【倉本聰:富良野風話】アベノウブギ
財界オンライン / 2022年2月7日 15時0分
つまらないことを考えている。いや、つまらないかつまらなくないのかは人によって考えがちがうだろう。僕が思うに決してつまらないことだとは思えない。
【倉本聰:富良野風話】神かくし
アベノマスクの行く末についてである。
現在世の中できらわれてしまって、浮いたマスクが8千万枚あるという。その保管費用に約6億円の金を要し、この金が無意味に国庫から、即ち我々の税金から毎日ずるずると支出されているらしい。勿体ない、というより無駄な支出であり、浪費である。これの処理法、あるいは再利用法をどうして議員たちはちゃんと考えないのか。当の責任者である自民党議員は勿論だが、文句ばかり言う野党議員も無能である。そこで87歳になる小輩は、何とか良い術がないものかと耄碌(もうろく)した頭で必死に考えた。そしてその手段を発見した。
マスクを再生し、オムツに仕立て直すのである。そしてそのオムツを、老人ホームと保育園に配布するのである。無論その手間賃は1個いくらで、ミシンをかけてコツコツ作業をしたバイトの主婦たちに支払われねばならないし、その費用は当然自民党が、厳しく言うならアベさんがポケットマネーから支払わねばならない。かくして無用のアベノマスクは、アベノオムツに生まれ変わる。
そういう名案を発想して、これだ!と家人に自慢したら、ガーゼはオムツにはなりません、と無惨にも一笑に付されてしまった。僕の計算では、アベノマスクを10枚使えば成人用オムツが1枚できるという計算で、8千万枚の眠っているマスクから8百万枚の成人用オムツができるというわけで、日本の80歳以上の人口は大体1千万人だから1人当たり1枚弱配れるという画期的救国のアイデアだったのだが、無念である。
ところが世間には偉い御老人がいらっしゃるもので、兵庫県川西市在住の85歳の老女が、自宅にあったアベノマスクの糸をほどいて縦26センチ、横64センチのガーゼ地に戻し、2時間かけて5枚を使い、手縫いで赤ちゃん用の産着に仕立てあげたという。
この方、20代から大阪や神戸で縫製の仕事に携わって来られた方で、布を見る目が確かであり、市販のガーゼより織り込まれている糸が多く、布地がしっかりしていることに着目されて、自分の子供が産まれた時のことを想い出しながら赤ちゃん用産着を仕立てあげられたという。
岸田文雄首相は1月21日、残存マスクを有効活用した上で、残りは今年度内に廃棄するという方針を示されたそうだが、この老女のなさったことの方が余程優れた智恵の使い方である。大体この使い捨ての世の中にあって、我々老人世代が昔そうやっていたように、捨てるより使う、再利用するという、昔は当たり前だったこの発想を見事に持ちつづけておられるこういう方こそ、国は表彰すべきだと思う。
そんなことにも発想が行かず、国費ばかりを浪費している政治家たちに、喝!
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