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「融資だけの銀行にはならない!」 横浜銀行頭取・片岡達也の「ソリューション戦略」とは?

財界オンライン / 2022年4月27日 7時0分

片岡達也・横浜銀行頭取(コンコルディア・フィナンシャルグループ次期社長)

今、横浜銀行の「ソリューションカンパニーへの転換」が注目されている。世界的に金利上昇が進み、日本も影響を受ける。各銀行では外債で含み損も出ている。転換期をどう生き抜くかという時に、横浜銀行頭取の片岡達也氏は「融資だけの銀行にはならない」としてソリューション戦略を打ち出した。また、地銀再編から距離を置き、千葉銀行などとの緩やかな連携に活路を見出す。片岡氏が目指すこれからの銀行の姿とは─。

【あわせて読みたい】横浜銀行・大矢恭好頭取が語る「メガにも対抗できる地銀づくり」とは?

持ち株会社の役割をどう考えるか?
「グループの行員の思い、ホームマーケットである神奈川県のお客様が横浜銀行に対してどのような思いを持たれているのか、生の声を聞きながら、中期経営計画の遂行、それ以外の施策に取り組んでいきたい」と話すのは、横浜銀行頭取の片岡達也氏。片岡氏は2022年6月に持ち株会社・コンコルディア・フィナンシャルグループ社長にも就任する予定。

 片岡氏が、前任の頭取である大矢恭好(やすよし)氏(現・コンコルディアFG社長、6月に退任予定)から頭取及び社長への就任を告げられたのは22年1月のこと。

「頭取、社長就任の話は突然だなとも感じたが、大矢とはこの10年一緒に仕事をしてきて、短期・長期の方向感についての考え方に違いはない。まずは私も策定に携わった中期経営計画の初年度目標を確実に達成していきたい」(片岡氏)

 6月からは持ち株会社社長も兼務するが、その役割の違いをどう考えているのか。「足元では持ち株会社ニアリーイコール横浜銀行になっているが、東日本銀行の現状を考えた時には仕方がない面もある」(片岡氏)

 18年7月、グループの東日本銀行は金融庁から業務改善命令を受けた。営業成績を上げるための不適切融資と、その審査体制が問題視された形。

 片岡氏はこれまで企画部門の他、新規業務に取り組んできた。その業務の中で東日本銀行との経営統合作業にも携わり、その経験を生かして、同行で2年4カ月、取締役を務め、融合と立て直しに取り組んできた。

「22年度には東日本銀行が単独で、一定程度の業績を上げることができる体質になると思うが、それを持続的に確保できるようになれば、横浜銀行と東日本銀行という2つのビークルを持つ持ち株会社としての機能を見直していく必要がある」

 その時には、グループに新たな機能を持たせるための買収や提携、海外事業の強化といった戦略は持ち株会社の役割。買収や提携というと「再編」が想起されるが、片岡氏は「私は再編論者ではない」としながら「コンコルディアFGの企業価値向上につながり、地域のステークホルダーのためになる機会があれば捉えていきたい」と話す。

資本を伴わない連携でどのような成果?
 その意味で、片岡氏は地銀同士の再編ではなく、グループの機能強化に向けた買収や提携の方を優先しているようだ。例えばコンコルディアFGは19年にM&A(企業の合併・買収)に強みを持つブティック型の証券会社・ストームハーバー証券に出資している。このように規模は小さくとも、横浜銀行・コンコルディアFGにない「強み」を持つ企業に注目していく。

「我々がこれから取り組もうとしている分野で、我々ができないことを他社の力を借りて行う時に業務提携、資本提携、買収かを選択していく。国内だけでなく海外も含めて検討していきたい」と片岡氏。

 他の地銀との連携では、資本を伴わない協業を進めている。地銀大手である千葉銀行とは19年に業務提携。法人向け融資から始まり、個人向けの投資信託の相互販売も手掛ける。

 また、21年には東京きらぼしフィナンシャルグループのきらぼし銀行と提携。お互いに東京では商圏が重なることもあるライバルだが、企業の買収資金などを支援するストラクチャード・ファイナンス(仕組み金融)や医療機関向けファイナンスなどで連携している。

