【倉本聰:富良野風話】スポーツマンシップ
財界オンライン / 2022年3月20日 15時0分
オリンピックを観ていて、変に感動している種目がある。スノーボードである。
【倉本聰:富良野風話】アベノウブギ
スノーボードという種目が特に好きだというわけではない。ただあの種目の選手たちに、国家意識とか勝敗とか、そういう余計な夾雑物(きょうざつぶつ)なく、他国の選手のパフォーマンスに純粋によろこび、みんなで飛びついて純粋に喜び合う、そういう澄んだスポーツマンシップが見られるからである。
他のスポーツでも時々それはある。
日本のカーリングの選手たちは、勝っても敗けても、にこにこ相手に手をさし延べる。あの笑顔も誠に美しく、ある種、清々しい感動を覚える。
スポーツというものは本来そういうもので、今まで散々殴り合っていたボクシングの選手が、はれ上がった顔でいきなり抱き合う。ああいうシーンを見せられると、彼らの心の大きさ、寛容を、温かさを見せつけられて、己の心の狭さ、濁(にご)りをドキンと感じて反省させられる。あれこそがスポーツ精神というものであり、あの感動こそがオリンピックの原点なのだろうと思う。
昨今、オリンピックがどことなく汚れてみえるのは、そうした純粋なスポーツの感動が、国威高揚とか経済効果とか、これまでなかった不純な要素に、次第に冒されつつあることに原因があるように、僕には思える。
おそらく、暴力的肉体的に強いものが、それだけで人の上に立てるということになると、それはチンピラ、愚連隊、やくざ、ギャングへと一直線につながる道となり、闘争、戦争へと流れる暗黒の潮流に向かうことにしかならないだろう。それを自省して生まれたのが多分、武道の精神性であり、はぐれ者たちの世界では強きをくじき、弱きを助ける仁侠の道となったのだろうが、では今オリンピックという世界的イベントの中で、そうした精神性の向上が果たしてどのくらい保たれているのか。
国威高揚のためのドーピング。
何が何でも主催国になりたいがための一国の首長の平然たる大ウソ、アンダーコントロール。こんな国首たちが上にいる限り、オリンピックの本来の意義は保てるわけがないし、保ち様がない。
15歳の少女がマスコミの格好の餌食となったり、コロナの災禍が世を襲う中で国の威信にかけて世紀の祭典が開かれたり、その中でミサイルの実験を続ける国があったり、隣国に侵攻しようとする国があったり。本当に良いのかなァ、オリンピックなんかしてて。
そういういらつき、混迷の中で、スノーボードの選手たちの見せてくれた国家を超えての彼らの友愛。あるいはカーリングの日本選手たちの敗けても明るい友好の姿勢。そうしたものに意味なく感動してしまっている外野としての僕たちの気持ちこそ、オリンピック開催の真の意義ではなかったかと今更のように思ってしまうのである。
がんばれ、真のスポーツマンたち。
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