【倉本聰:富良野風話】肥担桶・考
財界オンライン / 2022年7月23日 11時30分
老人の集まりで話をする時、肥担桶の話を枕にふると、俄かにみんな親しみの笑顔になる。昔の人は殆んどの男が肥担桶をかついだ経験を持っている。
【倉本聰:富良野風話】失せ物
家の厠の肥え壷から柄杓でぐちょりと糞尿をすくい、それを2つの肥担桶に入れて天秤棒の両はじにかけ、かつぐ。それを畑に掘ってある肥溜めへ運んで流しこみ溜めるのだが、天秤棒の両端に重い肥担桶をぶら下げて歩く、この歩き方に一寸したコツがある。うまく拍子をとって歩かないと肥担桶が変な弾み方をして、中の糞尿がピョンピョン跳ね飛び、運び手の衣服を汚すからである。
地方出身の方、70歳以上の方、会社の地位で仕分けするなら大体、役員以上の方はこの経験をお持ちの筈で、やったことのない重役がおられたら、それはまだまだ未熟者だと会社の将来を心配された方がよろしい。
老人の集まりでこの経験を問うと、殆んどがニコニコと手を挙げる。
では野面の肥溜めに落ちたことのある方、と問うと、3割位がうれし気に手を挙げ、手を挙げぬものは口惜しそうな顔をする。
戦前の日本では下肥ごえを野面の肥溜めに溜め、醸成させてそれを直接畑の作物に撒いたのである。日本では江戸の昔から、糞尿は重大な資源であった。
この習慣が壊されたのは戦後の占領政策からであり、GHQは不潔であるからと、この習慣を禁止して代わりに外国産の化学肥料を日本の農村に売りつけた。以来、糞尿は単なる邪魔者、生活廃棄物となってしまった。しかし、と僕は真面目に考える。
今この廃棄物再利用の時代に、これだけ毎日大量に産み出される糞尿を、単なる廃棄物としてゴミ処理してしまって良いのだろうか。もしこの大量の物品を資源に化けさせることができたら、例えば1つの穀物を産み出せたら、地球の飢餓はどれほど救われるか。そんなことを考える科学者はいないのか。過去にそういう科学者が日本にいた。
中村浩という理学博士である。
博士はクロレラと自らの糞尿により、アリゾナの砂漠で3カ月生き延びた。NASAからの要請で未来の宇宙食のために実験されたのである。
不幸にしてこの方はもう他界されたが、この研究は画期的である。僕に言わせればノーベル賞ものである。
「食う」「出す」というのは食物循環の根元に位置するものである。ここに目をつけられたということは、まさに瞠目に値する。
ウクライナの騒動を見ていても、今科学がヒトを殺すためのツールを、凄まじい予算と情熱をもって産み出している。
人間が科学というものを発明したのは果たしてこんなことのためだったのだろうか。こんな愚かなものを考える智恵と暇とが彼らにあるなら、トイレの中でじっくり考え、今出した身近なこの物質を、宝にすべく考えて頂戴。
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