「資本関係を伴わなくてもトップライン(売上高・営業収益)で効果が出せることがわかった。経営統合となると、救済目的であったり、よほどのコストシナジーがないと難しいのではないかというのが私の考え」(片岡氏)

 横浜銀行と東日本銀行が経営統合し、コンコルディアFGが誕生したのが16年のこと。地銀再編の先駆けとも言えるが、片岡氏は「効果が出るまでには5~10年かかるというのが実感」と話す。前述の通り、統合作業に携わり、東日本銀行取締役を務めてきた経験を踏まえての片岡氏の実感だ。

 企業風土、文化が違ったことに加え、当時両行のトップを務めていた旧大蔵省OB同士が「対等の精神」で統合に合意。それが故にお互いに不可侵の状態になってしまい、前述のように東日本銀行は業務改善命令、赤字転落という事態に陥り、横浜銀行が関わって再生に乗り出すことになった。

「東日本銀行が横浜銀行になる必要はないが、グループとして1つの方向に向かっていく必要がある。今も一生懸命頑張ってもらっているが、皆が当事者意識を持って、自分達の銀行を変えようとしてくれるのには時間がかかる。今、8合目あたりまで来ている」

 東日本銀行は黒字化、今回の中計期間中の利益貢献というところまでは見えているという。ただ、確かに16年の経営統合から6年かかっており、片岡氏の実感に近い。

内外経済に不透明感、外債では含み損も
 今、日本の金融業界は難しい状況に置かれている。米国のFRB(連邦準備制度理事会)は利上げ、金融引き締めに動いているのに対し、日本銀行は金融緩和姿勢を続け、長期金利の抑え込みに躍起になるなど、不安定な情勢。ただ、いずれにせよ長きにわたるゼロ金利、マイナス金利から、上昇局面に入りつつあるということ。

 その中で横浜銀行も、これまで行ってきた外国債券投資で含み損を抱える状況になっている。「確かに外債は気をつけなければいけない。前期にも一定程度の含み損を計上しているが、各金融機関が悩んでいるところだと思う。状況を見ながら、必要に応じて損出しをしていく」

 ただ、今後金利の先高感を前提とすると、「外債は別にして、貸出のうち4分の3を占める変動金利の部分にプラス効果として効いてくる」と片岡氏。

 景気の変動はリスクだ。特に足元では継続するコロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻といった不透明感が影を落とす。

 まず、コロナに対応して、これまで政府金融機関だけでなく民間金融機関も苦しむ顧客に対して「ゼロゼロ融資」(実質無利子・無担保融資)など資金繰り支援を行ってきた。横浜銀行はそれに加えて、自行の「プロパー融資」も実行。

 その返済はこの上期から徐々に始まるが「飲食業、宿泊業など一部の業種のお客様を除いて、コロナの影響はまだ顕在化していない」(片岡氏)という。

 それ以上に今、懸念しているのはウクライナ情勢。世界的に原材料高騰やサプライチェーンの問題を引き起こしているが、コロナではそれほど影響を受けなかった建築関連、自動車部品関連に影響を及ぼす恐れがある。「ジワジワとした影響度の方が奥深いものがある」(片岡氏)

 そのため、横浜銀行の支店では顧客企業の資金繰り支援に加えて、必要に応じて業種転換やビジネスモデルの転換についてアドバイスをしている。

 この活動は、今回の中計の大きな柱につながる。それは「ソリューション・カンパニーへの転換」である。

 これまでも、横浜銀行は従来型の貸出ビジネスだけでなく、「提案型ビジネス」を進めることを打ち出していた。では、ソリューション・カンパニーとはどのような姿を描いているのか。

「言葉だけ聞くと『ソリューション・カンパニーって何だろう? 』と思われる方も多いと思う。地域金融機関にとって、お客様に課題や悩みがあった時に最初にご連絡していただけるかどうかが最も重要。我々で全て解決できなくても『横浜銀行なら何とかしてくれる』という信頼の表れであり、そこに向けて前向きに提案をし、お客様と伴走しながら進めるのがソリューションビジネス」と片岡氏。

