【ゴミを原料に】【壁に貼れる太陽電池】積水化学社長が語る「次世代事業」
財界オンライン / 2022年3月4日 7時0分
新しい時代のニーズに対応するには「オープンイノベーションが必要」と語る積水化学工業社長の加藤敬太氏。その一例が、ごみを丸ごとエタノールにするバイオリファイナリー技術やシート状で超軽量のペロブスカイト太陽電池。化学の力は、社会をどう変えるのかーー。
稼ぐ力は過去最高レベル
─ コロナ禍で社長に就任し、2年近くが経ちました。
加藤 はい。コロナの影響を最小化するために必死でやってきた期間でした。コロナからの回復の兆しが見えると、今度は半導体不足や原材料高騰が起きるなど、先行き不透明な中で、どう持続的な成長を成し遂げるかを検討してきました。
その中で、徹底したコスト削減、事業の強化、不採算事業の構造改革など、やるべきことを前倒しで進めることで、稼ぐ力は強くなっています。
下期、計画通りにいけば、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)は過去最高レベルになるので、市況が元に戻れば、いち早く成長できるだろうと考えています。
─ 原材料の高騰などにはどう対応していますか?
加藤 まずBCP(事業継続計画)の強化です。ここ何年かで原料ソースの複数化を進めてきました。それに加えて今やろうとしているのは、グローバルでまとめて購入するなど、購買力を活かした有利な購買や調達です。サプライチェーンのマネジメントレベルを上げることでかなりのコスト削減ができました。
ただ、原料高騰は加速しているので、付加価値の高い製品へのシフト、社内のコストリダクション(縮小・削減)、汎用品はスプレッド確保のための価格改定、この3つで何とか乗り切ろうとしています。
─ 不確実性の高い時代ですが、どんな成長戦略を描いていますか?
加藤 1つは、社会課題解決への貢献量を2倍にすることにより、結果として、売上高2兆円を目指しています。ただ、オーガニックな成長だけでは達成できないと思うので、新製品、新事業の創出、またM&Aで成長を遂げていこうと。
新事業としては、ごみからエタノールを作るバイオリファイナリー(BR)がありますが、商用10分の1サイズの実証プラントが今春完成します。
それから、シート状で超軽量のペロブスカイト太陽電池。これは、われわれの得意分野である封止技術を活かして、耐久性で他社を圧倒的にリードし、10年の耐久性を確立できました。
今後はさらに20年へと耐久性を伸ばす研究を続けながら、実用サイズの1メートル幅のロールツーロールの生産技術の確立に着手しています。
─ 封止技術が高ければ、水や埃などのごみが入らず、耐久性が高まると。
加藤 はい。
それから、メディカルでは、細胞バイオソリューションという、iPS細胞の培地や足場材の合成培養資材があります。天然由来のものはコストがかさみ、品質も安定させるのが難しいのですが、われわれの特殊樹脂技術で、少し安価で、かつ安定した品質のものを提供できるよう、大学も含めて開発を進めています。
炭素取引の切り札にもなる
ごみを丸ごと素材にする技術
─ ペロブスカイト太陽電池は、実用化すれば再エネ普及の拡大につながりますね。
加藤 そうですね。都心には高層ビルがたくさんありますが、高さの割に屋上の面積が少ないので、ビル1棟を賄うソーラーの設置は不可能です。
ペロブスカイト太陽電池の実装は今後の課題ですが、ビルの壁面にも使える可能性があります。軽いので補助的な電源としてクルマにも使える可能性がありますし、住宅も強度が足らず、ソーラーパネルを設置できない家にも付けられるので、太陽光発電を一気に増やせる可能性があると思っています。
─ ごみをまるごとエタノールにするBR技術は、アメリカのベンチャーと共同開発した微生物触媒を使って可燃ごみをエタノールに変えるものですが、技術が確立したら、米ベンチャーと一緒にプラントを建設していくイメージですか?
加藤 いいえ。基本的な菌の技術はベンチャーから導入しますが、日本においては、われわれが独自に展開できます。
ごみを燃やしたときに発生するガスを微生物に食べさせるのですが、有害なガスを事前に検知してシャットダウンしたり、微生物のエサとなる一酸化炭素を供給するような工業化の仕組みはわれわれが開発しています。ですので、ライセンスは菌の部分だけで、工業化の部分はわれわれ独自の技術です。
─ では、工業化のライセンスで海外展開もしていく?
加藤 可能性は十分あります。要は、炭素取引の切り札になる可能性もあるということです。われわれの技術でゴミがエタノールになってプラスチックになっていくと。しかもカーボンの消費を大きく減らせるので、海外に展開することで国と国とのカーボン取引を有利に展開できる可能性もあると思います。
例えば、東南アジアでは今、どの国も受け入れを拒否した廃プラスチックがコンテナに乗ったまま、さまよっている状態です。
それが逆に原料になるということなので、社会問題の解決にも大きく貢献できます。
積水化学の【得意技を磨き続ける】経営
加藤敬太
かとう・けいた
1958年1月生まれ。80年京都大学工学部卒業後、同年4月積水化学工業入社。2008年執行役員 高機能プラスチックスカンパニー 中間膜事業部長、11年同新事業推進部長、13年開発研究所長を兼任。14年3月常務執行役員、高機能プラスチックスカンパニープレジデント、同年6月取締役、15年専務、19年代表取締役、経営戦略部長、ESG経営推進部担当、新事業開発部長、20年3月代表取締役社長、社長執行役員
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