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【政界】真価問われる「岸田リアリズム外交」 日米同盟を基軸に日本ならではの生き方も

財界オンライン / 2022年3月26日 11時30分

イラスト・山田紳

※2022年3月23日時点

「ロシアの西の隣国はウクライナだが、東の隣国は日本。どう対応していくかだ」という声が自民党内で強まっている。ロシアが国際社会の制止を振り切ってウクライナ侵略という暴挙に出た。戦争は収まる気配が見えない。首相の岸田文雄は「新時代のリアリズム外交」を掲げるが、北朝鮮や中国との問題を抱える当事国としての真価も問われる。米国との核シェアリングの議論も出る中、岸田のリアリズム外交の中身とは?

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前例なき装備移転

「ウクライナへの強い連帯を示すために防弾チョッキ、ヘルメット、防寒服、非常用糧食などを提供する方向で調整している。(ウクライナの)ゼレンスキー大統領に伝え、謝意が示された」

 首相の岸田文雄は3月4日夜、首相官邸で報道陣にそう語った。政府はこの日、国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合を開き、ロシアの侵略を受けるウクライナを支援するため、自衛隊の防衛装備品を供与する方針を決めた。

 岸田はその後、ゼレンスキーと電話で会談し、ロシアによる原発攻撃を「前代未聞の暴挙だ。決して許されない」と非難し、防衛装備品の供与方針を伝えた。会談後には「我が国は、主権と領土、祖国と家族を守ろうと懸命に行動するウクライナの国民と共にある。ぜひ支援を続けていきたい」と強調した。

 政府は既にウクライナ支援として、1億ドル(約115億円)規模の借款による経済支援に加え、1億ドルの緊急人道支援を行うほか、避難民の受け入れなどを表明していた。そして、武力攻撃を受ける国に防衛装備品を提供するという極めて異例の対応にも踏み切った。

 防衛相の岸信夫は、供与する狙いを「ウクライナの国民を最大限支援すると共に、国際社会と連携、結束し、国際秩序を保守するという我が国の方針を明確に示す」と語った。「防衛装備移転三原則」が供与を禁じている「紛争当事国」にウクライナは該当しないと説明した。

 政府はウクライナ側からの要請を受け、供与できる防衛装備品を検討してきた。自衛隊法は自衛隊の任務に支障がない範囲で防衛装備品を他国に渡すことを認めている(116条)。防弾チョッキ、ヘルメットなどは殺傷能力がなく、「ウクライナ人の命を守るもので、国際的な紛争の拡大を助長するものではない」(岸)と判断した。

 一方、防衛装備移転三原則では国連の安全保障理事会が決議した「紛争当事国」への供与を禁じている。ただ、ウクライナについて、国連安保理は武力攻撃が発生し、国際の平和および安全の維持に必要な措置をとるべき対象国にしていない。安保理の議長国・ロシアが侵略、侵攻ではないとしているからだ。今回の供与はそうした「隙」を突いたものでもあった。

 政府の判断に対し、共産党政策委員長の田村智子は4日の記者会見で「人道支援としてできることは全てやるべきだ。反対と表明するようなことは考えていない」と賛意を示した。

 防衛装備品の供与は武器輸出にあたると反対してきた共産党が方針を転換したとされたが、田村は5日に再び記者会見を行い「発言が不正確だった。発言を訂正する」と撤回し、共産党として反対すると説明した。

 共産党内の足並みの乱れも手伝ってか、前例がなく極めて異例の対応にも反対論は広がらず、政府は8日、現地に向け防弾チョッキなどを空輸した。



リアリズム外交

 岸田は「新時代リアリズム外交」を掲げている。昨年12月に都内のホテルで行った講演で初めて打ち出し、今年1月の施政方針演説でも改めて表明した。

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 その底流にあるのは岸田が率いる自民党の政策集団「宏池会」が輩出した歴代首相たちだ。外相時代に日中国交正常化を実現させた元首相の大平正芳や、国連平和維持活動(PKO)協力法を成立させた元首相の宮沢喜一らは「リアリズム外交」を掲げていた。その手法を引き継ぎつつ複雑化する21世紀の国際情勢に柔軟に対応していくことを目指す。

 具体像はなかなか見えてこないが、「自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を守る」ことを柱に位置付けている。普遍的な価値を共有する先進7カ国(G7)と連携を強めることで強権、専制主義の中国、ロシアと対峙する姿勢といえる。

 ただ、岸田は昨年12月の講演で「言うべきことはしっかり言うのは当然だが、一方で隣国の中国、ロシアとは安定的な関係もしっかり維持していかなければならない。少なくとも対話は維持していかなければいけない」とも語っていた。

 複雑な舵取りが求められるだけに、当初は〝ちぐはぐ〟な外交姿勢が目立った。

 今年2月15日、ロシアのウクライナ侵略の懸念が強まり、欧米諸国がロシアへの経済制裁を議論している最中に、外相の林芳正はロシア経済発展相のレシェトニコフと「貿易経済政府間委員会」をテレビ会議形式で開催した。

