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みずほ銀行頭取・加藤勝彦の「現場行脚」「お客様を知るために行動して欲しい」

財界オンライン / 2022年6月29日 18時0分

加藤勝彦・みずほ銀行頭取

「機械は壊れるものだが、その時にお客様にご迷惑をおかけしないことが大事」─みずほ銀行頭取の加藤勝彦氏はこう話す。2021年2月に発生したシステム障害の再発防止に向けた改善計画が進む中、ようやく前向きな機運も出てきた。加藤氏は歴代頭取の中でも最も長い現場経験を持ち、繰り返しシステムを含めた「現場」の重要性を説き続けている。みずほが今後目指す姿とは。

【あわせて読みたい】【システム障害からの出直し】みずほFG社長・木原正裕は「企業風土改革」ができるか?

変化に合わせて顧客目線を柔軟に変えていく
「業務の安定というのが、今期の〝一丁目一番地〟だと考えて取り組んでいる。システム障害への対応は、それだけにとどまらず、社員が前を向くことにもつながるし、何よりもお客様がみずほを安心してご利用いただけるようになる」──こう話すのは、みずほ銀行頭取の加藤勝彦(まさひこ)氏。

 みずほ銀行では2021年2月28 日に発生したシステム障害以降、9月までに種類の異なる障害が8回にわたって発生。金融庁から2度にわたる業務改善命令を受けて、みずほフィナンシャルグループ社長の坂井辰史氏、みずほ銀行頭取の藤原弘治氏ら首脳陣が退任する事態となった。

 22年1月17日には金融庁に「業務改善計画」を提出、現在はそれを実行している最中。3月末までに障害につながる故障を起こした機器の修理・交換を終えた。この計画は今年9月末までに完了を見込んでいる。「スケジュールはもちろんあるが、それありきではなく、しっかりとした中身を形作っていく」

 同時に、この上期中は、改善計画で築いた枠組みを行内に定着させるためのフォローアップ活動も行っている。「下期から今年度いっぱい継続し、丸1年実行してみるということを今年度の最重要課題にしている」

 みずほ銀行がシステム障害を起こして以降、他の2メガバンクを始め、様々な金融機関で障害が発生している。それが大きな問題につながっていないのは、収束までの期間が短かったことも大きい。その意味で、障害が起きることを前提とした事後対応の強化が必須。

「機械は壊れるものだが、その時にお客様にご迷惑をおかけしないことが大事。単にIT部門のマターということではなく、我々経営陣がリーダーシップを発揮し、お客様と接点を持つ現場、ITの現場の意見を吸い上げて、お客様目線を持った経営をしていくことが大事」(加藤氏)

 この「現場」は、加藤氏を語る上でのキーワード。加藤氏はシンガポール、香港、韓国、ベトナムというアジアでの国際業務に15年、名古屋駐在での顧客開拓を始め8年間、国内営業に携わるなど計23年間の現場経験を持つ。これは歴代頭取の中で最も長い。

「そもそも、みずほ銀行は現場の塊。我々が存在する意味はお客様にサービスを提供してご満足いただくこと。法人であれば成長支援、個人であれば安心できる資産形成やしっかりした暮らしをサポートする。その役割を果たすためにも現場が大事」

 加藤氏は22年4月に頭取に就任して以降、本部のスタッフに対して「現場を知るために行動して欲しい」、現場に対して「お客様を知るために行動して欲しい」と訴えている。そして経営陣はそのための環境を整えると同時に、自らも顧客の所に足を運び、常に顧客目線をブラッシュアップしていくことを意識している。

「これまでの経営陣も顧客目線を持っていたと思うが、今は時代の変化が激しい。より一層、顧客目線を柔軟に変えていくことが求められる。そのためにこそ現場の意見が大事。しっかりした仕組みづくりをやっていきたい」と加藤氏。反省をしながら、その教訓を新たな時代に向けて生かす必要がある。

デジタルツールを強化し顧客の利便性を確保
 時代の変化という意味では今、デジタル抜きには金融を語れない。みずほ銀行では、この流れを受けて19年3月から「QRコード」を活用したスマホ決済サービス「J-Coin Pay」(ジェイ コイン ペイ)を開始。当初は「銀行系デジタル通貨のプラットフォーム」という位置づけだった。

