【宅建業法改正】住友不動産が他社に先んじて 「電子契約」にカジを切った理由
財界オンライン / 2022年6月14日 18時0分
「一生の買い物」と言われる住宅の検討から申し込み、契約までが「非対面」、「オンライン」で可能に――。宅地建物取引業法が改正され、不動産取引における「電子契約」が解禁された。これで不動産の取引の工程全てをオンライン、非対面で行うことが可能になった。不動産大手で、この「新常態」にいち早く対応しているのが住友不動産。改正法施行翌日から、新築分譲マンション、分譲戸建ての全物件で電子契約を導入。不動産取引はどう変わっていくのか。
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不動産業界の「DX化」が加速するか?
2022年5月18日、宅地建物取引業法(宅建業法)の改正法が施行された。この改正法の施行により、契約時の押印が廃止され、さらに重要事項説明書や契約書を紙ではなく、デジタルデータで顧客に渡すことが可能になった。これによって不動産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速することが期待されている。
不動産大手の中で、いち早くこの電子契約への対応を進めているのが住友不動産。22年5月19日には新築分譲マンション・分譲戸建ての売買契約において、全物件で電子契約を導入することを明らかにしている。
「契約の手前までの手続きは、それ以前にオンライン化できていたので、電子契約に対する拒否感は社内に少なかった」と話すのは、住友不動産で電子契約の社内マニュアルづくりなどを担当した、住宅分譲事業本部営業部営業業務係長の吉田進次氏。
ただ、紙をデジタルに置き換える際には、顧客にわかりやすい契約の流れをいかにつくるか、注意すべきポイントはどこか、機器の操作を間違えないようにはどうしたらいいかなど、それまでとは違うノウハウが必要。そこで吉田氏らが作成したマニュアルを元に、営業担当者達は入念な研修に取り組んだ。
5月19日に電子契約を導入したが、それ以前から一部の顧客にはその案内をしていたこともあってか、それ以降、5月27日現在までの契約のうち、9割が電子契約になった。中には、改正法施行後に契約したいといって、契約を先延ばしにした顧客もいたという。
海外に在住する日本人が帰国する時に、「このエリアの新築物件が欲しい」と物件の検討から契約まで、全てオンラインで完結した事例もあった。
顧客にとっては、何度も現地や展示施設に行く必要がなくなり、自宅で申し込みや契約ができる上、膨大な契約書類を保管しなくて済み、さらには契約時に物件価格によって数万円かかっていた「印紙税」も不要になるといったメリットがある。実際、顧客からは「契約が楽に終わった」、「印紙税がかからなくてよかった」という声が上がる。
例えば土日ごとに内覧や、重要事項説明や契約のためにモデルルームを訪れる必要がなくなり、平日の夜にオンラインで営業担当者に疑問点を確認したり、物件を内覧することもできるようになった。
ちなみに、電子契約を選ばなかった残りの1割は「記念に書類を紙で残したかった」、「一大イベントだから、親からも契約書を紙で残しなさいと言われている」といった理由。中にはPCやスマートフォンといった対応できる機器を持っていないという人もいた。
検討から契約までオンラインで完結した事例も
実際に電子契約に取り組んだ現場の営業担当者の反応はどうだったのか。「書類を電子契約用に作成するのは確かに大変だったようだが、その後からは『手続き、契約が非常に楽になった』という声が多い」(吉田氏)
今回の電子契約の導入は法改正によるものだけに、当然、他の大手も取り組む。だが、住友不動産が顧客が自宅にいながら契約できるようにしているのに対し、他社は顧客を販売センターなどに呼んで、そこで電子契約をするという形態がほとんど。これは大きな違い。
機器の不具合が怖い、本人確認をどうするかといったことが主な理由と見られるが、なぜ住友不動産は完全オンラインに切り替えることができたのか。
「社内では、当社もお客様を販売センターなどにお呼びした方がいいのではないか?という議論も確かにあった。しかし、契約前までの工程を非対面化して運用した経験の中で、契約を遠隔で行っても問題ないという意識が醸成されていた」
不動産の契約において本人確認は重要。住友不動産では、物件購入の申し込みや銀行の事前審査の段階で本人確認書類と本人の照合を徹底している他、契約がオンラインだった場合にも、事前に契約書類は送らず、画面上で本人と確認書類を照合した上で送付する形を取っている。それによって家族や他者に書類を送ってしまうといった間違いを防いでいる。
前述のように、住友不動産は契約より前の工程を非対面、オンライン化してきていた。20年6月には「リモート・マンション販売」を導入、同7月には非対面販売を強化するために都内で展開するマンションギャラリー内に「リモート販売センター」を開設するなどしてきた。
「コロナ禍にあって、お客様へのご案内の機会、我々の販売機会を逃したくないと、会社として業界に先んじて一気にカジを切った形」(吉田氏)
契約までの工程が非対面化、オンライン化されたことにより、営業担当者は不動産の売り主、買い主への対応といった「本業」にこれまで以上に注力できるようになった。「コロナ禍や法改正を受けた取り組みだったが、今や我々の営業には欠かせないツールとなった」と吉田氏。
不動産のDXに詳しい、ニッセイ基礎研究所准主任研究員の佐久間誠氏は「購入者、不動産会社双方にとって煩雑だった作業が電子化されることで、より有益なことに時間を使うことができるようになる。さらにデータベースの構築が進むことで、不動産取引のさらなる透明化が期待される」と話す。
顧客が求めていればリアル、オンライン関係なく取り入れる。今後はさらなるペーパーレス化、オンライン上で取得した情報を活用したデータベースの構築などが課題になる。高額な不動産取引でも確実にデジタル化が進む。
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