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【政界】頼みの連合が岸田政権にシフト 参院選前に混迷を深める立憲民主党

財界オンライン / 2022年3月14日 18時0分

イラスト・山田紳

※2022年3月9日時点

立憲民主党が迷走している。昨年の衆院選敗北を受け新代表の泉健太のもとで出直しを図ったが、党勢回復の兆しは見えない。このままでは夏の参院選も危ういと踏んだ連合は新しい動きに出始める。一方、新型コロナウイルスの感染「第6波」は2月上旬にピークを越えたとされ、首相の岸田文雄はバラバラの野党陣営を横目に出口戦略を練り始めた。2022年度当初予算が年度内に成立すれば、永田町は事実上の選挙モードに。与野党ともに存在意義が問われている。

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「まさか同じ日に」

 記者の問いかけに無言で車に乗り込む自民党組織運動本部長の小渕優子。TBSは、小渕が2月17日夜、連合会長の芳野友子と東京都内の日本料理店で会談したという独自ニュースを映像付きで報じた。

 芳野が1月に自民党本部を訪れ、幹事長の茂木敏充、副総裁の麻生太郎と個別に会談した際、どちらにも同席していたのが小渕だった。組織運動本部長は同党の支持団体や業界を束ねるポストで、連合との窓口でもある。その場で芳野と小渕はすっかり意気投合したという。

 昨年10月の会長就任以来、自民党への接近が目立つ芳野に対し、一部の産別労組から批判の声が上がり、連合内部はピリピリしていた。芳野は小渕との会合の直前、中央執行委員会を受けた記者会見で、自民党と連携する可能性を「まったくない」と否定したばかりだった。

 連合はこの日の中執委で参院選の基本方針を正式決定した。素案段階では政党名を挙げずに「人物本位・候補者本位で臨む」としていた部分を、「連合の政策実現に向けて立憲民主党、国民民主党それぞれと引き続き連携をはかることを基本としつつ、人物重視・候補者本位で臨む」と補足、修正した。これまで支援してきた立憲、国民民主両党と距離を置き始めたと勘繰られないようにするためだ。

 とはいえ、明確な支援ではなく「連携をはかることを基本としつつ」という回りくどい表現では、周囲の疑念を払拭できるはずもない。「基本」には必ず例外がある。連合は明らかに、旧民主党の流れをくむ立憲、国民民主両党との関係を見直そうとしている。

 関係者によると、芳野と小渕の会合は自民党側が呼びかけた。中執委と同じ日にセットしたのが故意か偶然かは不明だが、極秘のはずの会合をマスコミにリークしたのは、野党の動揺を誘いたい自民か、連合の「反芳野」勢力だろう。ある連合幹部は「歴代会長が自民党議員と飲むのは珍しくないが、まさかこの日とは……。センスを疑う」と漏らした。

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組合員が自民支持

 連合の基本方針にはもう一つのポイントがある。参院選の選挙区選挙で「目的や基本政策が大きく異なる政党等と連携・協力する候補者は推薦しない」と明記したことだ。素案では「目的が大きく異なる政党や団体等と~」だったが、「基本政策」を加えた。これは何を意味するのか。

 芳野は2月17日の記者会見でこの項目が「共産党を念頭に置いている」と改めて説明した。しかし、立憲民主党に近い連合関係者は「『基本政策』を入れたのは日本維新の会との連携を否定するためだ」と明かす。

 国民民主党代表の玉木雄一郎は衆院選後、共産党を含む野党共闘路線と決別し、維新や、東京都知事の小池百合子が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」との連携を探ってきた。ただ、維新の政策や主張は本来、労組とは相いれない。「共産だけでなく維新もだめ」という基本方針の修正は、維新が特に敵視する官公労(立憲系)による巻き返しとみられる。

 参院選では改選数1の「1人区」(計32選挙区)の行方が全体の勝敗を左右する。野党は16年と19年に1人区で共闘を進めた
ものの、いずれも自民党に大きく負け越した。

 今回、自民党は公明党との「相互推薦」問題がこじれて盤石とは言えない状況だが、それでも空中分解寸前の野党陣営に比べたら傷は浅い。このままだと1人区で野党はほぼ総崩れになる可能性がある。

 19年参院選の後、連合が地方組織の組合員を対象に実施した「第7回政治アンケート調査」によると、政党支持率は合流前の旧立憲民主党と旧国民民主党を足しても34・9%で、「支持政党なし」の36・0%を下回った。自民党は20・8%に伸びた。野党が政権を担い得る勢力になることを期待するとの回答は「どちらかと言えば」を含めても60・9%。野党の支持団体としてはさびしい数字だ。

 組織率が2割に満たず、しかも組合員の保守化が進む中で、連合は組織防衛に躍起になっている。昨年の衆院選前には、トヨタ自動車グループの労組でつくる全トヨタ労連が支援してきた無所属の古本伸一郎(当選6回)が愛知11区からの立候補を断念し、結果的に自民党候補の圧勝をアシストとした。

 脱炭素が世界の潮流になり、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の取り組みを労使一体で進めるために、現実路線を取り始めたと言っていい。かつて「民主党王国」と呼ばれた愛知での異変は時代の変化を象徴する出来事だった。

