【採用する側、される側のミスマッチをどう解消?】人材ベンチャー・ROXX、MyReferの「人材市場」改革
財界オンライン / 2022年4月11日 7時0分
働き方の変化に合わせてHR(Human Resource、人事)テックベンチャーが続々登場している。人材の流動化が進む中、ミスマッチや採用の失敗を回避するサービスなど、採用のあり方も欧米流の手法が浸透しつつある。ジョブ型時代の人材サービスは採用、人事部のあり方をどう変えていくのか─。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako
どの会社にいたかより
どう仕事に向き合うか
「自分自身が一番、リファレンスの必要性を感じていた。採用失敗したなと思って、後々レポートを見たら、苦手なことを最初にやらせちゃったなと。優秀な方でも扱いを間違えると、お互い不幸になるケースを経験してきたので、面接力を上げるというより、あらゆる角度から人物を見えるようにしようと」
こう語るのは、リファレンスチェック最大手のROXX(ロックス)社長の中嶋汰朗氏。
最近、利用が増えているリファレンスチェックとは、採用予定者の勤務態度や人物像を現職もしくは前職の上司や同僚などに問い合わせをすること。
ROXXが提供する『back check』は従来、電話で話を聞いて作成していたレポートをWebで完結。レポート作成期間を短縮、人手を減らし、情報量を増やすことで、IT大手から金融機関、コンサルティング会社、メーカーなどが導入を進めている。
アンケートに答えてもらう相手は採用予定者が選ぶのだが「信頼関係がない方が書いた内容は(中身が薄いので)すぐわかる」という。また自分の選んだ人に悪く書かれることもあれば、同じ人物でも上司と部下で評価が変わる人もいるなど「〝期待値の調整〟に役立つ」という。
面接の場では前向きなアピールが多く、苦手なことは言いづらいため、「お互い期待し過ぎたり、何でもできる人を求めがちになってしまうので、フェアバリューに近づけていくことはすごく大事なことだと思います。優秀か優秀でないかではなく、その業務に対して合うか合わないかを〝中にいる人〟に聞く。そういう視点で見ていかないと正当な評価はできない」と中嶋氏は語る。
「何をやってきたかより、仕事にどう向き合うか、周りの人とどう関係性を作れるかのほうが大事。仕事をする上で重要なことは、どの会社にいて、どういうスキルがありますだけではない。ただ、面接や経歴書からだけでは、そういう〝人となり〟まではわからない」と中嶋氏自身も採用の難しさを実感。
そうした中、「一緒に働いていた人から良い評判があることが、どんどん武器になって、それが積みあがって、人の信頼、実績につながっていく」ことがリファレンスの価値とみる。
日本でも人材の流動化が高まる中、欧米で一般的なリファレンスチェックも普及しつつある。
「新卒でどこの会社に入るのかではなく、その後の実績が積み重なって、その人の価値になっていく。1人1人への仕事への向き合い方が次の会社にも伝わることは、良い面、悪い面、両方あると思いますが、そうしたことも含めて、転職や仕事に対する価値観を変えていきたい」と中嶋氏は語る。
「欠員募集」から
「タレント採用」の流れ
「DX系のポジションは複数社から内定をもらい、年収も1000万円を超えるので、人材会社を通じると人材の取り合いになって獲得できない状況が起きている。リファラルなら転職を考えてない人にアプローチして自社だけを受けてもらえるので、通常のチャネルでは採用できない潜在層にアプローチできると興味を持っていただいている」(MyRefer・鈴木貴史社長CEO)
社員が人材を紹介する〝リファラル採用〟も増えている。
業界最大手の『MyRefer』は働き方改革を進める富士通や日立など大手も利用するサービスだ。アナログなやり方だと人事や社員の負担が増えるため、その工程を半自動化し、社員が知人に〝ワンクリック〟で紹介の連絡を送ることができる。
鈴木氏がリファラル採用に注目したのは、企業も応募者もお互いをよく見せようとする従来の採用手法では〝情報の非対称性〟が生じてしまうため「それ(情報の非対称性)を是正できるのが、人と人とのつながりのリファラル採用」だと考えたからだ。
本質的な人材マッチングサービスとして普及が進むリファラル採用だが、MyReferは次の新たなサービス『MyTalent』も開発。
「最終選考までいったけれどお見送りになった方や辞退された方、退職者、リファラルの候補者など、あらゆるタレントデータを登録して、採用マーケティングをしていけるサービス」だ。
具体的には「メルマガを配信して、彼らの興味関心度合いを掘り起こしていけるサービス。リファラルは声をかけても『すぐ行きます』とはならないので、そういったデータを『MyTalent』で管理して、戦略的な採用に結び付けていく」という。
このサービスを開発したのは、日本の採用を「欠員募集のリクルーティング」型から「戦略的な潜在層のタレントアクイジション(優秀な人材の獲得)」型にする必要性を感じているからだ。
ジョブ型雇用はまさにタレントアクイジション型の採用。企業も成長を実現するには旧来の採用、人材育成に加えて、新たな手法が必要になっている。
だが、働き方や雇用のあり方が変化する一方、人事部が変わり切れていない現実もある。
そのため、MyRererは「HRトランスフォーメーションと言われるHR戦略を丸ごとコンサルティングする事業」も開始。ミッション、ビジョン、バリューの策定から採用戦略の立案、採用ブランディングなども支援する。
人事の仕事は管理することから、いかに優秀な人材を発掘し、育成するかという攻めの時代に入っている。
だが、ジョブ型に対応した新サービスが登場する中、転職できる人、できない人の二極化も起きている。
その二極化をどう解消し、再教育し、本来あるべき人材の流動化を図っていくかという問題は依然、大きな課題として残る。
▶新会社『レゾナック』発足に向け、人材育成に注力する【昭和電工】
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