【過去最高の収益力】それでも、積水化学社長が”危機感”を語る理由
財界オンライン / 2022年3月7日 7時0分
「現状で安泰だと思っていたら、あっという間に死んでしまう」─。過去最高の収益力を付ける中、こう危機感を語る積水化学工業社長の加藤敬太氏。加工技術を活かし、社会に必要な製品を提供してきた積水化学。日本の地盤低下が言われる中、世界の産業を支える日本の化学メーカーは、どう成長を図っていくのか─。
イノベーションを生む
仕組みづくり
─ 成長し続けるには、イノベーションの創出が必要です。そのための仕組みづくりは、どう進めていますか?
加藤 現有事業関連の新製品は、カンパニーの研究所でやっていますが、BRやペロブスカイトなど少し時間のかかる難易度の高い新規事業はコーポレートのR&Dセンターや新事業開発部で進めています。
積水化学が強い技術と世の中のニーズやトレンドとのマッチングを重視してテーマを選定することで、だいぶ打率が上がってきています。
われわれの強みをもう少し進化させなければいけない部分にはベンチャーや外部の技術を活用して、融合で技術を進化させ、領域を少し広げていこうとしています。
─ 自社の強みと世の中の課題、そこに社内外の技術をいかに融合させるかが重要ですね。その他にマッチングが機能している例はありますか?
加藤 事業部間など、カンパニー間の垣根を越えた社内の融合で新しい価値を生み出しています。先ほどお話したペロブスカイト太陽電池がそうですね。
太陽電池関連など、もともとコーポレートのR&Dで蓄積してきた技術と、高機能プラスチックスカンパニーの樹脂の技術、具体的には封止の技術を融合させることで、他社に先駆けて製品になりつつあります。
1社単独で社会課題を解決できるような事業や製品は少なくなってきているので、オープンイノベーションを積極的にやるべきだろうと、ここ2年、非常に力を入れてやっています。
高機能プラスチックスカンパニーは大阪府に『水無瀬イノベーションセンター』をオープンしましたし、環境・ライフラインカンパニーは『千葉ソリューションセンター』を開設しました。これは、社内外、特にお客様や原料メーカーさん、大学などとオープンイノベーションをするための拠点です。
ただ、パートナーに選ばれるためには、尖った技術が必要です。きちんと情報を発信して「外部の〝この技術〟を組み合わせれば、こんな課題解決に貢献できる」と知っていただき、そこから新しい技術開発へと繋げていければと思っています。
【1兆円買収】昭和電工の”今”と”未来”
国内6、海外2事業所の
電力は100%再エネ
─ カーボンニュートラルの実現に向けて、各社、再エネの導入を進めています。
加藤 はい。当社は国内6事業所、海外2事業所の電力は100%再エネで賄っています。
われわれは化学事業だけでなく、住宅事業の『セキスイハイム』でソーラーパネルを載せた省エネ住宅をいち早く普及させてきたので、現在、太陽光パネルを設置したお客様が21万戸以上あります。
そうしたお客様もFIT(固定価格買取制度)が順次終わっていくので、蓄電池がないと昼間に発電した電気を夜使えないので、FITを卒業されたお客様から余剰電力を買い取らせていただいていて、それを自社の生産工場などに振り向けています。
家庭で発電された電力は取り合いの状況にもなっていますが、順次、FITを卒業されたお客様には、買取価格もそうですが、セキスイハイムに対する信頼や当社のESGの取り組みに共感していただき、ご契約いただいているので、今後も契約は増えていくと思います。
再エネ100%の工場からしかモノを買わない方針の取引先も現れていますが、そこにも対応できる体制ができています。
─ 働き方改革も進む中、リーダー育成には、どう取り組んでいますか?
加藤 長期ビジョンでも「挑戦」をキーワードに挙げています。5年後、10年後の自分たちの部署、自分自身のありたい姿を考えて現状とのギャップを埋めるために一歩踏み出す。それを「挑戦」と位置付けています。
不確実な時代に、今の仕事や事業の現状を肯定してしまうと、成長どころか、そのまま死んでしまう。だからこそ、変わり続けなければいけない。
そういう健全な危機感を持って挑戦して欲しい。それを風土として社内に定着させたいと、オンラインで直接従業員に語り掛ける「ビジョンキャラバン」を社長就任直後から続けています。各部署から色々な人に参加してもらうケースもありますし、ネクストリーダーということで、次期リーダークラスの人に聞きたいことをどんどん聞いてもらったりもしています。
挑戦を促す制度、挑戦した人が報われるような人事制度の改革もしています。結果を出した人は、若手でも抜擢できるような人事制度改革です。挑戦には失敗もつきものなので、失敗は責めないという風土も醸成されつつあります。
そうして挑戦してもらう中で、やりきった人が次期リーダーになっていく。中期、長期ビジョンの中で次々とリーダーが育っていくことを期待しています。
─ 稼ぐ力が付いたとのことですが、コロナ禍は危機感を共有するきっかけになったと。
加藤 そうですね。コロナ禍により生活様態も大きく変わり、急にパタッと売れなくなったものや逆に売れたものがあると思います。
そういう意味では、今ある製品は、ある程度の寿命や世の中の変化で使われなくなる可能性があるわけです。ですから、新しい用途や分野を開拓し続けないといけない。消えていく製品のほうが多かったらマイナスになるので、危機感を持って取り組んでもらいたい。現状で安泰だと思っていたら、あっという間に死んでしまうと。
挑戦のベースには健全な危機感があって、現状を肯定せずにゼロベースで見直してほしいと伝えています。変えるべきところは全部変えていく。そこを徹底しないと、長期ビジョンの売上高2兆円は達成できません。
今、海外比率が約25%なので、それを50%まで引き上げようとしています。海外を伸ばそうとしたら、海外のスピード感、変化の速さに付いていかなければいけません。
例えば、私が高機能プラスチックスのプレジデントをしていたときに工業用テープの10年前と今の製品構成を調べたら、10年前の製品は半分もなかった。
現状肯定でその製品だけやっていたら、事業部の売上も半分になって、製品は陳腐化して利益はもっと減っていきます。それが今、右上がりでカンパニーが成長しているということは、次々と新しいニーズに応える製品を出しているからです。
会社全体としても、強みを発揮して、常に変わっていかなければいけないと思っています。
(聞き手・本誌 北川文子)
ゴムか?金属か? 三菱マテリアルの「金属ゴム」
加藤敬太
かとう・けいた
1958年1月生まれ。80年京都大学工学部卒業後、同年4月積水化学工業入社。2008年執行役員 高機能プラスチックスカンパニー 中間膜事業部長、11年同新事業推進部長、13年開発研究所長を兼任。14年3月常務執行役員、高機能プラスチックスカンパニープレジデント、同年6月取締役、15年専務、19年代表取締役、経営戦略部長、ESG経営推進部担当、新事業開発部長、20年3月代表取締役社長、社長執行役員
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