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【関西財界セミナー】伝統精神の「三方よし」を新しい資本主義構築にどう生かすか?

財界オンライン / 2022年4月4日 11時30分

昨年に続き、2度目のオンライン開催となった

経営者の強い「危機意識」が浮き彫りになったセミナーだった。節目の第60回目の開催となった「関西財界セミナー」。コロナ禍で2年連続のオンライン開催となったが、熱い議論が続出。参加した経営者は日本が抱える課題について、「待ったなし」の対応が求められているという認識を共有。2025年に控える大阪・関西万博をどう開催するか、危機にどう備えるか、そしてモノが安くなった日本をどう改革していくか─。

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リスクをチャンスに変える戦略の構築を
「コロナ禍が浮き彫りにした課題は感染対策などだけでない。企業が先送りにしてきた諸課題に対し、待ったなしの構造改革が求められている」と話すのは、関西経済同友会代表幹事(日本生命保険副会長)の古市健氏。

 2022年2月8日、9日の2日間、節目の第60回目となる「関西財界セミナー」が開催された。当初はリアルでの開催を予定していたが、新型コロナウイルス、特に感染力の強いオミクロン株の蔓延を受けて、オンラインでの開催に変更された。

 テーマは「関西を起点に反転~ フロンティアに立つ覚悟~」。コロナ禍は日本が抱えてきた構造問題を浮き彫りにしたという声は強い。

 そのため古市氏は「企業が先送りにしてきた諸課題に対し、待ったなしの構造改革が求められている。また今、多くの人々が生きるとは何か、働くとは何か、会社とは何かを一から見つめ直している。新しい未来を描き、リスクをチャンスに変える戦略の構築と覚悟を持った実行が大事」と訴える。

 また、岸田文雄首相が「新しい資本主義」を唱える中、改めて多くの経済人がそれぞれ、資本主義のあり方を見つめ直している。その意味で関西には、戦国時代末期から江戸時代にかけて活躍した「近江商人」の伝統精神、「売り手よし」、「買い手よし」、「世間よし」の「三方よし」という伝統精神がある。

 関西経済連合会会長(住友電気工業会長)の松本正義氏は「新しい資本主義は『三方よし』に通ずる。関西ならではの意見を積極的に発信する必要がある」と力を込める。

 今回の基調講演は、この問題意識に呼応するテーマとなった。講演者は東京大学名誉教授の岩井克人氏で演題は「会社の新しい形を求めて~なぜミルトン・フリードマンは会社についてすべて間違えていたのか~」。

 フリードマン(1916―2006)は、政府の財政政策による経済活動への介入を批判、市場の自由競争で経済の効率化と発展を実現しようとする思想である「新自由主義」の考え方を代表する経済学者。

 岩井氏は「これからの会社のあり方を考える時に、ミルトン・フリードマン的自由放任主義が足かせになっている。そこからの脱却が必要」と話す。

 例えば、バブル崩壊後の日本は「失われた30年」とも言われるが、その間、企業の従業員の給与水準は低迷を続けた一方、株主への配当金は急上昇したと指摘。これは「格差」問題につながった面がある。加えて、株式の個人所有の比率が下がる一方、30%は外国法人が保有。「外資の『収奪』の場になっていることに危機感を覚える」(岩井氏)

 新自由主義は「会社は全て株主のもの」という考え方を孕んでいるが、岩井氏はそれに対して、「会社は『2階建て構造』」と説く。2階に株主、1階にヒト(法人)としての企業がいるという形で、会社は株主だけの所有物ではない」とする。

 その上で岩井氏は「ポスト産業資本主義で求められているのは、株式による資金調達、市場の規律と、人的資産としての従業員が創造性を発揮できる組織の自律性との最適なバランス。株式持ち合いを使わない『日本的経営2.0』」と強調した。

1970年の大阪万博が残した課題とは
 折しも、25年には大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)が開催予定であるなど関西として「持続可能な未来社会」を世界に発信するチャンスが控える。

