BNPパリバ証券チーフエコノミストが直言する「円安政策の落とし穴」とは?
財界オンライン / 2022年4月23日 11時30分
金融緩和効果の本質は、将来の需要の前倒しである。新たに付加価値が生み出されるわけではない。資本コストの引き下げで、家計や企業が将来予定していた支出を前倒しさせるだけだ。金融緩和を長期化すると、効果が小さくなるのは、前倒し可能な需要が枯渇するためである。
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ゼロ金利政策が導入された1999年当初から、日本銀行が意識していたのは、グローバル景気の回復を背景に、他国が金利を引き上げた際、日本は超低金利を据え置くことで円安を促すことだった。日本では、もともと実質金利の低下による景気刺激効果は小さいと分析されてきた。金融緩和効果が発揮されるとすれば、長期金利の低下による内需刺激効果より、むしろ円安促進を通じた効果だと認識されてきたのである。
実は、この円安効果も需要の前借りだ。いずれ海外経済の拡大が止まり、景気減速が始まれば、海外金利は低下を始め、円安効果は消失し、逆に円高が訪れる。円安も将来の円高と引き換えに前倒ししただけで、金融政策による将来需要の前倒しと、その本質は変わらない。
自国の金融政策は、日銀が自らの意思でコントロール可能だ。しかし、為替レートは海外の金融政策や市場金利の変化で変動するため、前借りした海外需要は突如、自らの意志に拘わらず、返済を迫られる。ならば、景気循環を通じてみれば、ネットの効果はゼロとなるのだろうか。いやネットではマイナスとなる可能性がある。
なぜなら、マクロ経済の振幅を大きくするという問題があるからだ。政策意図は、グローバル経済の回復局面で、海外金利が上がり始めても、自国金利の上昇を抑え込み、円安を促すことだった。輸出が拡大する中、円安進展が加われば、確かに大きな効果が得られる。景気が回復し始めたばかりのタイミングで、円高が進展しては、せっかくの輸出主導の回復に水を差す。
しかし、これまでの景気拡大局面では、十分インフレが上昇しなかったため、日本の景気回復局面がピークに達しても、ゼロ金利政策はそのまま継続されてきた。一方、米国では景気拡大局面において利上げが行われ、景気減速が訪れると直ちに利下げに転じ、それがドルの減価をもたらす。その時、日本はゼロ金利のままで、利下げ余地はなく、円高圧力を吸収できない。グローバル経済の減速局面で円高が進展し、日本経済へのダメージが増幅される。
本来、マクロ安定化政策は、マクロ経済や物価の変動を平準化するために行うものだ。日本銀行は、グローバル不況に円高が訪れることを強く警戒する。しかし、グローバル好況期に、金融緩和継続で円安傾向を助長するから、グローバル不況期に円高傾向を招いているのではないか。
社会科学の基本である「平均への回帰」という視点を金融政策運営にも取り込むべきではないか。
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