「神泡」に次いで「ソーダ割り」を提案 【サントリー】の〝飲み方のファッション化〟戦略
財界オンライン / 2022年2月24日 15時0分
逆風の中で豊かな飲み方を─。コロナ禍が3年目に突入する中、サントリーホールディングスが家飲み需要の取り込みを強化する。ビール類市場は17年連続の縮小と歯止めが効かない中、各社がシェアの獲得に向けて新商品の投入などで知恵を絞っている。その中でサントリーが目を付けたのがビールの泡や国産ジン。商品だけでなく〝飲み方のファッション化〟を図る同社の次の一手とは。
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国産ジンの缶商品も投入
「食中(食事中)提案で新需要創造を図る」─。人口減少に加え、アルコール離れが言われて久しい。ビール各社があの手この手を繰り出す中、蒸留酒であるジンを使った飲み方の提案で需要の掘り起こしを進めているのがサントリーグループだ。
ウイスキーやRTD(缶チューハイ)などを展開するサントリースピリッツは国産ジンを使った「ソーダ割り」を広げてい
る。同社社長の神田秀樹氏は「ハイボール・レモンサワーに続く第3のソーダ割りとして『翠(すい)ジンソーダ』が選択肢として当たり前の存在にしていきたい」と意気込みを語る。
ジンとは、大麦、ライ麦、ジャガイモなどを原料とした蒸留酒のこと。サントリーは2017年にジャパニーズクラフトジンの「ROKU」、20年にはジャパニーズジン「翠」を発売している。2000円未満の「翠」と2000円以上の「ROKU」として価格面などでのすみ分けも図っている。
そもそもハイボールが家飲みの定番となったウイスキーなどと比べ、日本ではジンの知名度は低かった。実際、サントリーが2種類の商品を市場に投入するまでは、輸入ジンが市場の大半を占めていた。そんな中で市場拡大の余地が大きいと見た同社は国産ジンの展開に注力。ビール大手の中でも唯一、ジンの普及を狙っていった。
「ジンだけを売っていては今のような勢いは出なかっただろう」と他社関係者は指摘する。サントリーは発売当初、「翠」と「ROKU」の国産素材を使っている点を強調してきたが、コロナ禍で家ナカ時間が増えるといったライフスタイルの変化を受け、自宅にいながら〝ソーダで割って飲む〟という飲用シーンそのものを提案したのだ。
サントリースピリッツの商品群の中でも、ジンの21年の伸長率は142%とその勢いは群を抜く。主力ビールの「ザ・プレミアム・モルツ(缶)」が前年割れを起こしたのとは対照的だ。同社の国産ジンの売り上げは前年比203%の30億円と躍進し、昨年の市場では輸入ジンを国産ジンが逆転している。
そもそもスピリッツをソーダで割って飲むというスタイルを発案したのはサントリーだ。2000年代初頭、若者を中心にウイスキー離れが進んでいた。そこで若者にとって古いイメージが定着していたウイスキーのイメージを変革させるため、ビール感覚で飲めるようにジョッキでのハイボール提供などを市場に提案したのが始まり。
「ビールに飽きた若者がこぞってハイボールを飲むようになった」(外食関係者)。飲食店などで一定の認知が進むと、今度は家で自らグラスに氷を入れてウイスキーを注ぎ、ソーダで割るという飲用シーンが拡がっていった。「好きな分量で割れる」「レモンを絞ったり、味のバリエーションが楽しめる」。自宅での飲用シーンを広げたことが若者を中心に好評を得た。これを逃さず同社はレモンサワーでも同様の展開を行った。
サントリー関係者は「新たな商品を提案するだけでなく、その飲み方まで提案するのが当社のスタンス」と話す。そして今回新たに提案したのが国産のジンというわけだ。国内での盛り上がりを見せる国産ジン需要に先手を打つ形で、同社はボトルタイプに続き、手軽に購入できる缶タイプも展開していく。
1本1000円台で買える「翠」は若年男女を獲得。購入者のうち、初めてジンを飲むユーザーが8割弱を占めたという。また、プレミアム商品として海外展開を担うのが「ROKU」となる。既に60カ国以上で展開中。高価格帯ジンで販売数世界2位に躍り出る。神田氏は「24年に国産ジン売上高100億円を目指す」と力を込める。
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ビールでは脇役の〝泡〟を強調
一方のビールでは脇役的な存在だった泡に焦点を当てた。18年からプレモルのクリーミーな特徴の泡を「神泡」と名付け、料飲店から展開。その後は1秒間に4万回の超音波振動を伝える家庭用「神泡サーバー」も開発し、泡を楽しむという付加価値を提案している。サントリービール幹部は「『泡』はビールにしかなく、ビールの『おいしさ』に直結する」と強調する。
22年は神泡に加え、「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム〈無濾過〉」を投入。通常のプレモルよりも高い新商品を投入することで自宅などでのメリハリ消費、ちょっと贅沢、ちょっとした高額消費の需要を喚起する狙いだ。
1秒間に4万回の超音波振動を伝える家庭用「神泡サーバー」
自宅での飲用─。コロナ禍を受けたビール業界では需要を喚起する切り口として、この要素が重みを持つ。アサヒビールの「スーパードライ 生ジョッキ缶」も全開になる缶のフタを開けると自然に泡立つ点が若者を中心に惹きつけた。キリンビールはクラフトビールで一般的なピルスナータイプのビールとは一線を画した味で勝負する。
消費業界では、コロナ禍で家飲み需要は今後も続くというのが共通見解。国産ジンもライバルが少ないとはいえ、市場規模は大きくない。それでも「居酒屋などで飲む外飲みに加え、自宅にいながら自分で作って飲む瓶と手軽に飲める缶で三位一体の需要創造を目指す」(神田氏)という考えを示す。
マーケティングに詳しい専門家はサントリーの取り組みを「商品とその飲み方をクールだと思ってもらえるような発信をしている。お酒の飲み方のファッション化と言える」と分析する。コト消費をいかに取り込めるか─。22年はサントリーの提案力が問われる年となる。
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