 その大阪・関西万博について議論をしたのが第1分科会。大阪は1970年に万博を開催した実績があり、議論に参加した経営者は、口々にその思い出、感動を口にした。

 だが同時に「70年万博の成功がなぜ、関西の成長に結びつかなかったのか? 」(りそな銀行副社長・岡橋達哉氏)という疑問も残った。

 当時、万博と、その前に開催された東京五輪を受けて、新幹線や高速道路などの交通インフラが整備され、国内移動の利便性が格段に向上。それを受けて、「大阪と東京の物理的、精神的距離が近くなったと同時に、確立されていた大阪経済圏から、大阪企業も東京シフトの意識が高まった」(岡橋氏)。万博が残したレガシーは日本全体を発展させたが、地域経済の活力は失われる結果となったという指摘。

 一方で京都企業のように、ユニークな企業があることも現実。その意味で、今度の大阪・関西万博はどのようなレガシーを残すか。関西にはヘルスケアやライフサイエンスで産学の強い基盤がある。さらには伝統的に技術、モノづくりに長けた企業が集積。ここから生まれた技術、サービスを日本全体の成長、関西の発展に生かす必要がある。

 そして、それを担う「人」の育成も重要。「万博を契機に大きな未来図を掲げて、持続可能な社会を築けるような多様な人材を育てていきたい」(三菱UFJ銀行会長・堀直樹氏)

 コロナを始め、現在のウクライナ危機など、企業は今、常に「グローバルリスク」に直面している。このリスクについて議論したのが第2分科会。

 議長を務めた伊藤忠商事副会長の鈴木善久氏は「地政学リスクに加え、ウイグルの人権問題、温暖化など環境問題、パンデミックを含む自然災害など、リスクはグローバルに、多岐にわたる。あるエコノミストは『世界はもはや、先のことは「予測不能」としか予測できない』と指摘している」と話し、現在の混沌とした状況を説明する。

 コロナ禍では、多くの企業が混乱を余儀なくされたが、パナソニック専務執行役員の宮部義幸氏は「我々はコロナ禍で多少の混乱はあったが、比較的回復してきている。だが今も、苦しい業界もある」と話す。

 パナソニックはコロナ禍の悪影響を受けたが、空調やホームアプライアンス(家電)、車載電池など、「中長期的な社会変化を捉えた事業」(宮部氏)がカバーして利益面では悪影響を最小限に食い止めた。22年3月期は前期比で増収増益の見通し。

 工場では、一時的に代替生産を迫られたところはあったが、コロナ感染拡大でサプライチェーンの見直しはなかった。これは11年の東日本大震災を受けて「購入先影響調査」を行ったことで調達がスムーズにいったという教訓がある。

 1964年に発生した「新潟地震」の際、松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏は「損害の大小は経営のあり方如何で変わってくる」と述べたという。この精神を今に生かす意味で宮部氏は「平時の『備え』と事象が発生した際の『瞬発力』が大事だというのが教訓」と話した。

 また、コロナ禍では出社が難しくなり、多くの企業が「テレワーク」に取り組んだ。大阪でAI(人工知能)などシステム開発に取り組む企業であるソプラ社長兼CEO(最高経営責任者)の白川基光氏は「コロナでは課題になったこともあったし、いいこともあった」と話す。

 いい面は、危機の中で先を見通して先進的な技術を研究したい企業や技術者が開発に協力してくれたこと。AI開発が場所を選ばないことも大きかった。

 その一方で「9割以上がテレワークとなる中、人を育てられなくなったし、社内の顔が見えなくなった」(白川氏)。

 同社はコロナ前、取引先から「社員の挨拶が素晴らしい」と褒められることが多かったという。同じくらいの技術力ならば、ソプラと取引したいと言われるなど、社員教育が浸透していた。しかし、「最近の若手に指導できなくなってきた。これは我々だけでなく、今後5年先、10年先の日本企業にどんな影響を及ぼすのか」と白川氏は懸念する。

 これは多くの経営者が抱える問題意識だろうし、まさに「グローバルリスク」の一つ。新たな生き方・働き方を企業、個人ともに模索していく必要がある。

天然ガス、水素、そして原子力をどう考える?
 日本政府は2050年に脱炭素、「カーボンニュートラル」を目標に掲げるが、実現に向け、関西には様々な技術の蓄積がある。そのカーボンニュートラルについて議論したのが第3分科会。

