ロシアのウクライナ侵攻が突きつける「根源的命題」【私の雑記帳】
財界オンライン / 2022年5月14日 11時30分
『解』を求めるには? 冷静な頭脳と暖かい心─。
経済学者・ケインズの師、アルフレッド・マーシャルがケンブリッジ大学の学生に対して言った言葉。
貧民街に学生たちを連れていき、どんな社会を築くかを考える際に、〝Cool Head,but Warm Heart〟とマーシャルは言ったのだという。
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リーダーのあるべき姿を説いた言葉だが、まさに今は、Cool Head(冷静な頭脳)が失われている状態。ロシアによるウクライナ侵攻は、国とは何か、個人が生きることとは何かという根源的な命題を根底から突きつけている。
リーダーの思い込みは、その国の進路を危うくする。それまで積みあげてきた秩序を一気に破壊し、互いに憎悪の念を強くし、対立を深めてしまう。
先の大戦終了(1945)から米国と旧ソ連の2大国対立の時代、つまり冷戦時代が半世紀近く続いた。それが崩れたのが、いわゆる『ベルリンの壁』崩壊である。
旧東ドイツ(東独)の首都、ベルリンには自由主義陣営の西ベルリンが存在し、自由と民主主義を求める東独の市民が壁を壊し始めた。
当時、ベルリンの東西を裂く壁をハンマーで壊す人たちの映像が世界中に流れた。
冷戦崩壊─。自由と民主主義陣営、つまり米・欧・日の西側の勝利とされた歴史的な日である。
旧東欧諸国は旧ソ連のくびきから解放され、EU(1993年発足)に加盟。また欧州側の安全保障機構であるNATO(北大西洋条約機構)に加盟するなどしてきた。
そうした流れを苦々しく思っていたロシアのプーチン大統領は、ウクライナ侵攻に踏み切った。予測不能な行動をするリーダーがこの世に存在するのだという現実。どう対処していくべきか─。
自説を曲げない者は… つくづく、いろいろな考え、主張があり、それにこだわり、自説を曲げないリーダーがいるものだと思い知らされた。
米・欧・日の自由主義陣営も「自分たちが勝ったのだ」とあまりにもはしゃぎ過ぎていたのではないだろうか。
そう思う間も、ウクライナでは戦争が繰り広げられ、戦況が芳しくないロシア側は、『核兵器』の一部使用までにおわす。
『核』は現実には使えないもの、相手に攻撃をとどまらせる抑止力だと思われてきた。その通念を吹き払うかのように、プーチン氏は核』の使用をほのめかす。
こうしたプーチン氏の思考と戦略も〝冷静な頭脳〟と呼んでいいのだろうか。生前のマーシャルもこうしたプーチン式思考を〝CoolCoolHead〟とは呼ばないだろう。もちろん〝Warm Heart〟でもない。
諦めてはいけない では、どうするか、と解を求めるとき、そこから先になかなか有効な手立てが見つからない。
この間にも、侵攻された側のウクライナでは日々死傷者が出て、それが積み重なっていく。
「もっと自由主義諸国側は支援してほしい」というウクライナ・ゼレンスキー大統領の悲痛な訴え。
米国などの西側、さらには旧東欧だが現在はEUにも加盟するポーランドなども武器の支援を行っているが、支援は武器どまり。直接、自らの軍が戦場に出てゆくなどの人的支援ではない。
NATOの加盟国であれば、同盟国が攻撃を受けた場合は自国への攻撃と見なして、軍事行動が取れるが、ウクライナはNATOの非加盟国である。
米国などが間接支援にとどまるのも、「核戦争につながらないように」という配慮からである。
いわば、西側(自由主義陣営)は抑制しているわけだが、当のロシアは「核の使用」をほのめかす発言をしており、当事者の対話は噛み合っていない。しかし、諦めてはいけない。このことだけは肝に銘じながら進んでいくほかない。
国家とはなにか? 世界に、国という意識が明確に生まれたのはウェストファリア条約(1648年)の締結からだとされる。
当時のドイツを舞台に、スウェーデン、フランス王国(フランス)など多くの欧州の国々を巻き込む〝30年戦争〟の末、結ばれたのがウェストファリア条約。
悲惨な戦いの後、宗教勢力の後退と、各国の主権の台頭が起きたということだが、国(国家)の主権を脅かす動きが21世紀の今日まで続くという現実。
日本は、こうした問題にとかく中立的立場を取ろうとしてきたが、「理非曲直を明らかにするとき」という声も高まってきた。〝日本の選択〟もまた問われている。
人への投資を! 危機の時代にあって、いかに足腰を強くしていくか─。
エネルギー、食料などの資源価格上昇が相次ぐ。インフレが進行する中で、日本は賃金上昇の遅れが目立つ。バブル経済崩壊後、1990年代初めから日本は、〝失われた30年〟といわれ、国力も低迷してきた。
生産性向上の必要性がいわれ、企業もガバナンス改革に迫られた。市場の声をもっと聞けとの圧力もあり、株主への還元は盛んに取り入れられるようになった。
企業にとって重要な資源である〝人的資源〟への対応は遅れた。
30年前、新入社員の初任給は約20万円であったが、30年経った今、約3万円しか上がっていない。人への投資、賃金引き上げという面では資源配分不足ということである。
賃金(報酬)も、本人の能力、実績に応じて支払うというジョブ型雇用を取り入れる企業も出現。日立製作所や富士通などがそうだ。
こうしたことも含め、「人」をどう扱うかで、その企業の人気度も左右される時代だ。
小野直樹さんの変化対応 「変化適応力を付けようと言っています。その際、脱炭素といった大きなトレンドは見間違わないようにして、足下はこうだよという考え方で臨んでいます」と語るのは、三菱マテリアル社長・小野直樹さん。
今は、資源高騰の局面。自動車のEV(電動化)で、銅は1台当たりの使用量が今の3.5倍から4倍にハネ上がるといわれ、銅の重要性はさらに増す。
資源確保の観点から、これからは「リサイクル原料を大切にしていきたい」と小野さん。
ウクライナ危機の中で、この資源循環という考え方は益々強まりそうだ。
同社はE-Scrapという考えの下、「廃電子機器から金・銀・銅その他諸々の金属物を回収するビジネスを展開しています」と小野さんは語る。
DX化も大きな課題で、小野さんは3つのミッションを掲げる。
「1つは、今を強くする。そして明日を創る。これは将来に向けて何をすべきか、ということ。3つ目が人を育てるです」
社長と社員の距離を近くして、対話を重ねながら、変化適応力を高めたいという小野さんだ。
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