【倉本聰:富良野風話】開会式
財界オンライン / 2022年2月21日 15時0分
北京オリンピックの開会式をテレビで観た。中国は凄い! と泌々思った。チャン・イーモウ氏の創造の美事さには日本はすっかり敗けたと感じた。
【倉本聰:富良野風話】アベノウブギ
プロジェクションマッピングの奔放な魔術。殆んど素人を使ったというその素人たちの整然たる統一。それを括めあげた演出の見事さ。2次元・3次元・4次元の交錯。入場行進を先導する女性たちの清潔さ、美しさ、それでいて行進のバックには金をかけないクラシックを使っている。そしてそこに登場する各国選手団のスポーツマンらしい奔放な破調。しばらくぶりに美しいものを見た。
それに比べて日本の創造性は、どうしてこうも堕ちてしまったのか。情けない。この責任をつらつら考えるに、僕は「電通」というものの存在を思ってしまう。この国の大事業、大イベントは、日常を考えても殆んどのものが政治家・財界から電通への丸投げに依存し、その肝腎の電通の中で、かつて持っていた独創性・創造性がどんどん失われてきてしまった所に日本の文化の衰退がある気がする。かつて輝いていた電通の光彩は一体いつからその光を失って来てしまったのか。
電通だけの責任ではないかもしれないが、最近のテレビのコマーシャル。一体いつからあんな稚拙な意味不明のものが多くなってしまったのか。しかもその幼稚な、お笑いタレントがばか笑いするばかりの耳ざわり、目ざわりの不快な代物が、通販宣伝の拡大を含めて電波をどんどん浸蝕している。
北京オリンピックの開会式に僕が久しぶりに清潔さを感じたのは、有名タレントも宣伝もなく、中国という大国がスポーツ・文化というこの大切なものを極めて純粋に、何の利害もなく扱ってくれたからだと思う。そのことに僕は清々しい感動を覚えた。
その寸前まで北京オリンピックを、どこかで僕は政治と結びつけ、新疆ウイグル自治区の人権問題はどうなっているのだろうかとか、台湾は、香港は加わるのだろうかとか、習近平とプーチンはこの会を機に逢うのだろうかとか、余計なことばかり考えていた。
しかしこの開会式のセレモニーを見て、そういう雑念が一切ふっとんだ。一切というのは誤解しないで欲しいが、その間だけである。チャン・イーモウ氏が作った開会式の時間だけである。この時間だけは習おじさんもバッハのオッサンも隣の長屋に住む良い人に見えた。あの開会式のあの時間には、憎しみも争いも忘れさせる「文化」というものが持つ清潔な力があった。
美は利害関係があってはならない。
アリストテレスの言った美学の根源の言葉である。当然、スポーツも美に含まれる。勝った敗けたは憎しみを残さないし、後にはさわやかな友情だけが残る。習おじさんもバッハ兄さんも利害と関係ないあの顔を保って欲しい。美は軍事力を遙かに超えるものなのだ。
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