【新社長登場!】あいおいニッセイ同和・新納啓介社長に直撃!「新たな保険」をどう開拓するか?
財界オンライン / 2022年4月14日 18時0分
「我々は事業を通じて社会課題・地域課題を解決していく」─こう話すのは、あいおいニッセイ同和損害保険社長の新納(にいろ)啓介氏。自然災害、環境問題への対応が待ったなしの今、同社は「地域密着」を掲げて、それぞれの地域の課題解決に向けた取り組みを強めている。共にMS&ADグループを構成する三井住友海上の海外、法人という強みとは違う武器を活用し、新納氏が目指す会社の姿とは。
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「特色ある会社」としてさらなる進化を目指す
─ 世界情勢が混沌とする厳しい環境下での社長就任となりますが、抱負から聞かせて下さい。
新納 環境変化の激しい中での就任となりました。内定会見の際も申し上げたのですが、本当に身の引き締まる思いで、激動の中、経営のカジ取りをしっかり進めていかなければいけないと決意を新たにしています。
前社長の金杉(恭三・会長)の時に、我々も一緒になって当社を「特色ある会社」として成長軌道に乗せてきましたが、これを引き継いで、さらに進化させていかなければなりません。
─ ロシアのウクライナ侵攻、コロナ禍、米国の利上げなど様々な情勢がありますが、事業環境をどう見通していますか。
新納 今おっしゃっていただいた混沌とした状況は認識をしています。その上で、損害保険業界に密接にかかわる様々な変化があります。
コロナ禍はその中心ですし、気候変動によって自然災害が頻発するとともに規模も大きくなっています。しかも日本だけでなく、グローバルに起きている現象です。
その中で我々はお客様の生活、企業活動を支えるインフラ的な使命を負っていますから、そこから引くわけにはいきません。先日も東北を中心に大きな地震がありましたが、この日本において我々は継続的、安定的、持続的に商品・サービスを提供し、バックアップしていくことが重要ですし、その役割はますます重くなっていくと思います。
─ 気候変動とも関係しますが、環境問題、脱炭素は近年大きな課題となっています。
新納 そうですね。カーボンニュートラル、CO2削減は社会、企業活動の大きな軸になっています。
銀行融資や投資についても、SDGs(持続可能な開発目標)、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みを評価する方向になっています。また、個人のお客様の中にも「Z世代」を中心に自らの行動が環境問題の解決につながるような選択をしたいという意識が高まっており、例えば環境問題に取り組む企業から商品を買う「エシカル消費」が広がってきています。
そこに我々が保険会社としていかに保険、サービスを進化させ、そのニーズにお応えできるかが問われます。この4月からの中期経営計画では、その進化、チャレンジを見据えています。
中期経営計画で目指す「CSV×DX」
─ この4月から始まった中期経営計画では、どのような方向を目指していきますか。
新納 会社を進化させ、ステージを上げることにチャレンジしていきます。その戦略の柱は「CSV×DX」(シーエスブイ・バイ・ディーエックス)です。この方向で会社を束ねていくべく、私はリーダーシップを発揮していこうと思っています。
この「CSV×DX」は、今の環境変化を捉え、社員、代理店が一丸となって語ることができる、一つの座標軸になるだろうと考えているんです。
CSVは「社会的共通価値」、社会と企業の共通価値を創造していくことですが、それをDX、つまり最先端のデジタル技術、データと掛け合わせることでさらに進化させていく。しかも、複数の取り組みによって、その価値の連鎖を生んでいくことを考えています。
─ 事業において、その具体例は?
新納 代表例としては当社が取り組んでいる「テレマティクス自動車保険」があります。この商品には「事故のあとの保険から事故を起こさない保険へ」ということでチャレンジをしてきましたが、データが集まり、成果が出ていることが確認できています。
安全運転を促すアドバイスも行う商品ですから、この自動車保険にご加入されている方の事故頻度は減少していますし、事故が起きた後、お支払いをするまでの「事故の解決」日数は明らかに短縮されており、お客様の立ち直りを支援する効果が表れています。
事前・事後のサービスをセットにした自動車保険に進化させており、これは「CSV×DX」の代表例ですが、私は今回の中計で、さらにその先にチャレンジしたいと思っています。
─ さらに商品を進化させていく?
新納 実は、この商品は社会課題・地域課題解決型の保険になっています。安全運転で事故が減ると部品交換が減り、車両を廃車する機会も減りますから環境にいい。さらに保険の中で「ドライブスコア」も付けていますが、結果的に低燃費、エコドライブになっているんです。このデータも取得しています。
企業、個人のお客様ともに、事業活動や運転をする中で、環境問題に貢献していることが実感できる商品になっています。
今までは、社会課題・地域課題解決というところまでは語ることができていなかったのですが「CSV×DX」を中計の中心に据えることで、全員でそれを語ることができる。さらに言えば、当社は何のために、この事業をやっているか、「パーパス」(存在意義)にも直結します。
我々は事業を通じて社会課題・地域課題を解決していくのだということを、社員、代理店さんが胸を張って語ることができるようにしていきたいと考えています。
「テレマティクス保険」を世界で展開していく
─ テレマティクス自動車保険は今後、データを活用した新たなビジネスの創出の可能性も見据えていますか。
新納 はい。先ほど申し上げた通りデータが集まっていますから、このデータの利活用で新たなものを生み出し、価値の連鎖につなげていきます。
さらにはモビリティも変わっていきます。電動化、自動運転などは全国一律ではありませんが、地域地域で取り組みが進んでいく。この時に、我々が培ってきたテレマティクスのノウハウ、データを生かすことができます。これによってテレマティクス自動車保険も、さらに進化していくと思います。
また、国内だけでなく、我々は今海外でも8カ国でテレマティクス自動車保険を販売しており、地域に合った形での取り組みをしています。
例えばタイで初めての運転挙動型の保険ということで売れていますし、日本以上に電動化が進む中国ではEV(電気自動車)に対応した商品として展開、さらに環境問題に厳しい欧州ではハイブリッド型専用の自動車保険の販売を始めています。
全世界でテレマティクス自動車保険を展開することで、今後日本が向かう先に先回りができていることは、当社の強みだと考えており、こうした取り組みで保険を進化させていきます。
─ 内定会見ではデータ利活用で手数料ビジネスにつながる可能性に言及していましたが、新たなビジネスが生まれる可能性もある?
