【イメージワン・島岡潤社長】CTやMRIの画像のシステムの構築・運用から「出向く医療」の提案
財界オンライン / 2022年6月28日 15時0分
しまおか・じゅん
1979年三重県生まれ。県立高校卒業。98年和歌山県新宮市にあるマグロ卸・販売会社のKFKサービスに入社。営業担当としてトップクラスの成績を上げる。2003年保険・金融コンサルティング会社のファーラウトを創業。21年イメージワン執行役員などを経て、同年12月より現職。
「医療において最も大事なことは『待つ』ではなく『出向く』こと」――。こう語るのは東証スタンダードに上場する医療関連システムの構築・運用などを手掛けるイメージワン社長の島岡潤氏だ。同社はCTなどの検査装置や医師を乗せたトラックがへき地や災害地に出向いて医療を提供する――。そんな構想を打ち出している。島岡氏は金融サービスの会社を創業した起業家。自らイメージワンに出資して新たな事業の構築を図っている。自らの強みをどのように生かし、医療業界の課題を解決しようとしているのか直撃した。
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遠隔画像診断支援サービスで医療現場の負担を軽減
―― 衛星画像の販売を起点とし、今では自社開発の医療画像の保管や配信、表示システムが主力事業ですね。
島岡 1984年に画像処理関連機器と電子計測機器の輸入販売を開始し、89年に衛星画像事業に進出。92年から医療診断画像処理機器の輸入販売を開始し、医療画像事業に進出しました。40年近い歴史があります。
2000年に当時のナスダック・ジャパン市場(現東証スタンダード市場)に上場したのですが、当社のメインとなる事業がメディカルシステム事業になります。医療機関の放射線科のCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)といった画像のシステムの構築や運用などを手掛けています。
CTやMRIといった医療検査機器による画像診断は多くの疾患の診断に不可欠な方法です。全国各地の病院やクリニックに導入されているのですが、これらの機器の機能向上によって高度な検査が行われ、画像診断に対する需要も増加し、精度の向上も求められる傾向にあります。
ところが一方で、検査機器の高度化により、1人の臨床医や放射線科医が全ての臓器や検査機器に精通し、最適な読影を行うことが難しくなってきていると言われているのです。
―― そういった現場の負担をシステムで軽減させると。
島岡 ええ。このような高度医療への対応や専門医雇用、経営負担といった問題をいち早く解決し、さらに放射線画像診断装置の稼働率の向上や患者様に対する診療時間の短縮、信頼性の向上につながる「遠隔画像診断支援サービス」を提供しています。このサービスは25年ほどの歴史があります。
―― 上場当時は珍しい職種だったと言えますね。
島岡 そうですね。当時、脳や肺、胃といった患部撮影画像を保管する画像ファイリングシステム(PACS)の構築では当社ははしりでした。ただ、その後は競合も出てきました。
そこで当社は新たなシステムを構築し、今では完全クラウドに対応して病院業務の省力化やサービス提供の短縮化などを実現する電子カルテ事業や電子カルテをはじめ、各部門のシステムのデータを1つに統合して患者データや検査履歴を俯瞰的に参照できる総合画像・文書管理システムなどを提供しています。
医療機関の未収医療費を保証するサービスで起業
―― そもそも島岡さんは生え抜き社員ではありませんね。
島岡 ええ。当社への入社は去年の11月1日で、12月20日の株主総会で代表になりました。私は以前から起業して病院の仕事には携わってきました。私が最初に立ち上げた会社が2004年創業の金融サービスのファーラウト。患者様に支払っていただけない医療機関の未収医療費の保証制度を作りました。
―― 病院にとって頭の痛い課題に乗り出したわけですね。
島岡 はい。病院の抱える課題として最も頭を悩ませるものが未収医療費です。病院では患者様がお金を払ってくれるかどうかをチェックしてから入院させるわけではありません。まず患者様を受け入れて治療します。
しかし、その患者様からきちんと医療費を払ってもらえるかどうかは別の問題になります。特に急性期の病院では退院されたまま未払いになるケースが多かったのです。しかも、病院の事務員にとっては医療費の未回収が増えれば、それを回収するという作業負担が増えます。ファーラウトでは、そういった未収分の医療費を保証するサービスを提供していました。
―― ファーラウトを創業したときは何歳でしたか。
島岡 23歳です。それまでは和歌山県の新宮市にあるマグロを扱う食品会社で働いていました。その後、ファーラウトを創業し、経営状況が良くなかったイメージワンに出資。経営再建を進めるという形で社長に就任したという経緯になります。
―― イメージワンを再建できると思った根拠は何ですか。
島岡 医療に特化した強みがあるからです。その強みを基盤にして事業領域を大きくすることができると考えています。実際に今も事業領域を大きくしている最中で、医療情報システム以外では、病院で使う検査・検診用ニトリルグローブやPCR検査機器、臨床検査用試薬といった消耗品の販売を手掛けるメディカルサプライ事業を拡大しているところです。
