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【政界】安定政権か、それとも衰退を辿るのか?7月の参院選で分水嶺を迎える岸田首相

財界オンライン / 2022年6月1日 11時30分

イラスト・山田紳

※2022年5月25日時点

大型国政選挙のない「黄金の3年」といわれる期間を手に入れることができるのか─。長期政権を目指す首相の岸田文雄にとって今後のキーワードは支持率維持、ダメージコントロール、外交成果となる。その頭文字は「SDGs(持続可能な開発目標)」。まさに〝持続可能な政権目標〟といったところ。夏の参院選まで1カ月余。いよいよ永田町は今年最大のヤマ場を迎える。

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ダメージ回避

 岸田内閣が発足して半年以上経つが、これまで安定した内閣支持率で推移している。主要報道機関の4月の世論調査をみると、朝日新聞=55%(16~17日実施)▽毎日新聞=50%(23日実施)▽読売新聞=59%(1~3日実施)▽NHK=53%(8~10日実施)▽共同通信=58・7%(16~17日実施)─と、いずれも50%を超す。

 もっとも、岸田内閣は積極的な支持層に支えられているといはいえない。これまで決定的な失政やスキャンダルがなく、「他の内閣より良さそう」「自民党中心の内閣だから」など、薄く広がる「何となく…」という雰囲気が好感されているようだ。

「内閣支持率の数字について一喜一憂はしない。世論調査に表れた国民の皆様の声を真摯に受け止め、政府としての対応に活かしていくことが重要だ」(官房長官の松野博一)との姿勢を示しているが、逆風が吹けば失速しかねないという危機感が常につきまとう。

 中でも岸田政権が神経をとがらせているのが、2022年度補正予算案を巡る野党との攻防だ。「6月22日告示―7月10日投開票」が有力視される参院選を控え、6月15日の会期末に向けた論戦は波乱要因となるからだ。

 政府・与党は4月下旬、補正予算案を編成し、今国会で成立を目指すことを決めた。物価高騰を受けた経済対策や、低所得世帯の子ども1人当たり5万円の支給などの緊急対策を実施するため、財源として22年度予算の予備費を充当する。補正予算案は、その補充などのため2兆7000億円規模となる。

 野党側は早くも「予備費の積み増しで、国会軽視だ」と反発している。立憲民主党の小川淳也政調会長は4月28日の記者会見で、「様々な物価対策、生活困窮者支援などを予備費から流用して、その予備費を埋め戻す予算対応はありえない」と指摘し、「国会の審議や国会の関与を形骸化しかねない。極めて重大な問題がある」と批判した。

 予備費は、自然災害など本予算を編成した段階で予見できなかった事態が起きた際、迅速な措置を講じるための費用。事前の国会審議を経ずに政府の裁量で使用できることから、使途のチェックが甘くなりかねない。



激化する最終攻防

 今回、与党内にも予備費の積み増しに対して「どんどん積み増して、政府が自由に使えるようにするのはおかしい」といった慎重論もあった。野党側は2兆7000億円という規模が物価高対策として不十分なことも追及する構えだ。

 5月中に補正予算案を国会提出し、6月3日に財務相・鈴木俊一の財政演説を行い、各党の代表質問を実施。6月8、9両日に衆院予算委員会で審議し、9日のうちに衆院本会議で可決、参院送付する。参院でも2日間の予算委員会審議を行い、13日の参院本会議で成立させ
る。与党は、そんなシナリオを描く。

 一方、野党側は衆参予算委員会をそれぞれ3日間ずつ開催するよう要求。さらに、ロシアによるウクライナ侵略や、それに伴う物価高騰などをテーマにした集中審議も求めている。会期末が近づけば閣僚の問責決議案や内閣不信任決議案を連発し、日程闘争に出ることも想定される。

 最終盤の国会日程は窮屈で、少しでも予算委員会が紛糾すれば、岸田政権はたちまち窮地に追い込まれる。自民党幹部は「野党は参院選前の最後の見せ場として、厳しく追及してくるだろう。あらゆる手を使って内閣支持率ダウンを狙ってくるはずだ」と警戒を隠さない。

 政権中枢からは「補正予算案の審議を一番やりたくなかったのが首相だった。野党に攻撃する機会を与えたことで、支持率は確実に下落する」といったボヤキも漏れる。

 予算委員会を開催する以上、もはや岸田政権がダメージを受けることは避けられそうにない。大きく傷口が開けば、癒す間もなく参院選に突入することになる。いかに内閣支持率に影響しないよう、ダメージを最小限に食い止めるかが補正予算案審議の焦点となる。

 もともと自民党は、このタイミングでの予算委員会の開催は避けるべきだと主張してきた。野党側が岸田を攻めあぐねていることから「手堅い守り」に徹すべきだとの判断が主流で、参院選後に本格的な経済対策を盛り込んだ補正予算案を編成し、秋の臨時国会で成立させる段取りを描いていた。

