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【M&A仲介大手】ストライク・荒井邦彦の〝警鐘〟「日本の成長力の弱さはM&Aが少ないからだ」

財界オンライン / 2022年3月21日 7時0分

荒井邦彦・ストライク社長

米国で「GAFA」が成長し、日本でなぜ生まれないのか─。その1つの理由には、成長に向けてM&A(企業の合併・買収)でベンチャーまで取り込む米国企業と、自前主義の強い日本企業との違いがある。「日本の大企業のM&Aが促進されればベンチャー投資市場が広がっていく」と話すのはM&A仲介大手・ストライク社長の荒井邦彦氏。日本が新産業を生み出すために、ストライクはどう手を打っていくのか。

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日米の時価総額上位の変化が表すもの
「日本の産業が組み換えを求められている今、M&A(企業の合併・買収)には重要な役割がある」と話すのはストライク社長の荒井邦彦氏。

 ストライクは1997年に荒井氏が創業したM&A仲介大手3社の一角。コロナ禍にあっても業績は堅調で2022年9月期は売上高が約112億円、営業利益は約42億円と増収増益の見通し。

 その要因を荒井氏は「事業承継はコロナに関係なく進めなければならないこと。さらに、コロナ禍で中小企業経営者の多くが『自分に何があったら』ということを改めて考えたのだと思う」と分析。

 大手3社の中での差別化要因については「他社との違いについてはお客様が判断されること。ただ社員には、お客様の前に立った時には、自分自身が差別化要因だと思うように言っている」と荒井氏。

 確かに、主に中小企業の事業承継に向けたM&Aを手掛けているという点で、外形的には手数料以外には大手3社に大きな違いはない。ただ、客観的に見てストライクが他2社と違うのは「スタートアップ企業」の領域を開拓している点。

 21年10月には専門部署「イノベーション支援室」を新設。なぜ、スタートアップ支援なのか?「事業承継型M&Aの本質は会社の存続。M&Aをしなければ後継者がおらず、最終的に廃業の方向に向かう。地域社会へのマイナスを生まないように貢献するためのもの。それは重要である一方、何かプラスを生む事業ができないかと考えた」と荒井氏。

 よく指摘されることだが、この20年で米国の時価総額上位企業20社は大きく入れ替わった一方、日本はそこまでの変化はなかった。その要因の一つが「M&Aの発達度」だと荒井氏。

 21年3月、経済産業省は「大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書」を公表したが、荒井氏はこの報告書策定にあたって有識者研究会の委員を務めた。

 日本の大企業の中にもM&Aを活用して、さらなる成長を目指すところは出てきているが、この報告書は「日本の大企業は、一般的に自前主義の傾向が強いとの指摘がなされている。スタートアップとのオープンイノベーションは、時間・費用・リスク等の面で、自社単独での研究開発よりも効率的なケースがあるが、多くの企業は、自社の成長戦略の中にオープンイノベーションの活用を組み込めていない」と指摘している。

 数字にも表れている。2010年から20年の間、米IT大手・GAFAMと日本のトヨタ自動車、NTTのM&A件数を比較すると、アルファベット(グーグル)が229件、マイクロソフトが223件、アマゾンが143件なのに対し、トヨタは34件、NTTは74件という結果となった。

 例えば、グーグルは06年に設立間もない動画投稿サイト「Youtube」を買収しているし、アップルのデバイスに搭載されているAI活用の音声アシスタント「Siri」は10年に買収して技術を取り込んだものだ。

「大企業がベンチャーの技術を認めてM&Aをするということが促進されていくと、結果としてベンチャー企業に対する投資の市場が広がっていく」

 20年の数字だが、米国のベンチャー投資市場は約16兆円に対し、日本は約6000億円。米国の経済規模は日本の3倍程度だが、ベンチャー投資では30倍近く水を空けられている。

「ベンチャーキャピタル(VC)、投資家の立場からすると、流動性のないところに投資したくはない。米国のようにM&Aによるイグジット(投資の出口)が増えれば、日本でも資金を出しやすくなる」

IPOをするか?M&Aを選ぶか?
 また、日本は米国に比べてIPO(新規株式公開)の敷居が低いため、VCなどはどうしてもベンチャーに対してIPOを意識した企業価値評価をしがち。実際、日米でIPOとM&Aの割合を比較すると、米国が約1:9に対し、日本は約7:3。「日本ではIPOをして一人前という古い価値観も根強い」(荒井氏)

 ストライクは大企業とスタートアップの間を橋渡しすることで、大企業には新たな成長をもたらし、スタートアップの経営者には、次の事業を生んでもらうことを狙う。荒井氏が大企業を回っていると、彼らの「変わりたい」という意思を感じることが多いという。

「そのエコシステム(生態系)の一部をお手伝いしたい。仕組みを創るのは一朝一夕にはいかないが、一歩を踏み出した」

 上場企業として利益を上げ、投資家など資金の出し手に還元していくことは大前提として、「その先に、我々がかかわったことで新たな企業の組み合わせが生まれ、その結果、世の中が変わったというような仕事をしていきたい」(荒井氏)

 ストライクは22年7月に創業25周年を迎えるが、これを機に自らの使命を見つめ直した。そこで導き出したのが「世界を変える仲間をつくる。」という言葉。「我々は『仲間づくり』の会社だと事業を定義し直した。25年経って、やっとやるべきことが見つかった」

 問われるのは誰もが思いつく企業の組み合わせではなく、意外だけれどもシナジーが出るような企業同士の組み合わせを見つけ出すこと。その意味で証券会社の投資銀行部門とは、また違う「目利き」の力が求められることになる。

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