 この時、みずほには強い危機感があった。サービス開始時に、当時のみずほFG社長・坂井氏は「今や、決済分野は金融機関がサービスを提供するものという常識が崩れており、銀行の『土管化』、存在意義低下という声も聞かれる」と話していた。相次ぐ金融業界へのITプラットフォーマーの参入、「黒船」到来への備えという意味合いも強かった。

 ただ、現在では少し、様相が違ってきているようだ。「今、ITプラットフォーマーと我々とは棲み分けができたのではないかと見ている。みずほが自らプラットフォーマーになるのではなく、彼らと組んで進めるのが、大きなDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略」

 実際、その後みずほはLINEとの間で「LINEクレジット」、「LINE Bank」(設立準備中)、ソフトバンクとの間で「PayPay証券」を展開。さらにはグーグルとDX分野における戦略的提携を決めている。

 一方で、自前のデジタルツールの強化も進めてきた。システム障害以前、インターネットバンキングのアプリ「みずほダイレクト」のユーザーからの評価は低迷していた。それが22年に入ってリニューアルしたところ、アップルのアプリストアでの評価が4.3にまで高まり、他2メガと遜色ない水準になった。21年度の「グッドデザイン賞」も受賞。

 みずほダイレクトをリニューアルした後、取引が25%増加したが、今後2年間で1.5倍にするという目標を持つ。「お客様のニーズは常に変化する。これにとどまることなく、海外送金機能の追加や、他社と組んでPFM(Personal Financial Management=個人資産管理)とリンクするといったことも検討していきたい」

「J-Coin Pay」の機能拡充も進める。業界では、この秋にも3メガバンクとりそな銀行、埼玉りそな銀行が参加したスマホ向け少額送金サービス「ことら」がスタートする予定。5行の他、約30行の地方銀行の参加が決まっている。

 先々は「Jデビット」に参加する地銀や信用金庫など約1300の金融機関に参加を呼びかけ、銀行発のスマホ送金サービスとして普及させる構想。

 みずほ銀行は、この「ことら」とJ-Coin Payを接続。これによって利便性を高め、ことらに入っている口座と双方向で送金が可能になる。手数料は「金額に上限はあるが、無料にする予定」(加藤氏)

 三菱UFJ銀行、三井住友銀行が自行のアプリではなく、日本電子決済推進機構が提供する業界横断の決済アプリ「Bank Pay」を利用しているのに対し、みずほ銀行は自前のアプリの利便性を高め、自行の顧客にアピールする。

銀行の役割はどうなる?
 さらに、J-Coin Payは個人だけでなく法人向けサービスも展開。22年6月8日には、企業や自治体が提供するサービスに直接組み込みが可能なチャージ型コインサービス「ハウスコイン」を発表した。

 その企業の自社店舗などに限定して利用が可能な独自コインを決済手段として、企業のスマホアプリに搭載できる。この仕組の土台となるのがJ-Coin Payの決済基盤。

 現在、大手企業や自治体などとハウスコイン導入の検討を進めており、22年度内に複数の企業にサービス導入、23年度には年間数百億円の決済を目指す。

「例えば、企業であれば従業員への給与支払い、自治体であれば給付金の交付を、この仕組みで行えるようになる。これらはITプラットフォーマーの手が入っていない領域であり、これらを自社サービスで実現できるのはみずほだけ」

 近年、みずほを始め、各銀行はコストがかかる店舗やATM(現金自動預払機)の削減を進め、顧客をデジタルツールにシフトさせようとしている。この時に、利便性をいかに確保するかが大きな課題。「店舗からATMにシフトした際にも同様の議論があった。新たなツールになじまないお客様がおられることも事実なので、そうした方はしっかりお支えしていく」

 その意味で、デジタル化など大きく環境が変化する中で、これからの時代の銀行の役割はどうなっていくのか?