 連合は参院選比例代表に産別の組織内候補9人(立憲民主党5人、国民民主党4人)を擁立する予定だ。比例名簿に登載された候補者が個人名票の多い順に当選する非拘束名簿式のもと、19年参院選では、旧立憲は比例で獲得した8議席中5議席、旧国民民主は3議席すべてを労組出身者が占めた。

 連合は組織内候補を当選させることを「働く仲間を代表する連合の社会的な役割」と位置付ける。ただ、19年に旧国民民主党から比例に立候補した電機連合出身の現職(当時)が19万票超を集めながら次点に甘んじたように、擁立した政党が不振だと当選ラインに届かない。ちなみに自民党の最下位当選者は約13万票だった。

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「国民民主は与党か」

 官公労と民間労組を統一して連合が結成されたのは1989年11月。同年7月の参院選では当時の社会党が躍進し、委員長の土井たか子(故人)は「山が動いた」の名文句を残した。労働界の再編は政界再編とリンクし、93年に非自民の細川護熙政権が誕生。その後、連合は旧民主党を支援し、2009年の政権交代にも貢献した。

 ところが、12年12月に自民党が政権を奪還すると、野党は長期低迷期に入る。元首相の安倍晋三のもとで「官製春闘」が常態化し、岸田政権は「新しい資本主義」の分配戦略として①看護・介護・保育・幼児教育などの給与引き上げ②民間企業の賃上げ支援③こども・子育て支援─に取り組んでいる。連合が政治的な果実を手にするには、政権と政策を協議する必要が高まったということだ。

 それを承知で自民党は揺さぶりをかける。3月13日の党大会で決定する22年の運動方針では、「友好的な労組との政策懇談を進める」という従来の表現から踏み込んで「連合」を明記する方向だ。運動方針をとりまとめるのは小渕。そう考えると、冒頭の芳野との会合には「顔合わせ」以上の意味が浮かんでくる。

 立憲民主党代表の泉は歯切れが悪い。連合が基本方針を決めた翌日の記者会見では「支援の強弱がその都度示されるわけではない。(立憲の)政党名が明記され、まさに連携していくということだ」と述べ、「支援」と「連携」にさほど差はないと平静を装った。立憲は参院選の1人区で引き続き野党候補の一本化を目指す。

 ただ、共産党との間合いの取り方はぶれている。立憲民主、維新、国民民主など野党4会派は2月中旬、国会で共産抜きの会談を定例化しようとしたが、共産が猛反発したため、わずか1日で中止に転じた。お粗末な対応に、立憲の党内では国会対策委員長の馬淵澄夫への不満がくすぶる。

 一方、国民民主党は2月21日の衆院予算委員会と翌日の本会議で22年度当初予算案に賛成した。「高騰を続けるガソリン・軽油価格対策について、政府は『トリガー条項凍結解除』の提案を採用する方向を示した」(政調会長談話)からだという。

 しかし、その時点で岸田は、ガソリン税を一時的に引き下げる同条項の凍結解除を含めて「あらゆる選択肢を排除しない」と答弁したに過ぎない。代表代行の前原誠司は玉木の方針に異を唱えたが、聞き入れられなかった。

 維新幹事長の藤田文武は「玉木代表がどういう意図なのかわからないが、政権与党に入りたいと捉えられても仕方がない」と批判した。玉木が主導した異例の賛成劇は、外形的には連合の基本方針と軌を一にしているように映る。

 共産党は野党共闘を目指す方針を変えていないが、現状では覚束ない。

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水際対策で後手

 与党としては大きなスキャンダルはなく、国会はほぼ無風状態だ。岸田は2月17日、約1カ月半ぶりの記者会見で新型コロナ対策について「第6波の出口を見すえて準備を進めていく」と表明した。政府は沖縄など5県のまん延防止等重点措置を同月20日で解除し、3月6日が期限の31都道府県の感染状況が改善するかが焦点だ。

 ここにきて政府の対策は後手に回る場面が目立つ。「主要7カ国で最も厳しい」とうたった水際対策は経済界や与党から「鎖国政策」などと不満が噴出。政府は圧力に抗しきれずに、1日の入国者総数の上限を3月から5000人に緩和すると決めた。

 経団連会長の十倉雅和は「40万人が足止めされている。そのうち15万人は留学生だ。第一歩として評価するが、政府はぜひ加速してほしい」と注文を付ける。人手不足に対して留学生の奪い合いの状況が続く中で、日本に入国できず、韓国に留学先を変える動きも顕著。コロナ禍での〝開国〟は難題だ。

 外交面では、ロシアのウクライナ侵攻や韓国大統領選(3月9日投開票)後の日韓関係など課題は山積している。報道各社の2月の世論調査で内閣支持率はじわりと下がり始めた。

 閣僚経験者は「岸田は何もしていないという見方が少しずつ広がっているのかもしれない。とにかく、この政権は野党に救われている」と指摘する。

 野党の存在感が薄いのは事実。だからこそ、安全運転に徹するだけでは、岸田も参院選の先がなかなか見通せない。首相としての国の舵取りが試される。 (敬称略)

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