このうち、コロナ禍ではニトリルグローブの「レイワグローブ」がとても好調でした。当社が商品開発をしたのですが、コロナ禍で医療用グローブの需要が高まった際、流通価格が急騰したのですが、当社の製品はコロナ前の値段に戻しました。
いち早く海外の工場と提携し、早く値段を戻すことができたのです。ですから、価格的優位性が大きかった。また、製品のクオリティーも評価されましたね。そのため、ライバル企業よりも安い価格で提供できました。
―― 何が求められているのかを的確に判断していったのですね。医療関連システムを活かしたビジネスもあるのですか。
島岡 はい。新たに取り組んでいるのが医療×MaaS事業です。新たな時代のヘルスケアモビリティを活用したサービスを構築し、平時のへき地医療や発熱外来、健康診断などのサービスをはじめ、有事の災害医療の提供などの幅広い医療サービスの提供が可能になります。
へき地医療や災害医療で活躍する新たな医療を提案
―― 具体的にどのようなサービスになるのですか。
島岡 CT装置や超音波診断装置、免疫・生化学分析装置などの検体検査機器を搭載した検査用車両と発電機や検体検査関連機器、管理薬品・試薬保管用冷蔵庫を備えた電源用車両の2台で運用します。トラック車両を改造したものになるので、「出向き医療」がテーマで、来年度の納車を予定しています。
この「メディカル・コネクス」という車両内で行ったCTや超音波の検査であったり、検体検査の結果は、車内ですぐに分かるようになっています。また、電源も積んでいるため、災害などの有事が発生した際の災害医療では、災害が発生した現地に駆け付けることができます。
東日本大震災のときも、沿岸部に近い場所にあった病院は津波で流され、その付近は医療崩壊をしてしまいました。しかし、メディカル・コネクスのような車両があれば、有事のときでもしっかりとした医療を提供し、災害医療に対応することができます。これは全国でも当社が先駆けて行う取り組みになります。
―― やはり地方自治体のニーズが大きいのでしょうか。
島岡 自治体や自衛隊も興味を示してくれています。当社がメディカル・コネクスを所有して車両を使っていただくケースと地方自治体などにご購入いただくケースの両方が考えられます。おそらく後者の販売がメインになると思います。ですから、都道府県が所有して病院が搬送のために使うドクターヘリのような流れになるかもしれません。
―― メディカル・コネクスは国内で作っているのですか。
島岡 ええ。UDトラックスが製造を担っています。ただ、中身に搭載する機材などはシーメンスヘルスケア社の製品になります。シーメンスと当社は業務提携をしており、メディカル・コネクスは日本の仕様で製造しました。平時のへき地医療と有事の災害医療という2つのテーマを掲げて検討してきた結果、メディカル・コネクスの開発につながっていきました。
シーメンスヘルスケアが開発した移動型医療ソリューション「メディカル・コネクス」では、臨床検査などができる仕様になっている
やはり医療において最も大事なことは「待つ」ではなく「出向く」ことだと思うのです。これまでの医療は患者様に病院まで来てもらい、患者様を待っていることが当たり前でしたが、そうではないと。むしろ病院が患者様のもとに出向くことが今後の医療サービスのテーマになるのではないかと思うのです。
―― サービス提供の対象地域はどう考えていますか。
島岡 全国です。ただその場合は、本州、九州、四国といった形で地区ごとに分けて取り組んでいかなければならないと考えています。要はメディカル・コネクスを使ってどの部分の社会課題を解決するかを定めることが一番大事なのです。
例えば救急の現場へ行くと、救急車の搬送件数はこの10年ずっと右肩上がりです。受け入れる病院が見つからず、たらい回しになってしまうケースが後を絶ちません。そういう場合に、救急隊から提案されているのが、救急隊が医師を乗せたメディカル・コネクスを運転し、自分たちから患者様のところへ出向くことができるのではないかと。
救急隊の方々が、自分たちがそれをやるのが一番い早いのではないかという現場としての意見を持っているわけです。そうすると、誰がメディカル・コネクスを所有するのかという話になります。そこで都道府県が所有すればいち早く普及していくのではないかと思っています。
―― 患者の下に早く駆け付けられれば治療も早くできます。
島岡 そうです。その点、東京都内にはあまりニーズがないかもしれません。東京都内には病院がたくさんありますからね。むしろ、郊外や地方に実用性があると考えています。それから南海トラフ地震が懸念される高知県や和歌山県、三重県などが関心を持ってくれています。
国は病院の病床数を減らそうとしていますが、過疎地にある病院の病床数が減るとなると、地域住民の反対も当然出てくるでしょう。そういったところでも、このメディカル・コネクスを病床数の減少を補うために仕えないかと考えています。
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