 林「のちほど申し上げるが、現下のウクライナ情勢については重大な懸念をもって注視している。貿易経済分野での協力が日ロ関係全体を発展させることに資するものになるよう有意義な意見交換を行いたい」

 レシェトニコフ「新型コロナウイルス感染拡大の影響による制限、貿易額の削減にもかかわらず、2021年にロ日経済関係が上昇傾向を見せたことを高く評価する」

 そうしたやり取りで始まった委員会は、さすがに不評を買った。外務省が「外相は主権・領土一体性の原則の下、緊張を緩和し、外交的解決を追求するよう求めた」「日本の立場を直接説明するために開催した」などと説明しても、「経済制裁を検討している相手となぜ経済協力なのか」「G7分断を狙うロシアに利用される」などの批判がくすぶり続けた。

 これまでも対話の窓口を維持することが大事だとする外務省の姿勢は「岸田外交」のちぐはぐさを際立たせた。中国の人権問題をめぐる北京冬季五輪の事実上の「外交ボイコット」は欧米諸国よりも大幅に遅れて表明した。韓国が反対する「佐渡島の金山」(新潟県)を世界文化遺産の候補として推薦することもギリギリになって決断した。



独自対話と決別

 そうした中で、岸田はロシアのウクライナ侵略に対しては早くから腹をくくった。「侵略したら、これまで通りにはいかなくなる」と吹っ切れた様子だったという。

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 政府は、ロシアが14年にウクライナ南部クリミア半島を強制的に併合した際、欧米諸国よりも遅れて対ロシア制裁を決めた。制裁内容もクリミア半島で生産された物品の輸入を制限するなど限定的だった。

 当時は、ロシアとの共同経済活動をテコに北方領土交渉を前進させることを目指していた。ロシアとの対話継続で中国を牽制することも狙ったためでもあった。

 日米同盟を基軸に日本独自の外交スタンスをとってきたこれまでの路線とは異なり、岸田はG7各国と足並みを揃えることを最も重視している。

 ロシアのウクライナ侵略が続けば、北方領土問題を動かすことは絶望的になる。G7で結束してロシア包囲網を築かなければ、中国が東シナ海で力による現状変更を試みることにつながりかねないという懸念もあった。

 岸田は2月27日の記者会見で「暴挙には高い代償が伴うことを示す」と訴え、大統領のプーチンを含むロシア政府関係者らの資産を凍結することを発表した。さらに、欧米によるSWIFT(国際銀行間通信協会)からのロシアの特定銀行排除にも加わる方針を示した。「ロシアとの関係をこれまで通りにしていくことは、もはやできない」と語った。



真価問われる外交

「ロシアの西の隣国はウクライナだが、東の隣国は日本だ。こういう現実を我々は直視しなければいけない」

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 自民党参院幹事長の世耕弘成は3月6日の報道番組で、政府の厳しい対ロシア制裁などに関し、そう指摘した。まさに東アジアの現実を直視した「新時代リアリズム外交」を展開すべきときだというのだ。

 岸田はウクライナ侵略が始まると、積極的に首脳外交を展開した。

 1日夜はフランス大統領のマクロンと電話会談し、ロシアの力による一方的な現状変更に強力な制裁措置をとっていくことを確認した。ラオス首相のパンカムとも電話会談を行い、アジアを含む国際社会の根幹を揺るがすものだと厳しく非難した。

 2日はポーランド首相のモラヴィエツキと電話会談。ポーランドなどに避難したウクライナ人を日本に受け入れる方針を伝達すると共に、ウクライナ在留邦人の円滑なポーランド入国などについて協力を要請した。

 この日はドイツ大統領のシュタインマイヤーとも電話で会談し、今年のG7議長国のドイツと来年の議長国・日本の役割が一層重要になっていることを踏まえ、引き続き緊密に連携していくことで一致した。

 そして翌3日には、アメリカ大統領のバイデン、オーストラリア首相のモリソン、インド首相のモディと日米豪印(クアッド)首脳テレビ会議を実施した。力による一方的な現状変更をインド太平洋地域では許さず、地域の安定と平和を促進させていくことを確認した。

 自民党政調会長の高市早苗は、警鐘を鳴らしてきた。「(ウクライナ侵略は)遠い欧州で起きていることではない。ロシアは日本の隣国なので、自分たちの問題として考えるべきだ。ロシアと中国が接近している中で、日本周辺で起き得る『最悪の事態』を想定して備えを行うため、議論をしっかりしていく」

 いま日本が当事者意識を持って対応しなければ、台湾や尖閣諸島で「有事」が起きたときに国際社会の支援は得られなくなる。「新時代のリアリズム外交」の真贋が問われる局面が続く。(敬称略)

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