 関西には創業時から水素に取り組み続ける岩谷産業、世界初の水素運搬船を開発した川崎重工業など、水素エネルギーに強みを持つ企業が存在する。

 川崎重工で技術開発本部長を務め、現在顧問の牧村実氏は「ガラパゴスにならないよう、国際的な仲間づくり」を意識してきたと話す。つまり、日本は技術で先行しても、後から来た欧米に「ルール」を決められてしまい、その技術を生かしきれないという場面が多かった。

 そこで「ルールを守るのではなく、つくる側に回ることが重要」と牧村氏。環境エネルギーの領域では、日本が主導して「胴元ビジネス」を展開することが大事だと強調する。

 また、大阪ガス副社長の宮川正氏は「省エネに強力に取り組む必要がある。再度世界一を目指すべき」と力説。環境問題から再生可能エネルギーの活用が進むが「エネルギー政策を考える際には経済性、安定供給を考える必要がある」と強調。

 再エネを増加させることが重要だが、天候に左右されるだけに、それを支えるベースが重要になる。天然ガスの活用を進めると同時に、原子力発電をどう位置づけるかが重要になる。

 関西地方で、低公害車を使った「グリーン配送」で知られるエコトラック社長の池田雅信氏は「CO2を減らすのではなくゼロにするとなると水素の活用は不可欠。そして水素製造との親和性を考えても、原発の再稼働を考える必要があるのでは。震災後の日本は慎重になり過ぎて、『羹に懲りて膾を吹く』になってしまっている」と指摘。

 諸外国でも原子力を「グリーンエネルギー」と位置づけるところが出てきているだけに、難しい議論ではあるものの、日本でも原子力にどう向き合うかを真剣に考えていく必要がある。

「より安く」からいかに脱却するか?
 日本は生産性の低さが課題とされ、それが低成長が続く要因となっている。前述の岩井氏の指摘のように従業員の給与は上がらず、物価も低迷、デフレ状態が続いてきた。

 その中で日本企業はコストカットで「良いものをより安く」を追求してきたが、それが「安いニッポン」につながったという構造問題がある。この脱却について議論したのが第6分科会。

 日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏は、これまでの日本企業の姿を「コストカットが正義であるという〝宗教〟」と表現。「平成は勃興する中国との価格競争だった。人件費抑制、円安、薄利多売で外需を保持したが、内需不振で日本は低成長に陥った。令和の繁栄は、円高と内需を拡大した先にある。そこに対応した企業が生き残っていく」(藻谷氏)

 ただ、企業としては、これまで進めてきた「より安く」から脱却することは容易ではない。その課題に向けて問題提起したのが法人向けクラウドサービス「cyzen」を開発・運営するレッドフォックス社長の別所宏恭氏。

「高く売る会社に変わるには、全社員に『高く売ることが正義である』と納得させることが重要」と別所氏。その意味で意識変革に向けた経営者の働きかけが重要だということ。

 また、三菱UFJ銀行前会長で特別顧問の園潔氏は「『より安く』という時に『品格のある安さ』が重要」と指摘する。

 さらに、ドイツ日本研究所所長のフランツ・ヴァルデンベルガー氏は「日本は90年代半ばから小さい国になった」として、この背景にある労働慣行の問題点を指摘。「日本の大企業ではインハウスキャリアがDNAとなっており、これを変えるのは容易ではない。市場ベースのシステムに移行するには、一括採用の習慣を放棄し、具体的な仕事のために雇う『ジョブ型採用』を検討する必要がある」とした。

 これに対し、住友理工元会長(現特別顧問)の西村義明氏は「少し前の日本の分析ではないか」と反論。多くの企業経営者が海外経験などを経てトップに就いているなど改革が進んでいるとして「ジョブ型も必要だと思うが、安易に導入するのではなく、メンバーシップ型、日本の特質をベースにして、自社の歴史などを踏まえて人材育成をしながら永続を考える体制も必要なのではないか」と話した。

 これ以外にも、多様性をテーマに議論した第4分科会、企業と従業員のサステナブル・エンゲージメントをテーマに議論した第5分科会などでもオンライン上でありながら、熱い論議が繰り広げられた。

 コロナ禍、そしてウクライナ危機で、日本人は改めて生き方・働き方を見つめ直すべき時に来ている。それだけに、この論議を広く日本の政治、経済に生かすための具体的行動が今後、さらに求められる。

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