ウクライナ侵攻が変える世界経済【人気エコノミストの提言】
財界オンライン / 2022年3月19日 11時30分
ロシアがウクライナに侵攻するという暴挙に出た。G7諸国は、一致団結してロシアへの経済制裁を決めた。中でも、ロシアの銀行をドル決済から外すという措置は強力である。
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各国通貨との仲介をするドルが使えないのだから、ルーブルとあらゆる通貨の交換が遮断されるのと同じである。ロシアは貿易取引から排除される。
それは同時に、G7側でも輸出企業の売上が減ることになるから、ロシアとG7諸国が損失を負う。だから、「劇薬」だと言われる。
このドル決済からの排除は、ロシアの軍事侵攻が終わっても、当分は続けられることになるだろう。ロシアは、天然ガスの輸出額では世界1位、原油の輸出は世界2位、石炭の輸出は世界3位である。今後、原油などの市況は高騰して、世界経済に悪影響を与えるだろう。
本稿では、ほかにもウクライナ侵攻がどう波及するかを考えた。
ひとつは、欧米はロシアの経済力を低下させる目的で、今後は脱炭素化を一段と加速させることだ。
欧州は、2030年に温室効果ガスの排出量を半減させる目標をさらに前倒しして進める可能性がある。化石燃料の使用が減れば、ロシアからの燃料輸入を大幅に減らせるからだ。ロシアの経済規模は、日本の約3分の1だ。その国がこれだけの軍事力を持てるのは、資源輸出のお陰である。脱炭素化がロシア経済を弱体化させると、ロシアの軍事力も低下する。
もうひとつは、同じ資源のうち、レアメタルのロシア依存をなくすことである。レアメタル=稀少金属とは、ニッケル、パラジウム、コバルトなどである。
ロシアは、経済制裁の報復措置として、こうしたレアメタルのG7諸国への輸出停止を行う可能性がある。だから、G7諸国は、レアメタルの調達先をロシア以外に見直すだろう。
さらに、製造業のサプライチェーンについても、ロシアを部品などの調達先から除外するだろう。製造業のサプライチェーンの見直しも、ウクライナ侵攻による変化になる。
まとめると、今後、世界経済は、脱炭素化を加速させて、化石燃料への依存を低下させていく。各国政府が、再生エネルギー産業などに巨大な補助金を支給して、国家の関与を大きくすることになる。
もうひとつは、経済安全保障が重視され、自由貿易の割合を低下させていく。従来の自由貿易では、世界中で最も安価な供給先が選ばれるという効率性優先の世界だった。それが、コストよりも万一を考えて安全なところから買うようになる。
日本は、中国と台湾がTPPに同時に加入申請をするという宿題を抱えている。世界が微妙に変わっていく中で、日本は一層難しい選択を迫られている。
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