新納 ええ。まだマネタイズできていませんが、現時点でもデータ利活用で取り組んでいることがあります。
例えば、現時点で375の地方自治体と連携協定を結んでいますが、その一部と連携して、我々が持つテレマティクスのデータを元に、地域の安全マップをつくっているんです。「この場所は急ブレーキが多い」、「危険な場所だ」という部分を明らかにして、安心・安全な街づくりに役立てていただくという取り組みです。
全く違う観点では、この保険を契約しているお客様に「運転技能向上トレーニング・アプリ」を提供しています。これは脳科学研究の権威である東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授と連携して進化させています。このアプリはいわゆる「脳トレ」ですが、取り組むことで安全運転スコアが向上することがデータでわかっています。
ご高齢の方が安全・安心に乗っていただく時間、免許返納の時期が延びますから、地方でマイカーを失って交通弱者とならないような、地域課題解決につながる取り組みだと考えています。
さらに発展させて、認知症予防につなげるものができるのではないかということで、東京医科歯科大学さんと提携して、我々のデータと医学を掛け合わせてできることを今、検討しています。こうした中から、新たなビジネスが生まれていくのではないかと期待しています。
─ 他業種の企業との連携も増えてきそうですね。
新納 ええ。スタートアップを含め、異業種の企業と連携できればいいと思っています。英国ではオックスフォード大学のAI(人工知能)の権威がスピンアウトして設立したベンチャーに出資をし、AIとデータの連携による現地での保険引き受けに役立てています。今後さらに広がりが出る可能性がありますから、海外でもチャレンジをしていきたい。
サイバー攻撃など新たなリスクへの対応
─ 時代が変わると新たなリスクが出てくるわけですが、こうしたリスクに対応した保険の開発に対する考え方を聞かせて下さい。
新納 長期的に見れば、人口減少に伴って自動車の保有台数が減り、自動車保険がシュリンクしていくことは避けられない事象だと思います。
ただ、それが始まるまでは自動車保険が主戦場、主力商品であることは間違いありませんから、商品に磨きをかけ、次のモビリティに向けて保険を進化させていきます。
一方で、自動車保険に代わる、新たなリスクの領域に果敢にチャレンジしていかないと、我々の成長はありません。
これまで損害保険は過去の統計データからリスク分析をし、このくらいの保険料なら、このくらいのリスクを引き受けられるという数理的な世界で仕事をしていましたから、過去のデータがない、少ないものについては扱うのが難しかったんです。
この2年間、新型コロナによって損害保険業界は試されたと思います。一切データがない状態で、国難の中で何かできることはないかということで、コロナの保障を拡大するなどしてきました。これは一つのチャレンジだったと思いますし、社会的インフラとして、今後も続けていかなければならないと思っています。
─ コロナ禍ではサイバーリスクも顕在化しましたが、サイバーリスク保険への取り組みは?
新納 サイバー領域は、ある程度データはありますが、溜まり切っている状態ではありませんし、ロシアのウクライナ侵攻も影響して、さらにサイバー攻撃が増えています。世の中の流れも、まだわかりませんから、これもチャレンジングな商品になります。
まだ、企業のサイバーリスク保険への加入率は低いのが現状ですが、備えとしてご提案を強化している最中です。今後も新たなリスクに対して、アンテナを高く張っていきます。これも異業種と連携することで、今まで気づいていなかったリスクにもリーチできるのではないかと考えています。
─ 共にMS&ADインシュアランスグループホールディングスを構成する三井住友海上火災保険との関係は、今後合併も含めどう考えていきますか。
新納 MS&ADグループとして、中核損保2社、ダイレクト損保、タイプの違う生保2社という5社を持つことは非常にユニークで、多様なマーケットに我々の商品、サービスを提供できるという意味で、いいフォーメーションだと思っています。
MSは三井・住友グループとの関係、海外に拠点を持つ強みがありますし、ADはリテールを中心に、地域密着型で特色を出している。今後も「機能別再編」で共通化やコスト削減は進めていきます。合併の選択肢は持っておく必要はありますが、両社が特徴を持って成長できている間はデメリットの方が大きいですから、まだテーブルに載せるタイミングではないと思っています。
─ 社内に対しては、どのようなメッセージを発信していますか。
新納 「CSV×DX」のコンセプトを私の言葉で伝えていくとともに、スローガンとして「やろうぜ精神」を掲げています。この「やろうぜ精神」で共に行こうということを社員、代理店の皆さんに伝えていきます。チャレンジする時、チャレンジに迷いが生じた時に、この「やろうぜ」を思い出してもらって、背中を押すことができればと考えています。
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