日本が「財政健全化」するために必要な第一歩とは?【人気エコノミストの提言】
財界オンライン / 2022年3月2日 7時0分
各国の財政健全化の成功例、失敗例からの教訓は、決して高成長を前提にしてはならない、というものである。高成長を前提にすると、大幅な税収増を当て込んで、歳出削減努力が疎かになる。歳入改革も一切検討する必要はない、ということにもなる。かくして、高成長を前提にすると、財政健全化は進まない。
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1月14日の経済財政諮問会議では、新しい「中長期の経済財政に関する試算」が示された。名目で3%成長、実質で2%成長の続く成長実現ケースでは、2026年度にプライマリーバランス(PB)は黒字化するという。昨年は2029年度の黒字化を見込んでいたが、20年度はコロナ禍でも思った以上に、税収が伸びたため、前倒しになった。
これを基に、岸田首相は、25年度のPB黒字化目標を堅持するという。ただ、大規模な追加財政を繰り返したから、経済の落ち込みが回避され、税収が落ち込まなかっただけで、今後も税収が順調に増加するとは期待しがたい。
むしろ、高成長を前提にした財政試算を表明することは、当面、財政健全化を進めない、と宣言しているようなものだろう。事実、政府の試算においても、比較的慎重な成長見通しを前提にすると、2031年度もPBは赤字のままだ。
アベ・スガノミクスの下で景気回復は長期化し、17―19年にあれほどの超人手不足社会が訪れても、一度もPBの黒字化は達成できなかった。完全雇用下でもPB赤字が継続しているのは、経常的な歳出に見合った経常的な歳入が確保できていない、というシンプルな理由に他ならない。いずれ増税は不可避である。
もちろん、コロナ禍が続く間は、ある程度の追加財政を繰り返さざるを得ないのだろう。一気にPB収支の均衡を図ろうとすれば、不況に舞い戻りかねない。また、コロナ禍が収束した後でも、不況が訪れれば、追加財政が必要となる場面はあるだろう。巨額の公的債務を抱えているからと言って、必要な追加財政が打たれなければ、日本経済は回復のきっかけを掴めず、長期停滞に沈む恐れもある。とは言え、公的債務の膨張がこのまま続けば、資源配分を益々歪め、潜在成長率を押し下げると共に、金融システムの不安定性が高まる。
何を最優先しなければならないのか。高い成長率を前提とし、財政健全化の先送りを繰り返すのは、制度的問題も影響している。近年、官僚による「忖度」が問題視されたが、高い成長を前提とする甘い見積もりの財政見通しも同様であり、政権運営に都合の良い非現実な前提やシナリオの採用が繰り返されているのである。この問題の解決策は、中立的な組織において、財政健全化の前提や公的債務の長期見通しを作成することである。これを財政健全化の第一歩とすべきだろう。
先進国でこうした制度設計がないのは、今や日本だけである。
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