 ところが、連立を組む公明党が今国会での補正予算成立を強固に主張し、最終的に自民党が押し込まれた。公明党とは参院選で互いの候補者を推薦しあう「相互推薦」を巡り、隙間風が吹いていた。そのため、決定的な亀裂が生じることを避けようとして自民党が譲歩した格好だった。



慎重だった理由

 自民党が慎重だったのは、もうひとつ理由があった。大型国政選挙の前に補正予算案を審議することは「過去の例をみても良い結果になった試しがない」(自民党関係者)からだ。

 実際、これまで首相退陣や政権交代につながった例が多い。1993年の宮沢喜一政権は6月に内閣不信任案が可決され衆院解散に踏み切るが、自民党は過半数割れし、政権交代した。98年の橋本龍太郎政権では参院選で敗北し、首相退陣に追い込まれた。さらに2009年の麻生太郎政権でも衆院選で敗れ、政権交代を許している。

 自民党の参院側からは「このまま波風を立てずに参院選まで行ってほしかった。何が起きるか不安だ」といった声があがる。自公間のしこりが残るだけに、もはや「守り」に徹しているのでは参院選を乗り切る展望が開けそうにない。

 それでも、岸田にとって好材料もある。今後、各国首脳との直接会談や国際会議が多く予定されているのだ。

 ウクライナ侵略を続けるロシアに対し、主要7カ国(G7)と連携しながら厳しい態度を示してきたことは、世論の支持を得ている。仮に国会論戦で野党に厳しく追及され、支持率が下落傾向になったとしても、外交成果で世論の好感を取り戻すことができるとされる。

「帰国後も外交日程が目白押しだ。ウクライナ危機を乗り越え、平和秩序、自由と民主主義を守り抜く。日本が国際社会の中で『日本ならでは』の最大限の貢献をしていく。そうした日本国民の強い決意を背景に、首相として『新時代リアリズム外交』を本格的に動かしていく」

 大型連休中に東南アジア、欧州の6カ国を歴訪した岸田は5月5日、最後の訪問国となったイギリスで記者会見し、そう訴えた。

 不透明な国際情勢を踏まえ「日米同盟をさらなる高みに引き上げていく。また、『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けて日米豪印の首脳会談やASEAN(東南アジア諸国連合)各首脳との緊密な対面外交も積極的に進めていく」と語った。

 岸田は帰国後の5月11日、来日したフィンランドのマリン首相と会談。12日には欧州連合(EU)のミシェル欧州理事会議長、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長と日EU定期首脳協議を行った。協議の対面開催は3年ぶり。

 岸田は「日本にとって基本的価値を共有するEUは国際社会の共通の課題に共に取り組む重要なパートナーだ」と強調。日本とEUが協調し、強力な対ロ制裁とウクライナ支援の強化で連携していくことなどを確認した。経済安全保障やエネルギー分野、気候変動対策など様々な分野で協力していくことでも合意した。

 その後も初来日する米国のバイデン大統領との日米首脳会談や、岸田が主催する日米豪印の枠組み「クアッド」の首脳会合などの外交日程をこなす。

 6月に入ってからも、シンガポールで10日から開かれるアジア安全保障会議に出席する予定だ。同会議は防衛相が出席することが多いが、岸田自身が出席し、ウクライナ侵略を続けるロシアに対抗するための結束や、東・南シナ海への進出を活発化させる中国に対する連携を呼びかける構えだ。さらに、参院選告示後の26~28日はドイツ南部エルマウで開催されるG7首脳会議に出席する。



示せるか外交成果

 緊迫するウクライナ情勢はもちろん、沖縄県の尖閣諸島の周辺海域で挑発的な活動を続ける中国や、弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮などの脅威が増しており、野党にとって、積極的に首脳外交を重ねる岸田を批判しづらい。岸田にとっては、メディアに露出する機会が増えることから、自身が掲げる日米同盟関係の深化や「自由で開かれたインド太平洋」の実現をアピールする好機となる。

「厳しさと複雑さを増す国際情勢の中で、日本外交のしたたかさが試される1年になる」(1月の施政方針演説)と語っていた岸田。安倍晋三政権時代に約4年8カ月も外相を務め、外交は「得意分野」とされる。それだけに、ハイペースで展開する首脳外交で一定の成果を示せれば、引き続き安定した内閣支持率を続けることができる。

 だが、ロシアによるウクライナ侵略が始まった頃、日本国内でもエネルギーや穀物の価格に上昇圧力がかかることを見通せていたら、もっと早い時期に大胆な経済対策を打てたはずだ。補正予算案を巡っても迷走せずに済んだだろう。

 得意分野は「諸刃の剣」でもある。世論の追い風が期待できる一方で、上手くいくと確信していることでつまずくと、大きなダメージを受けることになる。

 様々な不安材料を抱えながらも堅調な内閣支持率を維持し、参院選に勝利すれば、岸田は大型国政選挙がなく安定した政権運営が可能になる「黄金の3年」と言われる期間を手に入れることができる。そのための天王山となる国会最終盤。

 長期政権となるのか、それとも衰退の一途を辿るのか。分水嶺を迎える7月の参院選を前に岸田の「SDGs」から目が離せそうにない。 (敬称略)

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