ると思います。そうなると任期は5年ですから習近平体制は2032年まで続くことになる。ロシアも、2024年に大統領選挙があって、プーチン大統領が再選されれば、憲法を改正したので、さらに最大2期の12年は大統領をつとめるわけです。
米国も2024年に大統領選挙があり、トランプ元大統領の動向も気になりますが、今年の中間選挙の結果次第では習近平指導体制やプーチン体制が続く中で、米国のリーダーが4回ほど変わってもおかしくない。
―― 米国が一番不安定になる可能性があるわけですね。
森本 その意味で、米国、ロシア、台湾の選挙がある2024年頃が一番難しい時期になるのではないかと思います。
経済安全保障担当大臣に聞く! 経済安全保障政策をどう構築するか?
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