「マネーロンダリング対策、お客様の情報管理など、規制もあってしっかりしたものになっており、DX時代にあっても銀行の存在感は依然として高いものがあると考えている。加えてコロナ禍のような危機でも、ファイナンスという手法では銀行の役割はあったと思う。形は変わっていくし、銀行だけでサポートする形ではなくなっていくかもしれないが、私は日本を支える重要なインフラであり続けると思っている」

 デジタル時代に向けて自らを変化させているが、日本独特の低金利下で銀行としていかに役割を果たしていくか。時代の変化という意味では、加藤氏が社会人になった1988年の預金金利は7%。当時は預金金利で多くの収益が得られたが、足元では0.001%。

 低金利下が進む中、各銀行グループは預金金利に頼らない事業に取り組むことが求められた。投資信託など証券関連商品を証券で提供、さらに資産の次世代への継承に向けて信託の機能を提供してきた。つまり、銀行だけではカバーできない領域にはグループ力で対応するという形に変わった。今後、この総合力をさらに高めていくことが求められる。

「9.11」で犠牲になった仲間の分まで…
 加藤氏は1965年5月愛知県生まれ。88年慶應義塾大学商学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)入行。前述のように13年ハノイ支店、
18年執行役員ソウル支店長など海外事業を経験した後、20年常務執行役員。

 当初は21年4月に頭取に昇格することが決まっていたが、2月に発生したシステム障害を受けて、昇格人事が「凍結」、さらには「白紙撤回」される事態となり、21年4月から副頭取に就任し、当時頭取の藤原氏を支えて活動することになった。

 自身の処遇も見えない中、顧客対応や従業員との対話を繰り返す日々だったが「自分のすべきことをしてきたつもり。この1年が私にとっては大事だったということは間違いない」と振り返る。

 加藤氏は愛知県で米店を営む家に生まれた。中学、高校と東海高校で学び、部活は剣道に打ち込み、3段を取得。「当時は周りには同じように実家が商売を営んでいる人間が多かった」と振り返る。

 大学で商学部を選んだのも、「商売をやりたい」という思いが強かったから。当初は商社志望だったが、就職活動の過程で訪れた富士銀行で出会った先輩に魅了されて、入行を決めた。他行は見ることなく、銀行で訪問したのは富士銀行だけ。「いい人達と働きたいという気持ちが強かったが、そういう人と巡り会えたことが大きかった」

 自身にとって、忘れられない記憶は「9.11」、アメリカ同時多発テロ事件。加藤氏の同窓、同期、共に寮で過ごした人達が被害に遭い、みずほの行員は23人が犠牲になった。「日本経済のために海外で働いていた彼らの思いを引き継いで仕事をしているつもり。この思いを大事に、今後も語り継いでいきたい」

 その意味で、今後は頭取として、自身が積み重ねてきたアジアを中心とする海外経験を生かす考え。「日本企業は海外に活路を見出さないと成長余地が限られる。その時に銀行は、それをサポートする機能を大いに持ち合わせている。それを発揮することで日本企業の発展、経済への貢献ができる業種。この機能は強めていきたい」

 加藤氏はアジア通貨危機、 リーマンショック共に海外勤務中に経験、何事にも〝絶対〟はないことを実感した。仕事をしてきた4カ国も、それぞれに国情が違い、ビジネスをしていく上で注意すべきことも変わってくる。それを肌で感じていることは、今後アジア圏で成長を求める上で大きいと言える。

「アジアの国々には共通して日本に対するリスペクトがあり、お役に立てる。ファイナンスだけでなく、我々がいることによって日系企業が進出できて、そこで雇用を生むこともあるし、今のグリーン化にしても、我々が日本の技術を紹介し、そこにファイナンスを付けることもできる。我々はそこに大いに貢献ができると考えている」

 足元でコロナ禍は小康状態が続いているものの、ロシアのウクライナ侵攻など、外部環境は混沌とした状況が続く。こうした状況に対しては「メインシナリオ、サブシナリオ等複数のシナリオを作成している。リスクを見極めながら取り組む1年になる。銀行が健全でなければ、お客様をお支えすることはできない」

 日本ではマイナス金利も含め、長きにわたり低金利環境が続く。経済環境もまだら模様で、その中で貸すことの難しさもあるが、その中で新たなスタートアップを含め、リスクを取って融資をしていくことも求められる。企業を見る「目」と、システム障害への備え、いずれも現場力が問われる。

 新たな金融の姿を見据えながらの、みずほ銀行の再出発である。

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