 これまでの提案型ビジネスの中でも、少しずつだが実績が積み重なりつつある。例えば企業のMBO(経営陣による買収)の支援や、22年4月からの東京証券取引所の市場再編に関連して、企業に対して、行きたい市場に上場するためのアドバイスなどをしている。

 今後は優先株の引き受けなど、企業の資本政策を手掛けていくことも検討中。これまでとは違うリスク管理が必要になるため、その準備をしている。

 さらには世界的な「脱炭素」の流れの中、「サステナブルファイナンス」の提供なども進めていく。すでに22年3月には第1号案件として神奈川県の富士屋ホテルに対し、SDGs(持続可能な開発目標)に取り組む企業への融資である「ポジティブインパクトファイナンス」を13億円実行している。

 従来の貸出業務は基盤であるとともに、ソリューションの中の1つのメニューということになる。ただ、これまで以上に資金のニーズは多様化しており、この対応が求められている。「普通の貸出は横浜銀行だけど、少し難しい話はメガバンクということではメインバンクの役割を果たせていない。今後、幅広いメニューを揃えていくことが課題となる」

 顧客の多様なニーズに応えていくためには、行員もこれまでとは違う能力が求められるようになる。そこで行員に対しては「リスキリング」(学び直し)も進めている。

 これまで横浜銀行は他の銀行と同様、店舗の統廃合や業務プロセスの見直しによって、業務量を削減してきた。

 特に事務を担っていた人達の仕事が減ったが、研修などを進めて営業やデジタル関係、住宅ローン分野など他の職種で働けるように促す。

 他にも「タレントマネジメント」といって、個々人に5年後、10年後のキャリアを描いてもらい、本人の意思、適性に合わせて異動や研修を行う取り組みも進める。

 それによって、どんなスキルを持った人が、どのくらいいるのかを全社で把握、そのデータを経営陣が人的資源配分に生かしていく。

 また、将来の幹部候補生を選抜しての研修も実施するなど、あらゆる方面から組織力の強化に努めている。「これらの取り組みはソリューション・カンパニーになっていくために非常に重要」と片岡氏は語る。

行員が育つことが「顧客本位」につながる
 片岡氏は1967年1月神奈川県生まれ。90年に東京理科大学理学部を卒業後、横浜銀行入行。応用数学を専攻していたが当時、大手都市銀行では「金融工学」、生命保険会社は「アクチュアリー」(保険数理人)の面で理系人材を欲していた。

 片岡氏もそうした方面の企業も回ったが、メーカーの研究職で内定が出た。しかし、「この時でなければ、いろいろな企業の話が聞けない」として就職活動を続けた。

 その中の1社が横浜銀行だった。片岡氏は「そこでお会いした方に、すごくご縁を感じた」と振り返る。その先輩行員は別の大学の理系出身だった。そして自身が神奈川県横浜市生まれであることを改めて実感し、「自分の可能性が広がるかもしれない」として横浜銀行に入ることを決めた。

 最初に配属されたのは神奈川県鎌倉市の大船支店。当時は今以上に営業数字への要求が厳しく、「成果が上がらないとなかなか帰れないという雰囲気があった」と笑う。

 仕事は厳しかったが、「みんなでやっていくんだという雰囲気があったし、上司も厳しかったけれども、きちんとフォローしてくれた」と振り返る。

 むしろ今、足りないのはこの「情」の部分ではないかというのが片岡氏の問題意識。「効率化はもちろん大事だが、それを求め過ぎて、当時にはあった大事なものが失われている。全てを解決するのは難しいが、上司の部下に対する関心の持ち方、『育ててやろう』という意識はいつの時代でも必要」

 このことを片岡氏は就任後の部店長会議でも強調。「我々がステークホルダーの中で大切にしなければいけないのは行員。そうしなければお客様にサービスができないし、結果として収益が上がらず、株主に報いることもできない。『お客様本位』であるためにも行員に育ってもらい、モチベーションを上げてもらうことが重要ではないか」

 デジタル化、効率化が進む今だからこそ、改めて「人」の力が大事だという片岡氏。銀行として目指す「ソリューション・カンパニー」への転換を実現するためにも、それを担う「人」の力をいかに高めるか。片岡氏の双肩にかかる責任は重い。

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