【パナソニックHD】楠見雄規が語る“創業者・松下幸之助の思いを今一度”
財界オンライン / 2022年5月11日 18時0分
液晶も電池も装置産業であることに変わりはないが…
「それぞれの事業の競争力、お客様へのお役立ちがはっきりとしてくれば、お客様が選んでくれる。そうなるための投資をしていかなければならないし、社員が安心して自分の能力を全力で傾けて挑戦でき、その挑戦が評価されて、お客様に喜んでもらえる会社になりたい」
こう語るのは、パナソニックホールディングス社長グループCEO(最高経営責任者)の楠見雄規氏。
今年4月から持ち株会社となり、新たなグループ体制に移行したパナソニック。新たなグループ体制は、個々の事業会社が主役だとして、社内では”事業会社制”と呼ばれる。同社には創業者の松下幸之助氏が1933年に事業部制を導入し、”自主責任経営”を徹底させてきたという歴史がある。
その後、2001年に当時の社長、中村邦夫氏が事業部間の重複を解消しようと事業部制を廃止。しかし、徐々に責任が曖昧になったとして、2013年に前社長(現会長)の津賀一宏氏が事業部制を復活させていた。
時代によって、あるべき組織の姿は変わってくる。構造改革に終わりはないとはいえ、2000年代に入ってから、社長が交代する度に体制が変わるため、社内では「頻繁に組織を変えるので名刺が変わる」(40代社員)というボヤキも聞かれる。いわば、”構造改革疲れ”も指摘される中での新たなグループ体制の発足となった。
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新生パナソニックが成長領域に位置づけるのが、車載電池、サプライチェーンソフトウェア、空質空調。これら3領域へ2024年度までに4千億円を投資する。特に同社がここ数年注力するのが車載電池事業である。
近年は世界で電気自動車(EV)シフトが進み、車載電池の開発競争が激化。パナソニックは2010年に米テスラに出資し、これまで米ネバダ州にあるテスラの車載電池工場に2千億円超の巨額投資を実施。約800億円を投じて和歌山工場で生産ラインの新設も決めた。
ただ、ここに立ちはだかるのが、世界シェア1位の中国寧徳時代新能源科技(CATL)や同2位の韓国LG化学などの中韓勢。数千億円から兆円単位の投資を打ち出し、車載電池の開発競争をリードしようとしている。
同3位・パナソニックはすでに保有するテスラ株式を売却。昨年、約7700億円を投じて成長領域の一つであるサプライチェーンソフトウェアを強化するため、米ソフトウェア大手・ブルーヨンダーを買収し、その買収資金に充てたからだ。それ故、同社の投資余力は減少している。
その意味で、同社の投資規模は中韓メーカーに見劣りしており、かつてテレビ向けのパネルで韓国メーカーに主役の座を奪われた二の舞にならないかという懸念は常に付きまとう。
そうした懸念に対し、楠見氏は「液晶も電池も装置産業であることは変わらないように見えるが、電池は形状が変わらない限り、容量は中身のケミカルの進化によって変化していく。当社はどちらかというとケミカルの進化は強かったが、生産性は後手に回っているところがあった。そこは徹底的に変えていき、厳しい競争であることは確かだが、そこに勝てるかどうかを見極めながらやっていく」と語る。
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創業者が確立した基本方針に立ち返って
1965年生まれの楠見氏は京都大学大学院から89年に同社へ入社。創業者の松下幸之助氏は89年4月に亡くなっており、楠見氏が入社した直後。創業者を知る最後の世代でもある。それゆえ、楠見氏は昨年6月の社長就任以来、松下幸之助氏が確立した基本方針に立ち返ると繰り返してきた。
「1932年の第1回創業記念式で、創業者は精神的な安定と物資の無尽蔵な供給が相まって初めて人生の幸福が安定するということを言っている。真の使命というのは、人生の幸福を安定させること。幸福を安定させるということを英語に直したら、サステナブル・ハピネス。イコール、ウエルビーイングだ。当社はもともとそういうことを目指していたのに、ある時から忘れていた。そういうことを思い起こすためにも、原点に立ち返る。経営の基本の考え方に立ち返る」と語る楠見氏。
創業者の思いに今一度立ち返り、”人”のためになる商品やサービスをいかにつくっていくか。楠見氏の覚悟と実行力が問われている。
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